つんく♂、子どもへの刺激で目指す未来「文化を絶やすことはマイナス」
●『いないいないばあっ!』楽曲提供で実感
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下の先月6日。音楽プロデューサーのつんく♂は、自身初の絵本『ねぇ、ママ?僕のお願い!』(双葉社 6月19日発売 1,400円税別)を、発売前にもかかわらず「2020年の『母の日』はオンライン帰省、オンラインでの親子時間となる方も多々いらっしゃると思いますので、そんな会話のきっかけにこの絵本動画を使っていただければ」とYouTubeで無料公開した。
同書は詩をつんく♂、絵をイラストレーター・なかがわみさこ氏が担当。母の日にサプライズを計画する主人公「ボク」と母親のやりとりを描き、「読み聞かせ」用として作成された動画の「ボク」役に9歳の次女、母親役に小湊美和(太陽とシスコムーン)を声優として抜てきしたこともネット上で話題となった。
出版元である双葉社を通じて、「このような状況でも、我々クリエイターはものづくりを止めてはいけない」とコメントを発表していたつんく♂。同書に込めた“作り手”としての思いとは。メールインタビューで、つんく♂の今とこれからを追った。
○■無料公開絵本の制作秘話
――子ども目線で描かれた物語に、多くの人が胸を打たれています。
そもそも「誰の目線か」を考えて作ったわけではないですが、後から冷静になって考えてみると、結果第三者である男性がこの物語を書いたのがよかったのかもしれません。子ども目線とかも考えたことはないけど、これまで書いてきた歌詞の目線も女性や学生目線でやってきてたので、今回は少年でよかったのだと思います。
――作画のなかがわみさこさんは、どのような経緯でオファーされたのでしょうか?
いろんな絵の候補を見ました。でも、彼女の絵はぴったり以上のぴったりでした。とても雰囲気が出ています。今回一番僕がこだわったのは、絵の中に「日本」と限定できることは入れないようにしようってことです。世界のどこの人が絵を見ても「自分の国の話」って思ってもらえるように設定しました。その意図をすぐ汲んでくれたので、そういう意味でもとてもイメージに近づきました。
――母親役の声優に小湊美和さんを抜てきされたことも、ネット上で話題になっています。
彼女は教え子の中で僕のオンラインサロンに加入してくれていて、ハロー!プロジェクト卒業後も、ちょいちょいと仕事を手伝ってもらってましたが、大きくは代々木アニメーション学院で僕が監修した講義の講師を務めてもらった実績が大きいですね。
そもそもは民謡一家で育ったというのもあって、僕とは違うリスペクト出来る部分を持ち合わせています。それでもPOPSを歌うということに対して貪欲に物事を考え、自分が幼いころから培ってきた学びを一旦脇におき、つんく♂プロデュースから学べるものを学ぼうという意識が高かったのが印象深かった。そしてハロー!プロジェクト卒業後、民謡で学んだことと、つんく♂プロデュースで学んだことを自分のなかで噛み砕いて、つんく♂プロデュースの歌唱や考えを今の若者に教えてあげたいという心意気にも打たれました。
そんな彼女なら今回の朗読も、自粛要請期間のなか、直接指導、指示をしなくともメールやスタッフ経由でのやりとりで、きっと僕の意向を汲んでくれるのではないかと思い、彼女を推薦しました。出版社、スタッフ含めて異論なく、評判の良い作品になったと思っています。
僕が出した指示はシンプル。
「プロの声優に頼まず、小湊にお願いする理由は、主婦であること。そして、朗読のプロでないことをそのまま生かしたい。今入ってる少年の声を聞いて、自然にやって欲しい。うまく(上手に)やったらきっと採用しない。雰囲気を出さないで(声優的なうまさを求めていないという意味で)レコーディングしてくれたらきっとそれが正解です」。彼女は自分のiPhoneのボイスレコーダーで、自宅待機の中、主婦仕事の合間を縫って録音してくれました。
○■「大人が思う子どもらしさ」は不要
――NHK Eテレ『いないいないばあっ!』への楽曲提供時、世の子どもたちの未来を考える中で、「絵本も僕のすべきことの1つ」と感じたことが絵本制作のきっかけになったそうですね。
世界を見渡しても、僕が幼少の頃は「アジアのNo.1日本」という決めつけというか、実際にもアメリカに追いつけ追い越せで「ヨーロッパにも負けない日本」という気持ちで育ってきました。
しかし、いつの間にかそんなことはなくなっていたのに、いつまでも日本はアジアの先頭にいるつもりでいたように思います。
さすがにこのところのKPOPや韓流ドラマ、映画の実績を目の当たりにし、そして、中国の経済の発展を肌で感じ、「あ、やばい」ってたくさんの方が思ったと思います。とはいえ、「今さら何をすべき!?」というのが現実で。そんな中で、今すぐは無理でも5年後10年後にふたたび追いついて、追い越す為には今の日本の子どもらにどんな刺激を与えるかだと思うんです。
世界中の便利なものを受け入れてかっこいいものを認めて、どんどん子どもに刺激を与えていかないと。そうやって、無関心な子どもが育たないようにしていきたい。そして、僕が培ってきたノウハウを教えたい。もしくは、次の世代の子らと一緒に世界にチャレンジしたい! そんな気持ちかもしれません。
――小学館のサイト「HugKum(はぐくむ)」のインタビュー(2017年12月13日掲載 つんく♂さんが語る「アイドル育成より、子育てが難しい」)で、「子ども目線の音楽作りだけはしない」とおっしゃっていましたが、音楽以外においても常に心掛けていることなんですか?
