「MakerBot」を体験! 3Dプリンティングの可能性を広げる「シンギバース」の魅力とは
累計出荷台数7万台以上を誇る「MakerBot」は、今年発売された新機種で第5世代目を迎えるパーソナル3Dプリンティングブランドだ。通常のデスクトップ型に加え、コンパクトなミニモデルもラインナップしており、より使いやすく進化を遂げている。USB、Wi-Fi接続、内蔵カメラなどの機能を供えるなど、5世代目らしく熟成されたモデルとなっているのだ。
そんな「MakerBot」の最新機種とエコシステムを実体験できるワークショップが、株式会社ストラタシス・ジャパンにて毎週金曜日に開催されているという。急速に進化し続ける3Dプリンタの世界。その最新事情を取材した。
○「MakerBot」とは何か
金曜日の15時。MakerBot製品を販売する株式会社ストラタシス・ジャパンのイノベーションセンターに5名の男女が集まった。
彼らが参加するのは、同社が開催する3Dプリンティング入門のワークショップだ。
3Dプリンタとは、紙に印刷する通常のプリンタとは異なり、3Dデータをもとに立体物をつくりだすことができる機械のこと。ここ数年間、その市場規模は毎年爆発的に増加しており、世界的なムーブメントを巻き起こしている。
ブームの中心は欧米だが、日本でも3Dプリンタブームは少しずつ広がりを見せている。業界を牽引するのは「MakerBot」。2009年にニューヨークで設立され、現在はストラタシス傘下。パーソナル3Dプリンティングマーケットの成長をリードしている。
「MakerBot」の「Replicator」そのものは3Dプリンタ、すなわちハードウェア(機械)である。
しかし、筆者のような3Dプリンタビギナーにとって、いきなり機械だけを渡されて放り出されるのはハードルが高い。3Dプリンタをどう使えばいいのか、そもそも3Dプリンタが生活のどんな場面で役立つのかわからないからだ。
そこで同社が用意しているのが、3Dプリンタ「Replicator」をはじめとするMakerBotのエコシステム。すなわち、「Replicator」をコントロールするためのアプリ(ソフトウェア)、ユーザーからの疑問や要望を受け付けるサポートセンター、そしてもっとも重要なコミュニティサイト「シンギバース(Thingiverse)」である。また、3Dモデルやコレクションの購入も行える「MakerBotデジタルストア」にも注目だ。ストアでは、シンプルな小物や、複雑な造詣のオブジェを始め、誰もが知るキャラクターをテーマにしたものなど、多種多様なデザインモデルが用意されている。魅力的なプリントや、自身でペイント可能な3Dモデル、コレクションを選んで購入することができるようになっている。
○3Dデータが豊富にそろうコミュニティサービス「シンギバース」
中でも、もっとも重要なのが「シンギバース」。
いわば3Dプリンタ愛好家が集まるSNSともいうべきサービスだ。世界中のクリエイターが3Dプリンタのデータをアップロードしており、他のユーザーはこれを自由にダウンロードして使うことができる。これならもう、3Dプリンタを買ったはいいけれど、何に使えばいいかわからない……なんてこともなくなるわけだ。
ちなみに気に入った作品に手を加えて再アップロードする、いわゆる「二次創作」も認められている。現在、アップされているデータ数は、なんと21万8000点以上(2014年Q3現在)。現在も急速なペースで数を増やしているという。
アップロードされている3Dデータは実に多種多様だ。フィギュアやアクセサリ、ホビー、スマートフォンケース、雑貨、インテリア。
変わったところだと、スノーボードやヘルメットなんてものもある。
「こんなのまで作れるの!?」と驚いてしまうようなハイクオリティな作品も珍しくなく、カラフルでポップな色合いは眺めているだけでも楽しい。シンギバースはいわばネット上のホームセンターであり、アパレルショップであり、インテリアショップでもある。しかも、量産コストを考えずにクリエイターが自由な発想で制作した、とびきりクオリティの高い作品が手に入る夢のような場所なのだ。
