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読む鉄道、観る鉄道 (63) 『月館の殺人』 - 厳寒の北海道を行く豪華列車で事件発生!

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読む鉄道、観る鉄道 (63) 『月館の殺人』 - 厳寒の北海道を行く豪華列車で事件発生!
『月館の殺人』は、コミック雑誌「月刊IKKI」(小学館)で2005年から2006年にかけて連載され、後に上下巻で出版された。作者は名作コミック『動物のお医者さん』『チャンネルはそのまま』の漫画家、佐々木倫子氏と、『●●館の殺人』シリーズを手がけるミステリー小説第一人者、綾辻行人氏のコンビだ。

綾辻氏の本格ミステリーと、佐々木氏のコミカルな持ち味が融合し、鉄道ファンを自認する「月刊IKKI」編集長の監修でしっかりと考証されている。ミステリーファンにも鉄道ファンにも楽しめる作品だ。

○密室の列車で殺人事件発生、犯人は車内に!?

厳寒の北海道に存在する豪華列車「幻野」に、女子高生の空海(そらみ)と6人のテツ(鉄道オタク)が乗車した。沖縄で暮らす空海は母を亡くしたばかり。鉄道には縁がなく、初めての列車旅だ。この旅は母と断絶していた祖父に招待された。
直接会って、遺産相続の話をしたいという。

空海が祖父に招待されたと知ると、テツたちは色めき立つ。理由は女子高生と同じ列車で旅をする喜び……だけではなかった。彼らにとって、空海の祖父は重要な人物であるらしい。空海はテツたちの挙動に困惑しつつ、遺産相続の条件が、この候補者たちからの婿選びかもしれないと不安になる。そんな乗客たちを乗せて、夜行列車は最果ての終着駅、月館へ向かっていた。そこには空海の祖父が待っている。

その夜遅く、列車の運行中にテツの1人が刺殺された。
どうやら列車にはテツを狙った連続殺人犯が紛れ込んでいるらしい。犯人の狙いは何か? 次の標的は誰か? 列車という密室で犯人探しが始まった……。

上巻は事件の始まりまでのエピソード。そして豪華列車「幻野」の衝撃の事実が明らかになる。下巻は新たな事件が起き、思いも寄らぬ結末へ向かっていく。「幻野」の事件は「幻夜」であってほしい。そう願わずにいられない。

○鉄道ファン垂涎のコレクション

列車「幻野」そのものがトリックの要素となるため、詳しくは紹介できない。
牽引する蒸気機関車はD51形241号機。実際の機体は国鉄時代最後のSL列車の牽引機で、それを記念するため保存したところ、機関庫の火災で全壊してしまった。漫画に登場させるいきさつについては、巻末に詳しく紹介されている。この解説ページは「IKKI」編集長の江上英樹氏が手がけており、かなり読みごたえのある内容だ。客車はオリエント急行に使用されていた6両編成だ。機関車側から荷物車、食堂車2両、ピアノバー車、個室寝台車、スタッフ用寝台車となっている。実際にも1988年に日本でオリエント急行の客車を走らせるイベントがあり、物語ではその車両を再利用したという設定になっている。

「幻野」号は稚瀬布(ちせっぷ)駅20時40分発。
月館駅7時0分着。途中で経由するルートはすべて架空である。実際の駅や路線ではないところで、鉄道ファンとしてはちょっと興ざめだ。しかし、後半で「幻野」号の秘密を知れば納得できる設定である。

月館に住む空海の祖父は鉄道趣味界の有名人という設定だ。その屋敷には鉄道ファン垂涎のコレクションがずらりと並ぶ。玄関ホールには出所不明のゼロキロポスト、151系「こだま」パーラーカーの1人掛けシート、根室拓殖鉄道の気動車、寝台特急「ゆうづる」のヘッドマークなどなど。鉄道模型の部屋もうらやましい。
しかし、これらを相続するかもしれない空海は、その価値がわかるだろうか? 生き残った人々に励まされて、やがて鉄子に成長するのか、後日談も読んでみたくなる。

※写真は本文とは関係ありません。

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