ゲッティのアートディレクターが語る、広告ビジュアルの"6つのトレンド"
東京都・六本木の東京ミッドタウンホールで開催されたクリエイターの祭典「Adobe CREATE NOW "Best of MAX"」。午後の部では、"Learn"というキーワードのもと、さまざまなジャンルで活躍するクリエイターがスピーカーとして登壇する19のブレイクアウトセッションが行われた。
ここでは、同イベントのゴールドスポンサーであるゲッティ イメージズのアートディレクター・小林正明氏による「これからのクリエイティブフォトグラフィー」と題したセッションの模様をお伝えする。
○フォトグラフィックなトレンドは、「グリッチ」、「視点」、「超・感覚」
小林氏は冒頭で、ゲッティ イメージズという会社の紹介と自身の役割について簡単に紹介したあと、同セッションの最初のテーマである「広告ビジュアルの潮流」について話し始めた。現在、同社が注目するフォトグラフィックなトレンドとして、「The Glitch/グリッチ」、「Point of View/視点」、「Super Sensory/超・感覚」の3つと、さらに社会的なトレンドとして「Female Rising/女性の台頭」、「Body 2.0/身体2.0」、「The New Old/新しいシニア層」という3つの、合わせて6個のキーワードを挙げた。
最初の「The Glitch/グリッチ」とは、ノイズ、壊れた美しさ、不協和音といったイメージを持つ写真。有名ブランドのポスターを例に挙げ、特に最近のファッション業界では、ノイズが含まれるような「壊れた美しさ」を表現したビジュアルを良しとする傾向があるという。同社が販売するストックフォトの中でも、フランシス・ベーコンの絵画を思わせるような顔写真をはじめ、5年前なら販売できないような白飛びした写真、インスタグラムのようなアナログ風の色使いの写真などを紹介した。
次の「Point of View/視点」は、最近増えてきたユニークな視点からの写真だ。昨年、アメリカの国民的行事とも言えるNFLの優勝決定戦「スーパーボウル」のハーフタイムでも流された、アクションカメラ「Go Pro」のTVCMのビデオを紹介。同社でもGo Proをオクトコプターに搭載して空撮した、これまで見たこともないような映像作品が増えていることを明かし、「機材の進化」が新しい視点を提供してくれると述べた。そして3つめの「Super Sensory/超・感覚」は、何かに触れる、味わえる、聴けるなど、感覚に直接訴求するようなビジュアルのことで、今ブランドが強く求めている写真だという。これはとても深くて広いテーマであり、フォトグラファーから提案される写真は百人百様であったということだ。
●広告写真の「社会的なトレンド」は?
○「女性の台頭」、「身体2.0」、「新しいシニア」
そして「社会的なトレンド」の話題へ。ここからは、同社の本社があるアメリカの特色が感じられる内容だと前置きした上で、最初のテーマは「Female Rising/女性の台頭」。同社の検索システムにおいて「女性」というキーワードは、いかなる言語でも常に上位にあり、いわゆる「良妻賢母」なイメージでなく、女性のリアルな写真を必要としているという。
同社は、FacebookのCOO シェリル・サンドバーグ氏が率いる、女性の地位向上を目指す非営利団体「LEAN IN(リーン・イン)」とのコラボにより、さまざまな年齢の女性と、彼女たちを支持する人々の力強い描写に特化した写真を集めた「Lean Inコレクション」をオープンさせたという。実際にサムネールを眺めていると、丁寧にセットアップして作り込んだ写真ではなく、スナップショットのような雰囲気の写真が多いのが印象的だ。
5番目のキーワードである「Body 2.0/身体2.0」では、本当にブランドが必要としているのは、キャットウォークをするようないわゆる「モデル体型」のボディではなく、リアルでありのままのボディだという。実際に米ユニリーバのボディ・ケア製品ブランド「Dove」の広告では、さまざまな人種のポッチャリ体型の女性モデルを採用しているという。こうした例を挙げて、今必要とされるのは「嘘っぽい写真」ではなく「ありのままの写真」であることを、あらためて強調した。最後のキーワード「The New Old/新しいシニア層」では、化粧品メーカーの広告ポスターでは、イギリスの女優シャーロット・ランプリング(現在68歳)が起用されていることなどを例に、生き生きとしたシニアの写真に需要が高まっていると述べた。
○必要とされるのは、ウソのない現実的な写真
続いてのテーマは「写真や動画のクラウドソーシング」。ビジュアルによるコミュニケーションが盛んな昨今では、ごく普通のユーザーの「写真を見る目」も非常に洗練されており、作られた写真、嘘くさい写真では通用しなくなったという。
そこで、同社は2008年から写真共有サイト「Flickr」から、広告として価値のある優れた写真をよりすぐり、ライセンス販売を行っているという。自然現象の決定的瞬間など、その時その場所に立ち会わなければ撮影できないような写真は、いくら優れたプロカメラマンに依頼しても撮れないからだ。
また、iOS用アプリ「Gettiy Images Moment」は、今必要としている写真や動画をアナウンスし、それを見たユーザーがiPhoneで撮影して送信。その中から同社のエディタが選別してライセンス販売するという。さらに、スマートフォンの写真に特化した写真投稿サイト「EyeEm」や動画投稿サイト「Vimeo」とパートナー提携を結び、アップロードした写真や動画をストック素材としてライセンス販売できる仕組みが用意されているということだ。こうした中で、必要とされているのは「AUTHENTICITY/信頼感・現実味」だという。
○美しい写真は、観る者の感情を揺り動かし変化をもたらす
さらに小林氏は、厳選された写真を多数取りそろえた「Getty Images Prestige」の提供を開始したことを紹介。スタジオでの撮影シーンをはじめ、ここ1~2年に海外のフォトアワードにおいて受賞した何枚かの作品について裏話を交えて解説した。
「『美しい写真』とは、観る者の感情を揺り動かし、変化をもたらす」と語ったのち、2012年に16言語によって同社のサイトで検索された「コンセプトキーワード」を1位から100位までパネルに掲示。その第1位は「LOVE(愛)」であったことを明かした。最後に、同社が提供するビジュアルトレンド情報サイトStories & Trendsを紹介し、セミナーを締めくくった。