頻発するデータ漏洩で10月に「Apple Pay」が飛躍? - 2015年のスマホはこれに期待(第5回)
2015年の注目のスマホ関連サービスは過去を探ることで見えてくる。では、どんなニュースに注目したらいいのか。本連載では、マイナビニュースで執筆するライターに、期待が持てる2014年のスマートフォン関連ニュースについて取り上げもらう。第5回はYoichi Yamashita氏のレポートをお届けする。
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2015年のスマートフォンを占う昨年のニュース、私が選んだのはCBS Newsが特集した「What happens when swipe your card?」です。んっ、タイトルが悪すぎて分かりにくいですね。勝手に変えてしまいましょう。前の方の一文をそのまま使って「2014 is becoming known as the "year of the data breach." (2014年は『データ漏洩の年』として記憶される)」です。
「それ、スマートフォンの未来と関係ないから」というお叱りの声が聞こえてきそうですが、そんなことはありません。米国でクレジットカード情報が漏れれば漏れるほど、そして個人情報が悪用されて私たち消費者の被害が膨れあがるほど、2015年にAppleのモバイル決済サービス「Apple Pay」が飛躍する可能性が高まるのです。
2013年末に大手ディスカウントストアTARGETから4000万件のクレジットカード情報が漏洩した時には大騒ぎになりました。でも、それから大規模なクレジットカード情報漏洩が頻発。Home Depotなんて5600万件でTARGETを大きく上回る被害件数でしたが、その頃にはニュースに触れる側も「またか……」という感じで怒りを通り越して、あきらめムードでした。
CBS Newsの特集をざっくりまとめると、今の米国のクレジットカードシステムで企業にデータ漏洩を防げというのは無理。「カード自体が基本的に不正に弱いのです。わらの家をセキュアにしようとしていることに問題があります」という結論です。
そりゃ、そうです。設備投資がかかるという理由でEMVチップ内蔵カードに対応するPOSシステムの導入がさっぱり進まず、EMV対応カードの活用が伸びないという悪循環。しかも、米国はクレジットカードなしで生活するのが難しいくらいのクレジットカード社会です。狙われて当然。買い物が増えるホリデーシーズンに、消費者の最新データがまとめて盗まれて当然なのです。
このニュース、「カード詐欺対策として効果のあるApple PayやGoogle Walletの普及に期待できる」というようにも読めますが、実際はApple PayやGoogle Walletの失敗を暗示するようなニュースです。だって、カード詐欺被害大国なんて言われても消費者の安全を度外視して、セキュリティに難ありな古いカードで支払わせて平気なのが米国の小売業者たちなのです。当然NFC対応POS端末の普及もさっぱり。
彼らが自ら「より良い社会を……」なんて気持ちでNFC対応端末を導入してくれると期待できるなら、登場からすでに3年が経過しているGoogle Walletがもっと普及しているはずです。
●人間を動かすものは損得勘定?
でも今年、米国の小売業者たちは変化を受け入れるでしょう。もちろん善意の行為ではありません。彼らを動かすもの、それは"損得勘定"です。だからこそ、期待できます!
カード詐欺被害の増加に伴う保険費用の高騰に悩まされるクレジットカード会社が今年、大胆な改革を実行します。例えば、VISAは今年10月までに加盟店がICチップカードの読み取りに対応しない場合、偽造犯罪の損失を加盟店契約会社にも負わせます。
これは昨今のカード詐欺被害の増加で決まったものではなく、2015年末までにEMV対応の安全なカード決済へ移行するために数年前から計画されていたものでした。ただ、これまでの調査結果では、損失の可能性と設備投資負担を天秤にかけた小売業者たちの反応は鈍く、EMV対応端末が浸透するには数年を要すると予測されていました。
しかし、2013年末からのデータの漏れっぷりと、それに伴うカード詐欺被害の増加で、とんでもない損失負担に直面する可能性が出てきました。消費者の不利益には鈍感でも、自分たちの損には敏感な小売業者たちは今、大損を防ぐのに躍起です。今年10月までに小売業者が導入しなけらばならないのはEMV対応端末ですが、すでにNFC決済もサポートするEMV対応端末は珍しくはなく、POS端末のアップグレードが進むとNFCを利用できる店も一気に増加すると予測されています。
Appleが昨年Apple Payを開始したのは、今年10月にNFC対応POS端末が増えるのを見越した動きだったと思います。昨年のiPhone 6シリーズを皮切りに、今年さらにApple Pay対応端末が増えるタイミングで、Apple Payが主な小売店で使える環境も整います。放送局がないのにテレビを売るような真似はしないのはAppleらしいやり方ですね。ただ、今年10月までにどのぐらいまでNFC対応POS端末の普及率が上がり、長年クレジットカードを使ってきた消費者の心のバリアが解消されるかは不透明でした。
それもCBSの60 Minutesのような影響力のある番組で「データが漏れるのは当たり前」「カード詐欺被害大国」なんて指摘されるようになると、さすがに消費者も変化を受け入れます。
つまり、従来のクレジットカードに対する不満が高まれば高まるほど、今年のセキュアな決済への移行に弾みがつくというわけです。
モバイル決済で日本は米国のずっと先を行っています。いま米国はようやく微妙なスタートを切ったような状態です。だからといって、しばらく追いつかれないと高を括っていると、いつの間にかApple PayやGoogle Walletが世界的に日常使いされるようになっていた……なんてことが起こりかねません。Apple PayやGoogle Walletの普及が今年、爆発的に加速する可能性があるのです。