ユーザーにはプロのデザイナーもいれば、アマチュアクリエイターもいる。自分がアップロードしたインテリアが北欧の家庭に飾られているかもしれないし、その逆もありうる。気に入った作品にはコメントを残したり、仮に言葉が通じなくても、"お気に入り"ボタンを押して応援したりすることもできる。国籍も年齢も性別も関係なく、3Dプリントを通じて世界とつながれるのがシンギバースの最大の魅力だ。
●シンギバースとデスクトップアプリを使って3Dプリントに挑戦
○シンギバースとデスクトップアプリを使って3Dプリントに挑戦
今回のワークショップでは、実際に3Dデータを使って、プリンティングの一連の流れを体験した。
使用する3Dプリンタは、「Replicator」の第5世代モデルだ。プロフェッショナル仕様の「MAKERBOT REPLICATOR Z18」、デスクトップ型の「MAKERBOT REPLICATOR」、コンパクトで自宅にも設置しやすい「MAKERBOT REPLICATOR MINI」がラインナップされている。
まずは、シンギバースにアクセス。用意していただいたアカウントでログインし、今回プリントするデータを探す。今年は未年ということで、「sheep」で検索すると……出てくる出てくる!羊をモチーフにした個性豊かな3Dデータが大量に表示された。
シンギバースに投稿される作品は、クリエイターが集まる他のコミュニティがそうであるように、季節など時期的な影響を強く受けるという。たとえばクリスマスが近くなればオーナメントが増えるし、iPhoneが発売されるとケースなどアクセサリ類が増えるといった具合だ。
そうした"流れ"を考えて歩いてみると、シンギバースとMakerBotの世界がもっと楽しくなりそうだと感じた。
さて、今回はsheepで検索された中から、かわいらしくデフォルメされた羊のフィギュア「Wooly Sheep」を選択した。データをダウンロードし、デスクトップアプリを起動する。シンギバースとデスクトップアプリは現在、英語のみ。ただし、単語は平易だし、何よりビジュアルがメインなので、英語力に自信がなくてもさほど問題はなさそうだ。
デスクトップアプリでは、ダウンロードした3Dデータの調整を行うことができる。今回は仕上がり具合を「スタンダード」に設定。ここで「High(高品質)」を選ぶと、ディテールがさらに細かく仕上がるが、その分、時間がかかってしまう。
「Low(低品質)」はその逆だ。
諸々の設定を終わらせたら、いよいよプリントに移る。プリンタにはUSBメモリなどを利用するか、Wi-Fi接続でデータを送信することができる。
壁際に設置された第5世代「MakerBot」の周りにセミナー受講生が集まり、USBメモリを挿入する。MakerBotがデータを読み取ったら、ボタンを押すだけでプリントがスタートする。操作に迷うことはない。通常のプリンタと同じレベルの手軽さだ。
MakerBot内にあらかじめセットしておいたフィラメント(樹脂)が高熱で溶解し、3Dデータに従って羊のフィギュアが形づくられていく。目の前で立体物ができあがっていく様は、2D印刷とはまったく違う不思議な魅力がある。
プリントにはそれなりの時間がかかるため、今回のセミナーでは完成を見届けることはできなかったが、MakerBotのエコシステムと3Dプリンティングの魅力は十分に知ることができた。
今のところ、3Dプリンタの素材は樹脂のみとなっているが、MakerBotによると近い将来、違う素材をフィラメントに練り込むことで、金属や樹などの質感を表現できるようになるという。そうなれば、3Dプリンティングの可能性がより一層広がるに違いない。
筐体が大きく高価な業務用しかなかった数年前と比べて、よりコンパクト、高性能、低価格化が進んだ3Dプリンタ。
もしかすると、近い将来のネットショッピングでは、3Dデータを購入して自宅でプリントするのが当たり前――なんて時代が来るのかもしれない。