「Adobe Creative SDK」によって"何が"変わるか
10月6日から8日(太平洋夏時間)にかけての3日間、米カリフォルニア州ロサンゼルスにあるロサンゼルスコンベンションセンターおよびノキアシアターにおいてAdobe Systems主催のクリエイティブカンファレンス「Adobe MAX 2014」が開催された。
本稿では、その中で行われたアドビのCreative Ecosystem部門でシニアマネージャーを務めるJacob Surber氏によるセッション「Designing Next-Generation Apps Using the Creative SDK」の内容に、現地で得た情報を補足しながら、Adobe Creative SDKを巡るアドビの構想についてレポートしたい。
○Creative SDKでできること
Adobe Creative SDKとは、Adobe Creative Cloudが持つさまざまな機能やサービスを、自前のアプリからクラウド経由で利用できるようにする開発ツールキットである。Creative SDKを利用すれば、たとえばCreative Cloudのストレージにに保存されたファイルやアセットにアクセスしたり、PhotoshopやIllustratorなどのデザインツールが備えている機能の一部を利用したりできるようになる。現在はiOSアプリ向けのObjective-Cライブラリという形で無償公開されている。
Creative SDKが最初に発表されたのは2014年6月のことで、それからプライベートベータテストを経てAdobe MAX 2014開催期間中にパブリックベータが公開された。アプリの開発者がCreative SDKを使ってできることとしては次のようなものがある。
・"クリエイティブサービス"の利用
・Creative Cloud内のアセットの利用
・モバイルからデスクトップへのファイル送信(psdとaiのみ)
・ドキュメントの作成や要素の抽出(psdとaiのみ)
・Adobe Ink & Slideの利用
・マーケットからのコンテンツのダウンロード
・コミュニティへの作品の公開
「クリエイティブサービス」とは、アドビのデザインツールが持つさまざまな機能をクラウド上でサービスとして利用できるようにしたもの。
現在のCreatie SDKでは、Photoshopの「コンテンツに合わせた塗りつぶし」、「手ぶれ補正」、「自動垂直補正」、「自動トーン補正」といった機能が提供されている。
Creatie SDKを使えば、Creative Cloudのストレージにもアクセスすることができる。Creative Cloudのストレージは、10月6日に行われたアップデートによって各種ツールを連携させるための核となるサービスとりて生まれ変わった。新しいCreative Cloudでは、色やブラシ、デザイン、フォントといったアセットもクラウド上で管理し、ツール間やユーザー間で共有することができる。したがって、Creative SDKを使うことで、自前のアプリからクラウド上のアセットを利用することができるというわけである。
Creative Cloudのマーケットプレイスは今年7月より提供が始まったサービスで、さまざまなデザインコンテンツが提供されており、Creative Cloud有償メンバーであれば無料でダウンロードして利用することができる。マーケットで提供されているコンテンツは、Behanceで公開されている作品の中から調達されたものとのこと。一方、コミュニティ機能では、作成したコンテンツをAPIを利用してBehanceに公開することができるようになっている。
つまりCreative SDKを使えば世界中のクリエイターの作品と繋がることができるというわけだ。
●「Adobe Creative SDK」の公開は"創作のワークフローをより完全にする"
○"虎の子"を公開したアドビの狙いは?
Creative SDKで利用できるようになるさまざまな機能、とりわけクリエイティブサービスとして提供されるものなどは、アドビが長年に渡って開発に力を注いできた虎の子とも言える成果物である。これを一般に公開した狙いとして、Surber氏は次の2点を挙げている。
・Creative Cloudが持つ意味を変える
・創作のワークフローをより完全なものにする
これまでのCreative Cloudは、まだクラウドのパワーを活かし切れているとは言えなかった。そこでアドビは大きく2つの方針を打ち出した。ひとつがクラウドを中心とした各種クリエイティブツールの連携強化であり、もうひとつが外部のツールやサービスとの統合だ。これについてSurber氏は、「Creative SDKによって、Creative Cloudは一企業が提供するサービスから、クリエイティビティを促進するためのエコシステムに変わる」と表現した。
もちろん、こうした意図のほかに、従来のアドビ製品のユーザー以外にも同社の技術をリーチしていきたいというビジネス上の狙いもある。
Creative SDK自体は無償で提供されるが、これを組み込んだアプリのユーザーがCreative SDKの機能やサービスを使う場合には、Adobe IDの登録(無料)とログインが必要となる。これによって、アドビとしてはサードパーティのアプリのユーザーをCreative Cloudの世界に取り込むことにつながるというわけだ。
ただし、第一の目的はあくまでもパートナー企業が抱えるユーザーのクリエイティビティの強化を手助けすることであり、アドビ自身がCreative SDKによって儲けを上げようという意識ではないという。同社のVice PresidentでありCreative Cloud構想の生みの親でもあるMala Sharma氏は、プレス向けのインタビューの場で、「私たちは、パートナーの皆さんがCreative Cloudを使ってビジネスができるようにしていきます。私たちのツールを使いこなす新しいアイデアを持っているのであれば、ぜひ積極的に利用してください」と呼びかけている。
○「Creative SDK」の今後の展開
Creative SDKはまだ生まれて間もないツールであり、今後も積極的にアップデートを続けて行くとのこと。近日中に提供が予定されている機能としては次のようなものが挙げられている。
・デスクトップのInDeignへのファイル送信
・ドキュメントの編集機能
・Lightroomの写真へのアクセス
また、クリエイティブサービスの拡張として次のような機能を開発中とも伝えられた。
・自動切り抜き
・自動赤目補正
・画像へのテキストの追加
・画像のファイル形式の変換
・マスクの作成
・ノイズ軽減
・レンズ補正
・Photoshopのフィルター
・顔認識
・パノラマ写真の合成
その他に、9月にアドビが買収したAviary社の写真編集APIについても、Creative SDKで利用できるようにする予定だということが基調講演で発表されている。対象となるプラットフォームは現在はiOSのみだが、Android版も開発中で、すでにプライベートベータテストがスタートしているという。それに加えて、来年にはJavaScriptベースのAPIの提供も予定されているとのことだ。
アプリの開発者は、Creative SDKによって「Adobe Magic」と呼ばれるアドビのテクノロジーを自分のものとすることができる。そのことによって、自分たちのユーザーのクリエイティビティの幅は大きく広がることになるだろう。JavaScript版のAPIが加われば、PhoneGapとの組み合わせによってiOSやAndroid以外のさまざまなプラットフォームにもAdobe Magicがやってくるかもしれない。今はまだ使える機能が限られているが、現在精力的に開発が行われているとの話なので、今後のアップデートにも大いに期待したいところである。