“缶コーヒー復権”への深い思いが詰まった「プレミアムボス」とは
通常よりもちょっと上質、贅沢であることを意味する“プレミアム”を謳い、消費者の心を掴んだ商品のヒットが近年続く中、缶コーヒー市場もプレミアム市場が湧き始めている。中でもサントリーの「BOSS」ブランドが9月に発売した「プレミアムボス」が特に好調だ。
発売からわずか2ヶ月あまりで340万ケースを出荷。年内計画に掲げた300万ケースに対して既に1.5倍の水準となり、年内400万ケースを超える出荷を見込む。
缶コーヒー市場全体では前年並みの売上水準の中、「プレミアムボス」好調に牽引されて、BOSSブランド全体も、2014年度の計画8,400万ケースに対し、現時点で既に8,600万ケース超と見込んでいるようだ。
そんなヒット商品をメーカーのマーケティング担当者はどのように見ているのだろうか。サントリー食品インターナショナル食品事業本部 ブランド戦略部 部長の柳井慎一郎氏に話を訊いた。
○缶コーヒー好きが好む味を追求
柳井氏によると、今回の商品が生まれた背景には“缶コーヒーの復権”という思いがあるという。
というのも、ここ数年、缶コーヒーを含むコーヒー市場全体は多様化してきており、人々は以前よりも様々なスタイルでコーヒーを楽しみ、選択肢も増えた。スターバックスに代表されるようにアメリカスタイルのテイクアウト型のコーヒーチェーンが増え、さらにコンビニでも挽き立て豆のコーヒーが気軽に購入できるようになった。
しかし、一方で缶コーヒー市場はどちらかというと以前よりも下火に。そこで「もう一度、缶コーヒーのよさ、おいしさを思い出してほしい」とBOSSブランドの威信をかけて世の中に投入されたのがプレミアムボスだ。「これぞ缶コーヒーという商品を出したかったんです。その意味で奇をてらうことなく、缶コーヒーとしての美味しさ、缶コーヒー好きな人が好む味を追求しました」と柳井氏。
では、メーカーが考える“缶コーヒーらしさ”や“缶コーヒーの美味しさ”とはどういったものなのか。改めて柳井氏に訊ねたところ、次のような答えが返ってきた。
「砂糖とミルク、コーヒー豆とが三位一体となり、バランスの取れた味。いつでもどこでも安定した同じ味を楽しむことができるという安心感がありますよね。缶コーヒーって、他の飲料カテゴリーの商品に比べて、かなりエモーショナルな商品じゃないかと思うんです。例えばスポーツドリンクのように何か機能性を持っているわけでもなく、一息入れるための飲み物。かなりメンタルな作用が大きいですよね。もちろん、体力も含めて消耗されている栄養補給的なフィジカルな面でも大事な要素はあるんですが。そうした意味でもブランドの持つ安心感や親近感というのは大事なんです」
そこで"ボス史上最高峰のコク"を売り文句に登場したプレミアムボスだが、ユニークなのは価格設定だ。通常、“プレミアム”と聞いて消費者がイメージするのは「通常よりも割高だけれどもその分質が高くておいしい」というのが一般的だが、プレミアムボスは従来商品と同容量で同価格。
消費者としては、同じ価格ならプレミアムのほうがいいに決まっていると手に取りたくなるものだが、BOSSブランドにおけるプレミアムは少々意味合いが異なる。
●"BOSS of BOSS"の「プレミアムボス」とは
○BOSSブランドの特徴を最大限に引き出した「プレミアムボス」
「この商品で目指したのは、高級感というよりも"BOSS of BOSS"。BOSSブランドは、スチームローストやエスプレッソ抽出を導入した深くて濃い味わいというイメージを持たれているので、その特徴を最大限に引き出したというのがブランド内におけるこの商品の位置づけです」と柳井氏。つまり、ブランドの特徴を際立たせることにより、改めてBOSSのおいしさを思い出してもらうためのフラッグシップ的な商品ということだ。実際、2014年1月~10月の缶コーヒー市場全体の成長率が前年比で101%の中、BOSSブランドは107%と伸長し、「ブラック」「カフェオレ」「微糖」の3カテゴリーでも売り上げを伸ばしているという。
一方、BOSSと言えばハリウッドスターのトミー・リー・ジョーンズさんをキャラクターに起用したテレビCMがこれまでも印象を残してきたが、今回はタレントのタモリさんが加わり、もはや伝説と化したあの国民的番組をどことなく彷彿とさせる CMも大いに話題を呼んだ。柳井氏によると、今回のコラボレーションは単に話題性というだけでなく、実はBOSSブランドが目指す意匠を表現したものでもあるとのことだ。
柳井氏曰く、「タモリさんと言えば、日本人にとってはまさに誰でも知っている国民的芸能人。
ある意味、大衆的なタレントさんでありながら、実は非常にマニアックな芸をお持ちの玄人ウケするタレントさんでもある。この絶妙なバランスの取れた二面性が、BOSSブランドが目指しているものとも共通するんです」。
さらに、「CMはプレミアムボスを宣伝しているんですが、同時にテレビそのものの広告にもなっているんです。テレビも今、“テレビ離れ”と言われるようにインターネットなどのニューメディアに押されて以前よりも存在感にかげりを見せていますが、たとえマンネリだと言われてもやっぱりなければならないものですよね。コーヒー市場において缶コーヒーもまさにそうした存在。
テレビと同じように、缶コーヒーもやっぱり働く人にとってはなくてはならない存在じゃない?というのを伝えたかったんです」とCMに密かに込められているメッセージについて明かした。
また、今回プレミアムボスの発売にあたっては、発売前から告知キャンペーンが展開された。1万人を対象に試飲のキャンペーンも行われたが、缶コーヒーでこれほど大規模な試飲のキャンペーンを行ったのはサントリーとしては初めてだったという。
「発売1ヶ月前ぐらいから全国50万台前後の自動販売機にステッカーを貼ったりして、こういう新製品が出ますという告知をしました。その成果か、例年になく自動販売機での売り上げが伸びています。発売して1週間で30%強という認知度は通常よりも反応が早く、テレビのコミュニケーションとは別に、やはり発売前から新製品への期待感を醸成する意味でひと役買ったと思っています」
柳井氏は、その他にもTwitterなどSNSによる拡散効果も大きいと語る。試飲プレゼントの当選者は1万人だったが、SNSを通して目に触れた人の数は1週間に2500万人程度と見積もる。
○「プレミアムボス」のヒットの裏に隠された深い思いとは
「プレミアムだから少数のわかった人だけに買ってもらえばいいというニッチなプレミアム市場を目指しているわけではありません。多くの人に手に取ってもらいたいという思いがあります。ヒットが一過性で終わるのではなく、この商品を通して缶コーヒーのよさというのをもう一度思い出していただき、これからもずっと飲み続けていただくきっかけにしていきたい」と柳井氏。
今回のプレミアムボスのヒットの裏には、通常以上にプロモーション戦略に力が入っていたことが伺える。
また、その背景には発売から22年、缶コーヒー業界をけん引してきたブランドとして、新商品のみならぬ、缶コーヒー市場全体の再興をかけた深い思いがあったことが理解できる。