iPhoneは拡大、機能も拡張されたが…… - 2014年のスマホを言い表す一字「拡」
2014年のスマートフォンを漢字一字で言い表すなら、どんな言葉が当てはまるのか。ここではライターの笠井美史乃氏に、今年を象徴する一字を選んでもらい、その理由や所感などを記してもらった。
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使いたいと思っていた人にはおおよそ行き渡り、その先のシェアの奪い合いや収益体制づくりに取り掛かった矢先にMVNOが台頭してきた、というのが2014年のスマートフォン業界をざっくり振り返った印象だが、だいたい合っているだろうか。言葉にするなら「混」とか「乱」ということになろうが、毎年何かしら混乱はしている気がするので、少し視点を変え、個人的な観測範囲(=iPhone中心)から見直してみた。浮かんできたのは「拡」という言葉だ。多少ムリもあるかと思うが、まあ大喜利ということで。
○拡大
iPhoneの画面が大きくなった。これまで使っていたiPhone 5から6に乗り換え、4インチから4.7インチへの拡大だ。
iPhone 4Sから5に換えた際も画面の大型化を経験したが、振り返ってみると今回はその時ほどの新鮮さはなかったように思う。二度目だから最初の時ほど新鮮味がないということを差し引いても、4Sから5の時に感じた使い勝手の向上ぶりが、今回はイマイチ感じられなかったのだ。
あの時は画面のほんのすこしの大きさの違いで、コンテンツの見え方がこんなに異なるものかと驚いたものだ。メールや各種ドキュメントなど、ビジネス向けの用途にももっと活用してみようという思いにもなった。
考えてみると、あの時は画面の縦横比が変わったことで、キーボードやメニューバーなどの大きさは変えないまま、コンテンツを表示させるエリアが広がったのだった。5から6では比率は維持されているので、並ぶアイコンの数が増えたりはしているが、使えるスペースが広がったという印象はあまりない。本当にこのサイズが必要だったのか、値上がり分の価値と釣り合いが取れているのか。時流に乗った対応を嫌がる天邪鬼なアップルファンも多かろう。
利点を挙げれば、キーボードが大きくなったので多少誤タッチが減少したことや、拡大表示モードが利用できるようになったことがある。解像度も高くなったので、iPhone 5では読みにくかった電子書籍も6では実用的なものになった。「大きくなった」という物理的な変化に伴う向上はあったわけだ。
iPhone 6 Plusであれば、もっと大きな変化を体感できたかもしれないが、昨年使い始めたiPad miniがかなり良い働きをしてくれているので、わざわざその役割を奪うようなものを導入することもないと考えて敬遠した。が、今にして思えばiPhoneとiPadを足して二で割ったデバイスとして6 Plusという選択肢もアリだった。固定電話の受話器から発生した携帯電話の形状は、もはや「電話」というものに対して抱く先入観でしかない。普段はほとんど電話として使っていないくせに、選ぶ時だけ「電話」として見てしまうのは今回で最後にしようと思う。
●拡張
○拡張
AppleはiOS 8において、サードパーティ製アプリにキーボード/ウィジェット/iCloudドライブへのアクセスを許可した。
6月に行われたWWWCでティム・クックが「これまでで最もジャイアントなリリース」という言葉で表した、開発者に向けた自由度の拡張だ。
実際にiOS 8がリリースされると、満を持してというべきか、期待されていた日本語キーボードが登場し、ウィジェットアプリやiCloudドライブ対応へのアップデートも増えていった。だが、個人的には今のところこれらの新しいアプリを十分に活用できていないと感じている。
Androidと比べて、キーボードは純正のみ、通知センターは使えるがウィジェット的な役割は一部のApple公式アプリのみ、ファイルの扱いが不自由……というのがiOSの枷になっていた部分であることは確かで、筆者も両方使ってみてそれを実感していた。だが、無ければ無いなりにやりくりするのが人間というもの。ユーザー辞書をコツコツ育てたり、通知センターを使ったランチャーや外部のクラウドストレージ対応のアプリを組み合わせるなどで、それなりに必要な作業をこなせるような環境になっていた。
ここへ来てそれらの迂回を経ずとも出来ることが増えたわけだが、後付けされた新機能というのはなかなか身に付かないものだ。ウィジェットを登録したアプリも存在を忘れてホーム画面から起動したり、長年使い込んだキーボードの使い勝手と微妙に違うところで小さなストレスになったりして、せっかく導入してもあまり使わずに元に戻ってしまう。
クラウドに至ってはこれまでの資産を移動する手間を惜しんで未だに試すこともしていない。今年のジャイアントな拡張による効果は、今の段階では判断しかねる状態だ。
もし、使い方が固定されるiOS 5や6あたりの段階でこれらを開放してくれていたなら、もっと慣れることができたのだろうか。あるいは、ここまで来たらむしろ解放せずに不可侵を貫いた方が良かったのだろうか。
●拡充
○拡充
今年9月、iPhoneのSIMフリー端末が日本のApple Storeで公式に販売開始されたことで、発売日に店頭で大きな混乱が起きた。ずいぶん前のようにも思えるが、わずか3カ月前だ。しかしこの3カ月で、スマートフォン市場におけるMVNOの存在感が急速に増した。OCNとかBIGLOBEとかIIJとかいう名前が並ぶのを見ると、10年くらい前のブロードバンド普及期に見られたプロバイダ戦争を思い出す。
あの時ほどの強引さはないにせよ、今回もヤフーがひと役買っているところになんとなく既視感を覚えたりもする。
筆者の身近でも、長年iPhoneを使っていた人が通信料節約のために夫婦そろってSIMロックフリーアンドロイド+MVNOに乗り換えた。手続きから10日経ってもSIMが届かないというから、申し込みの混雑ぶりが伺える。スマートフォンを使いながらも料金に不満を持っていた人がいかに多かったかが露呈した格好だ。日本国内ではこれまでメジャーでなかったブランドのスマートフォンが、機能・スペックという従来の基準以外の理由で売れていることも、これからのキャリアの方向性に影響を与えるだろう。
料金の問題よりも、今のキャリアへの不信感を理由にSIMロックフリーのiPhoneを購入し、データ専用SIMを購入して使っている人もいる。販売店の不要なオプションサービス攻勢や、音声通話に有利なプランの押し付けなど、とても利用者のためを思って行っているとは思えない。政策でなく政局のための政治に巻き込まれているようなものだ。
MVNOはしがらみから脱却して気持ち良くスマートフォンを使いたい人の選択肢にもなっている。
また量販店の店先では、SIMを購入し説明書を見ながら自分のスマートフォンに入れている外国人旅行客の姿をよく目にするようになった。逆に日本から海外に行く機会が多い人にとっても、日本国内でSIMフリー端末が入手しやすく事業者の選択肢も多いことは歓迎すべきことだ。MVNOの増加がもたらした利用形態の拡充が、多くの人の不満を解消し、利便性を向上させる。サービス内容の拡充については課題があろうが、スマートフォン市場の規模全体を拡げる動きにつながるだろう。
「拡大」「拡張」「拡充」ということで、2014年のスマートフォン(主にiPhoneまわり)を「拡」という文字で振り返ってみた。昨年の今頃、この状態を予想できなかったように、きっと来年の今頃もまったく予想できない状態になっているのだろう。とにかく、手元にある端末を適正な料金で無事に使い続けていられることを願いたい。
まずはよいお年を。