廃校が“太陽光発電”で甦る!? 佐渡の酒造りにみるエネルギーの地産地消
周囲約262km、人口約5万9,800人、日本海・新潟沖に浮かぶ佐渡島。特別天然記念物でもあり国際保護鳥にも指定されているトキの生息地として有名だ。その佐渡島で行われているある取り組みに注目が集まっているという。廃校となった校舎を利用して酒を醸造する「学校蔵プロジェクト」である。このプロジェクトで中心的な役割を果たしている老舗の酒蔵、尾畑酒造の専務取締役・尾畑留美子さんにお話しをうかがった。
「学校蔵」の舞台となっているのは、佐渡島の南西に位置する西三川地区の旧西三川小学校。かつて「日本で一番夕日がきれいな小学校」と謳われ、周辺はリンゴやスイカといった果樹農業が盛んなことで知られている。なぜ、この地区の廃校を酒蔵として利用することになったのか……尾畑さんは次のように語った。
「旧西三川小学校は136年間も続いた歴史のある学校なのですが、市町村の統廃合により、2010年にその幕を閉じることになりました。この美しい学舎がこのまま朽ち果てていくのは、残念だという想いがありました。なんとかここを残したい、と考えた時、私どもは蔵元なので、お酒造りを通してここを再生しよう、と決めたのです。また次年度からは国内外の人たちが酒造りを学べる場としても活用できればと考えています」。
○環境を最大限活用した醸造設備
さらに尾畑さんはこうも続けた。「私たちは『四宝和醸』という社是を掲げています。これは酒造りの三大要素“米”“水”“人”に加え“佐渡の風土”という4つの“宝”の和をもって醸すという意味合いです。佐渡は特別天然記念物のトキが生息する唯一の島です。
トキが住む環境を保全するため、農薬や化学肥料を減らし、『生き物を育む農法』を進めています。私どもも、島の豊かできれいな水を使い、『朱鷺(トキ)と暮らす郷づくり認証米』の酒米を積極的に使用しています。そして、もうひとつどうしても実現したかったのが、佐渡産の自然エネルギーを取り入れた酒造りでした」。
尾畑さんは続ける。「環境の島・佐渡の酒造りであるからこそ、自然と共存する再生エネルギーを取り入れたいと思っていました。色々な可能性を探りましたが、太陽光発電がふさわしいと考えました。当面は酒造りに必要な電力の2割ほどの供給からスタートする予定で、徐々に増やしていきたいと思います。環境の島ならではの佐渡でしかできない酒造りに取り組んでいくつもりです」。
夕日が美しい学舎で、太陽光発電という再生エネルギーを取り入れた酒造りに挑戦する同社の試みは、地域の資源を最大限に生かした新しい取り組みとして、今後ますます注目されていくことだろう。
なお、この太陽光発電システムは、同じく「学校蔵プロジェクト」に参加しているソーラーフロンティアの技術が生きているという。次ページではプロジェクトを支えるテクノロジーについて紹介しよう。
●雪国での運用で実証された高効率な太陽光発電システム
前述したように「学校蔵プロジェクト」の電力の一部を担っているのは、ソーラーフロンティアが製造する太陽光発電システムだ。そこで同社 執行役員 知財戦略室室長であり工学博士でもある櫛屋勝巳さんに、お話しをうかがった。櫛屋さんはこのプロジェクトのメンバーである東大IRS3での客員教授も務める。
櫛屋さんが真っ先に口にしたのは、実発電量の高さ。「弊社が提供する太陽電池モジュールは『CIS太陽電池』となります。
この『CIS太陽電池』の最大の特徴は、温度・影の影響が少なく実発電量が多くなるということです。尾畑酒造さんの太陽光発電システムをご覧になってこられたならわかると思いますが、あのプールの周囲には樹木が茂っています。落ち葉がモジュールに落ちたとしても、比較的に安定した発電が可能です」とCIS太陽電池のメリットを語った。
また、こうも付け加える。「『学校蔵プロジェクト』は、雪国である佐渡島で実施されていますが、実はソーラーフロンティアは積雪対策にも実績があるのです。というのも、2010年に新潟県新潟市において日本初の商用発電所(除電力会社)『新潟雪国型メガソーラー』を設置しました。このメガソーラーにより、雪国での最適傾斜角の検証、積雪地での最適なパネルの高さ検証、環境保全に配慮した架台建設といった、雪国ならではの課題解決に必要なノウハウを取得しています。『学校蔵プロジェクト』の太陽光発電システムでは、このメガソーラーで培ったノウハウや経験を生かしています。
また、建設にあたっては佐渡島現地での資材調達を優先しました」。
「実はCIS太陽電池と佐渡島は、意外なところで相性が良いのですよ(笑)。佐渡島では白壁に黒瓦の切妻屋根という建築様式が非常に多く、深みのある黒色で反射光も抑えられたCIS太陽電池は、黒瓦の屋根の上に設置しても違和感はないと思います」とも語った。○分散型発電が地域発展に貢献
櫛屋さんは、佐渡島のような地方で太陽光発電を活用することのメリットについて話してくれた。「化石燃料を利用した巨大な発電所は、ビルや家屋が密集する都市部の電力をまかなうには現在のところ必須でしょう。ですが、人口密度の低い地方、特に島しょ部で巨大な発電所を構えるのは、建設費や維持費を考えればコストが割高になってしまいます。今回の『学校蔵プロジェクト』のように、企業や家庭がそれぞれ発電を行い分散化すれば、巨大な発電所にかかるコストが低減され、そのぶん地域振興に役立てることができます。結果、地域の活性化につながるのではないかと考えます」。
分散型発電を進めることで、過疎が進む地域の活性化を期待できるということだ。
最後に櫛屋さんは「佐渡島は、面積的にも人口的にも、何かの取り組みを試験的に行うのに最適な規模なのです。今回の『学校蔵プロジェクト』で培ったノウハウがさまざまな地域に波及し、それぞれの特性に合ったモデルケースに姿を変えて実現されると良いですね」と、プロジェクトがもたらす効果について語り締めくくった。
太陽光発電は分散型発電というモデルを通して、社会的な命題である再生可能エネルギーへの転換に加え、地域興しにもつながるということがわかった取材だった。