我が子を見ても、これまで育ててきたアーティストたちを見ても、「大人が思う子どもらしさ」で納得してくれる子はほぼいない気がします。ファッションにしても、映画、テレビ、ゲーム、音楽、何をとっても子どもは思った以上に大人です。僕自身も学校で学ぶ音楽や芸術に興味を抱くことはなかった気がします。ラジオや雑誌から新しい刺激をもらい、覚え、成長していった。なので、音楽でも絵本でもゲームでも「大人や子ども関係なく楽しめるものでありたい」と思ってます。ディズニー映画やジブリも、50歳超えの僕が今でも楽しめますしね。
●ハワイ在住で知る、日本の魅力と課題
――新型コロナウイルスによる影響で、日本ではこれまでなかなか馴染みのなかったテレワークが急速に浸透し始めています。つんく♂さんは今回の絵本含め、ハワイ移住後はテレワークがメインになったかと思いますが、コロナ後はどのような状況ですか?
これからの世の中でいうと、もしかしたら6歳くらいの少年でも通販で母の日の買い物をする世の中がやってくるでしょう。
普遍的な物語であるような気もしたけど、冷静に考えたら新型コロナ後の世界は違ってくるのかもしれません。
ハワイでは、新型コロナの前からパソコンを使った授業は当たり前で生徒一人ひとりにメールアドレスとIDがあるので、今回のように急にオンライン授業になっても1週間もすれば授業が始まっていました。
その中でZOOMを使いこなす(設定は僕がするので、何かと勉強になるわけです)中、日本の対応の遅さに驚くというか、危機感を抱きました。僕の場合、僕の周りも普段からLINEやオンライン(会議などで)を使うので、日本に居てもハワイに居ても大きく問題はなかったんですが、今回に関しては、教育も仕事も日本側がなかなか足並みが合わず、大変でしたね。それもこれも子どもがハワイで生活してた中で、アメリカの普通を知っていったから対応できたんですが、思えば子どもから教わることばかりですね。
――日本よりもかなり進んでいるようですね。
進んでるというか、韓国、中国、ヨーロッパを見ても、それが普通なので日本が遅いんでしょう。それでもオンライン会議だと1時間かかって解決する内容も実際に顔を見ながら会議をすれば10分もかからず解決することも多いでしょうから。
オンライン会議もメリットも、デメリットもある。ただ、日本においてはメリットの方が今は多いでしょう。早く国際水準になってほしいですね。
ハワイに住んでると日本の良さ、芸の細かさ、隅々にいたる配慮を本当に感じます。100円均一で売ってるものであっても欠陥商品なんてほぼなく、そして、素晴らしいし本当に低価格。ただ、その反面、先進国だけどもトラディショナルな部分に対して、残すべき良い点と、捨てるべき取り残されてる部分があるように思います。
例えば、義務教育含めた学校に関して、9月入学が議論になりましたが、時期の問題よりも、教科書を毎日ランドセルに入れて持ち歩かないちとイケない。机に入れっぱなしはダメ。宿題も全てプリントや学校指定のワークブック。持ってくるのを忘れると0点みたいな慣例等には不自然さを感じます。パソコンやiPadを一つ持ちあるき(もしくは学校と家と別々でもいいけどね)、教科書や参考書はKindleに入っていれば良いし、小学校3~4年生あたりからは、Googleスプレッドシート等を使えば宿題も提出物も持ち歩く必要もないし。文字の練習や書道、お絵かきに必要なもののみ用意すればいい。コロナ禍の中、そんなことを強く感じました。ランドセルや教科書や指定の問題集って何への忖度なんだろう……なんてね。笑。まあ、それと同じようなことがビジネスにもあるんだと思います。
○■“JPOP改革期”を迎えて思うこと
――絵本の無料開放にあわせて、「このような状況でも、我々クリエイターはものづくりを止めてはいけない」とコメントを発表されていました。人々が「新しい生活様式」とも向き合っていく中で、つんく♂さんご自身は今後の「ものづくり」をどのようにお考えでしょうか?
ものづくりと一括りに全てのことを語ることは出来ません。我々のようなビジネス音楽から伝統芸能、陶芸や絵画、生活に必要な工具なんかも全てはものづくりです。
僕らのいわゆるビジネス音楽、俗にいう「JPOP」だとしたら、それは完全に改革期です。日本はついこないだまで握手会やサイン会ありきでパッケージCD、DVDを売ることメインでやってたので、今回のコロナ禍で完全にそのスタイルは終了しました。頭の中で構築するだけなら僕らアーティストはタダで物事を考えることが出来ます。が、しかし、未来にむかって勉強してくためにも、新しい何かを商品にするためにも予算はかかります。
今の学生たちがプロになるためにも頭の中で考えるだけでは作れません。学びや経験が必要です。ある程度はYouTubeやオンライン講義で出来るのかもしれませんが、手で触って、体験してしか覚えられないものもたくさんあると思います。何をするにもリスクは自分にあるのだということを踏まえながら経費を捻出してものづくりを続ける他ないように思います。
文化を絶やすことはその民族にとってもマイナスだらけです。歴史を振り返っても切って切り離せないはずです。どうかみなさまで我々の市場を応援していただきたいと願っています。よろしくお願いします!
■プロフィール
つんく♂
1968年10月29日生まれ。大阪府出身。音楽家、エンターテインメントプロデューサー、作詞・作曲家、総合エンターテインメント株式会社(TNX株式会社)代表取締役社長。1988年シャ乱Qを結成。1992年にメジャーデビューし4曲のミリオンセラーを記録。その後、モーニング娘。をプロデュースし、代表曲「LOVEマシーン」(99)は176万枚以上のセールスを記録。ハロー!プロジェクトを始め数々のアーティストのプロデュースやNHK Eテレ『いないいないばあっ!』を含む数多くの楽曲提供、サウンドプロデュースを手掛け、現在JASRAC登録楽曲数は1,900曲を超える。