日本マイクロソフトの「次の一手」が見えた? - The Microsoft Conference 2014基調講演
日本マイクロソフトは、IT技術者向けのカンファレンスを例年開催している。同社にとって年に1度の最大規模を誇るイベントだが、今年もその季節がやってきた。10月23日に都内で開催した「The Microsoft Conference 2014」は、2日間で82セッションという内容だ。事前登録者は8,400名を超え、基調講演には立ち見客が出るほどだった。
○企業文化を変革し、新たなIT時代を目指す日本マイクロソフト
登壇した日本マイクロソフト代表執行役 社長の樋口泰行氏はまず、「どこの会社も改革を進めるためには企業文化を変化させなければならないが、(Microsoftおよび日本マイクロソフトは)現在のITにおける大きな柱となる『モバイル』『クラウド』に軸足を置くという展望の元、企業文化を変えていく」と述べた。
スライドに映し出された「マイクロソフトの文化変革」は、5つのスローガンをピックアップ。「チャレンジャー精神」は、WindowsやOffice製品で成功してきた過去があるものの、その成功にあぐらをかいてチャレンジ精神を失っているのではないか、という考えを現している。これは前CEOだったSteve Ballmer氏がタブレットなどに押し込まれた2013年までの状況も影響しているのだろう。
「お客様第一主義」だが、収入はお客様からいただいているからこそ、そちらに顔を向けなければならない、という至極まっとうな意見だ。これは過去の日本マイクロソフトが顧客に顔を向けていなかったというよりも、後述するコンシューマー視点を強化したいという意思の表れだろう。
「学ぶ姿勢・チームワーク」は常に変化する状況に対応し、個人プレイではなくチームで、時には自分の責任範囲ではないこともカバーする意味だと樋口氏は説明した。近年の日本マイクロソフトは、Windowsにこだわらないマルチプラットフォームへの対応や、Microsoft AzureとDockerの提携など柔軟な姿勢に移行しつつある。パートナー企業との連携がさらに増えたことから、このようなスローガンにいたったのではないだろうか。
冒頭のチャレンジャー精神と重なるが、「現実を踏まえた戦略」は現状を現す適切なスローガンだ。樋口氏いわく、過去はWindows一本槍で、それ以外は認めない排他的な姿勢だったと述べつつ、皆がiOSやAndroidを使うのなら自社製品を展開する。Microsoft Azureも他社製ソリューションを搭載可能にするなど、全方面へのアプローチを行うことでユーザーのメリットにつながるという。
最後の「『光る』会社に」は具体的な説明がなかったものの、新CEO・Satya Nadella氏の就任から半年強が過ぎ、自身を含む社員も企業文化変革を期待しているという。さらに「Microsoft Japan Partner Conference 2014」で発言した後出しジャンケン的な話題も再登場した。樋口氏は「モバイルやクラウド分野でも(WindowsやOfficeが成功したように)同様の展開を目指したい」とまとめている。
続けて「マイクロソフトのコア(核)」というテーマで自社の方向性を説明した。「B2B(法人向けビジネス)とB2C(個人向けビジネス)の両者の文化に対応できる企業は少ない」(樋口氏)とし、相反する部分もあるB2BとB2Cのビジネスを両立するため、両者の垣根を崩せるソリューションを提供する企業を目指すという。
さらに1964年の東京オリンピックを引用し、50年前と現在を比べてワークスタイルやライフスタイルの変化について語った。一昔前は「出張に出ればこっちのもんや」といわれることもあったが(羽目を外せるというニュアンスを含む)、今では飛行機の中でもLyncでビデオ会議をしている人を見かけたという。「仕事」がついて回る状況については、デジタルデトックス(PCやスマートフォンを使わない脱デジタルの時間を持つ健康法)が重要視されつつあるが、(ビジネスの)オンタイムは生産性をさらに向上させ、オフタイムの過ごし方という両者を考え直さなければならない、と持論を語った。
この他にも法人向けタブレットの市場拡大やタブレット用OSのシェアなどについて言及し、最後に自社製品の導入事例として、大手コンビニエンスストアフランチャイザーのローソンや、大手医薬品メーカーの中外製薬などを紹介した。
●Windows Phone 8.1も登場した最新デモンストレーション(その1)
○Windows Phone 8.1も登場した最新デモンストレーション
次に登壇したのは、日本マイクロソフト 事業執行役員 エバンジェリストの西脇資哲氏。昨年のThe Microsoft Conference 2013と同じく、各種デモンストレーションを担当した。
最初は会場に展示したWindowsタブレットとして、Adobeの「Adobe MAX 2014」で披露した「VAIO Prototype Tablet PC」や、パナソニックの「TOUGHPAD 4K UT-MA6」を紹介しつつ、自社製品であるSurface Pro 3のアピールは忘れなかった。Surface Pro 3は、Surface Pro 2の11倍の売り上げを達成し、法人向けも好調だという。
