なぜソフトバンクは子会社4社を統合するのか - 周波数の有効利用と不振事業の効率化が目的か
1月23日、ソフトバンクがグループ傘下の通信会社4社を4月1日より再編することを発表した。今回再編されるのは、携帯電話事業のソフトバンクモバイルとワイモバイル、電気通信事業のソフトバンクテレコム、ブロードバンドおよびイーコマースのソフトバンクBBの4社だ。存続会社はソフトバンクモバイルとなり、残る3社は吸収合併という形になる。これまで分社化されていた4社が統合された理由を考えてみよう。
まずソフトバンクモバイルとワイモバイルについてだが、これは大変わかりやすい。もともとワイモバイルはイー・モバイルとウィルコムが合併したもので、ソフトバンクがこの2社を傘下に収めた理由としては(ウィルコムの救済という面はあったが)、周波数帯が欲しかったことに尽きる。
ソフトバンクはもともと、NTTドコモやauと比べると狭い周波数帯しか割り当てられていなかった。通信において、帯域幅の広さは収容容量と通信速度の双方に重要なため、同社は時には総務省との衝突も辞さず、周波数幅獲得のために活動してきた経緯がある。
イー・モバイルを買収したのも、周波数帯割り当ての際に、携帯キャリアを多く確保しておいたほうが有利だという事情があったからだ。
イー・モバイル買収への風当たりが強くなると、グループ企業であるヤフーに売却して、直接の傘下ではないというアリバイ作りまでしようとした。ところが、総務省が周波数割り当てに際して、グループ企業は個別の企業としてみなさないという判断を下したことから、ソフトバンクとイー・モバイルが分社している意味がなくなってしまった。
技術的に見ても、LTEの高速化において重要となるキャリアアグリゲーション(CA)では、異なる企業間で周波数帯を束ねることは認められていない。ならば一社にまとめて、900MHz帯から2.5GHz帯まで幅広い帯域を自由に扱えるようにしたほうが得策だと判断したのだろう。
当面、ソフトバンクモバイルとワイモバイルは別ブランドとして存続するようだが、同一会社となった以上、あえてワイモバイルを残しておくメリットはほとんどない。特にワイモバイルは低価格路線を売りにしてきただけに、iPhoneが主力で高ARPU路線のソフトバンクブランドとは相性が悪い。そう遠くない将来にはブランドを統合し、ソフトバンクブランドへと一本化することになるだろう。
個人的にはウィルコムから継承したPHS事業がどのような位置付けになるかに注目している。
●不振の固定通信事業は経営統合で効率化
残る2社のうち、ソフトバンクテレコムは光ファイバー網を中心とした固定通信事業を、ソフトバンクBBはADSLおよびNTTのフレッツ光を利用した「Yahoo!BB」ブランドのブロードバンド事業を展開しているが、ソフトバンクBBはDSLサービスの解約が進むなどして、収益性はピーク時の半分以下にまで落ち込んでいる。ソフトバンクグループの固定通信事業自体が減収・減益傾向にあり、この2社も合わせて統合することで経営資源を集中し、効率を高める狙いがあるのだろう。
中曽根内閣で実施された電電公社民営化後の日本の通信事業の歴史は、通信の自由化と規制緩和に伴う新規事業者の参入と撤退・合併・買収の繰り返しだった。最初の通信事業民営化に伴って成立した日本テレコムの流れをくみ、数々の社名変更や合併を繰り返してきたソフトバンクテレコムおよびソフトバンクモバイル(=ツーカー/J-PHONE)、ワイモバイル(=イー・アクセス)、そして第二電電(DDI)の傘下だったウィルコム(=DDIポケット)が、結局一社に統合されるというのは、見方によっては皮肉という気もする。
また、通信事業を統括する総務省は競争政策をとっているが、今回の合併によって減少した事業者数を再び増やす方向に動くのか、あるいは政策を曲げていくのかという点にも注目したい。