音声コンテンツ“完全リモート”制作の新サービス「あらゆるものづくりのサポートを」
●編集室に集まる“密”を解消
音声コンテンツの制作・編集が“完全リモート”で作業できる新たなパッケージサービス「AIR.」が、11日から提供を開始した。新型コロナウイルスの感染拡大防止で“密”を避けることが求められる中、複数の人数が密閉された編集室に集まる必要がなくなる画期的なシステムだ。
このサービスを開発したサウンドデザイナーの清川進也氏に、リモート取材で話を聞いた――。
○■音にまつわる制作をすべて非対面で
「AIR.」は、CMなどの音の編集、オリジナル楽曲の制作、ナレーションの録音・編集など、「音にまつわるコンテンツ制作をすべて非対面で行う」(清川氏、以下同)というもの。
従来は1つの編集室に集まっていた、ミキサー(編集マン)、ディレクター、ナレーター・演奏家、広告出稿するクライアント、広告代理店の担当者らが、複数のオンラインアプリケーションで連携することによって、それぞれ別の場所にいながら編集作業を進行することができる。
データを送受信してやり取りするため、確認・フィードバックの作業で、同じ編集室で対面するのに比べてタイムラグが生じるものの、「完全に担当者が分断されるので、各セクションの作業は集中してできる」というメリットがある。なにより自宅で作業できれば、編集所への移動時間も削減される。
さらに、「従来は、録音したデータを別室へ運んだりと、実際の人の動きというものが発生してしましたが、ネットを介してすべてデータで送受信するので、距離を超えてスピード感が上がります。
また、全員が違う場所で作業をやるという前提で入念に準備をするので、そういった意味での効率化もあると思います」と強調。今後、5Gが普及していけば、この距離感はさらに縮まっていくことが想像される。
○■細かいニュアンスは経験値でカバー
一方で、「言葉だけのコミュニケーションだと伝えられないニュアンスなど、“かゆいところに手が届く”ケアを考えると、やっぱり最終的には対面でやったほうが良いという部分もあります」と認めるが、それを補うのは清川氏の経験値だ。
「サウンドデザイナーとして培った独自の着眼点と経験値を生かして、見えない相手同士でどう“空気を読む”かが重要なポイントです。これまでの経験則に基づいたディレクションや采配で細かいニュアンスをスムーズに伝え、今までの対面やり取り以上のものも生み出せるのではないかと思っているんです」
●オーディオCMを2~3日で制作
「AIR.」では、福岡屈指の編集スタジオ「auerz」をベースに作業するが、すでにみぞえグループ、株式会社ジェイテック、大分香りの博物館という九州を拠点とする3つのクライアントが、このサービスでオリジナルのオーディオCMを制作した。
コロナ禍で従来の広告制作スタイルに変化を求められる中、完全非対面でのCM制作を提案。ゴールデンウィークに入る直前に打ち合わせをしたが、公開されたのはいずれも5月上旬という圧倒的なスピード感だ。一番早い作品は、オリエンテーションの翌日に完成させたという。
「1つの作品の例では、まず、リモートのオリエンで課題をヒアリングして、それに対して企画の方向性と根幹部をディスカッションします。そこから細部を詰め、2時間でラフができたら、それに必要なナレーターさんや楽曲制作などのオファーを行って資料化。クライアントさんにその日のうちにリモートでプレゼンします。これでOKを頂いたら、すぐ実制作に入る、という今までにはありえないスピード感で進行します」
こうした段取りで、いずれも2~3日で制作。この迅速な仕事に、クライアントからは「もうできたんですか!?」と、驚きの反響が寄せられたそうだ。
映像編集でも、共通するタイムコードを付与した素材で関係者全員が時間軸を徹底的に共有することで、細かい指示を出すことが可能になるという。ここ最近では、テレビ番組の収録も制限されている中、「例えば、過去の映像素材やCGにも、表現として足りない部分を“音”で補うことができるので、そうしたところの手助けになれれば」と意欲を示す。
○■迅速化・ブッキング・質に強み
「AIR.」のもう1つの強みは、清川氏がさまざまなプロジェクトで携わったナレーターたちとの連携だ。
『電波少年』『めちゃ×2イケてるッ!』などで知られる木村匡也氏や、『有吉反省会』『『ぷっ』すま』などでおなじみの伊津野亮氏という、広告のナレーションにはなかなか登場しない大御所をはじめ、多彩な面々が起用できるという。
清川氏は「オーディオコンテンツの制作が企画からスピーディーに実施できること。ナレーターさんとの連携を密に行って、リッチな声をコンテンツに盛り込むことができること。そして私自身がサウンドデザイナーということもあり、音を使った表現に関しては徹底的にクオリティにこだわること。この3本柱が強みになっています」とアピール。
その上で、「これから少しずつ日常生活も経済も回復し、また今まで通りの世界に戻る日が来ると信じています。その時は今までにはなかった、より新しい形の制作環境と表現の自由にあふれ、サウンドデザインという切り口と過去の経験を生かして、あらゆるものづくりのサポートができればうれしく思います。そうした未来に向けて、新しいコンテンツのあり方を模索していくというビジョンを持って取り組んでいきます」と話している。
●清川進也1976年生まれ、福岡県出身。環境音を楽曲として再構築する音楽技法(サンプリング)を得意とし、自ら映像撮影と録音を同時に行いながら収録した環境音素材による映像・音楽作品を多数発表。「NTT docomo SH-08C TOUCH WOOD 森の木琴」のCM音楽制作で、カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルでのサイバー部門とフィルムクラフト部門でサウンドデザイン金賞を受賞している。音制作以外にも地域創生事業へ精力的に取り組み、別府市『湯~園地計画!』では総合プロデューサーを務めた。