最初のデモンストレーションは、一体型マルチ決済機能付きタブレット。クレジットカードや非接触型の電子マネーカードを使って、購入品や飲食代の決済を可能にするシステムだ。iPadなどと連携した決済システムは飲食店でも見かけるが、Windowsベースのオールインワンデバイスは日本初である。
Windows Embedded 8.1 Industryを搭載したエンパシ製のEM10を用いた決済シーンでは、売り上げ管理なども披露した。
次は「Microsoft 3D Printing」と題した3Dプリンターだ。Windows 8時代からDirectXの技術を駆使したシステムとしてアピールしていたため、覚えている方も少なくないだろう。会場では3D SystemsのCube 3を使い、Windowsタブレットから造形を行った。3Dプリンターの普及をMicrosoft/日本マイクロソフトが後押しするとなると、色々と面白くなるだろう。なお、Microsoftは3Dファイル最適化サービスとして、Model Repair Serviceも提供している。
ここで登壇者は樋口氏に戻り、エンタープライズ系の話題へと移るのだが、本稿では西脇氏のプレゼンテーションを追いかけることにしよう。
●Windows Phone 8.1も登場した最新デモンストレーション(その2)
会場では、「リアサカLIVE Jリーグ」「Jリーグ動画アーカイブ」という、2つのWindowsストアアプリを紹介した。
前者はW杯でも登場したWindowsストアアプリのJリーグ版、後者はJリーグメディアプロモーションが公開中のコンテンツをWindowsストアアプリベースで視聴可能にしたものだ。なお、当初からXbox One版もアナウンスしていたため、Xbox One上での動作も披露していた。ゲストピーカーとして登壇した楽天CTO(最高技術責任者)のJames Chen氏が語ったのは、英語に日本語の字幕を付けるデモンストレーションだ。Microsoft Researchが開発した「MAVIS」(Microsoft Audio Video Indexing Services)という、動画にインデックスを付けるシステムを利用している。動画上の音声をテキストとして抜き出し、Microsoft Azure Media Services経由でキーワード化したのち、Bing翻訳を用いることで半リアルタイムに翻訳を可能にしているという。西脇氏は動画検索にも活用できると本技術の可能性を語っていた。
この流れからSkypeのリアルタイム翻訳の動画も放映した。こちらの技術に関しては、筆者が寄稿した6月の記事で述べているので合わせてご覧いただきたい
10月早々に発表したコンテンツ制作ツール「Office Sway」も紹介。
スマートフォンなどで撮影した写真のような各種コンテンツをアプリケーション内で配置し、Webページを作るというもの。Microsoft製品に詳しい方は、直感的な「FrontPage」といえば分かりやすいだろうか。さらに会場では、iPhone版Office Swayも披露した。
最後はOSに関する説明だ。1つ目はWindows Phone 8.1である。音声アシスタント「Cortana(コルタナ)」によるアラーム登録や、アプリケーション起動のデモンストレーションを行った。注目するのは、1回目に失敗したアプリケーション起動が、2回目には正しく動作(起動)した点だ。
Cortanaは機械学習技術と知識レポジトリ「Satori」(Bingでも採用中)を用いて学習し、場面に応じた適応能力を備えている。
西脇氏のデモンストレーションは、まさにその適応能力を示す結果となった。
合わせて、Winodws Phone 8.1が備えるWord Flow Keyboardも披露。BUILD 2014のKeyNote初日に、Joe Belfiore氏が紹介したことでも有名な機能であり、ソフトウェアキーボードをなぞるだけで単語入力が可能になる。これは英語という基本26文字のアルファベットだから可能な技術であり、日本語で実現するのはかなり難しそうだが、将来性をアピールするという点では魅力的な内容だった。もう1つはもちろんWindows 10。ただし、現在Windows 10テクニカルプレビューを提供中であることと、時間が足りなかったためか、特に重要なことは語られなかった。
今年も魅力的なデモンストレーションやプレゼンテーションを披露した日本マイクロソフトだが、米国では来年4月にBuild 2015、5月にはMicrosoft Ignite、6月には日本でde:codeの開催と、イベントがめじろ押しだ。まずはThe Microsoft Conference 2014の公式サイトにて、公開予定のセッション動画や資料にアクセスしてみてはいかがだろうか。
阿久津良和(Cactus)