東京都・六本木で文化庁メディア芸術祭受賞作品展 - Ingress史上初の展示型イベント、巨大な"うねる三脚"も
文化庁メディア芸術祭実行委員会は4日より、「平成26年度(第18回)文化庁メディア芸術祭受賞作品展」を開催している。会期は2月15日まで(2月10日休館)、メイン会場の開館時間は10:00~18:00(金曜日は20:00まで)。
東京・六本木の国立新美術館をメイン会場に、東京ミッドタウン、シネマート六本木、スーパー・デラックスをサテライト会場として展開され、いずれの催しも入場無料となっている。本稿では、会期前に行われた内覧会の様子をお届けする。
○Ingressの世界を展示で再現
内覧会には各部門大賞の受賞者が出席し、作品解説や受賞の抱負を語った。エンターテインメント部門大賞のゲーム「Ingress」の開発会社「Google’s Niantic Labs」からは、Dennis Hwang氏と川島優志氏が出席。史上初となるIngressの"リアル展示"について解説を行った。本件とはやや話が逸れるが、この両名、今やおなじみとなったGoogleトップページの記念日ロゴ「Doodle」のデザインを手がけてきたことでも知られている。
Ingressは壮大なバックストーリーが魅力のひとつではあるだが、ゲーム内容をごく単純化して説明すれば、現実世界を舞台に陣取り合戦を行うもの。スマートフォンで取得したGPS情報を利用して、青陣営(レジスタンス)と緑陣営(エンライテンド)が陣地を奪い合うのが基本的なルールだ。メディア芸術祭の会場では、ゲーム内に登場する「Power Cube」を立体オブジェとして制作、Ingressの世界観を再現した。
これまで世界各地でイベントを行ってきたIngressだが、こうした展示を行うのは今回が初めて。アート部門優秀賞を受賞したメディアアーティストで、大のIngressファンでもある真鍋大度氏が協力し、IngressのAPIを活用して場内演出を手がけた。ブース内には3つのポータル(会場である国立新美術館から2カ所、展示ブース)の様子が投影されており、この3つのポータルの状態がある条件を満たした場合、条件に応じた映像が上映される仕掛けが施されている。
また、このゲームの初期ビジュアルやUIを手がけたHwang氏は、マクロスシリーズ、鉄人28号など「日本のアニメ」の影響を多分に受けてきたといい、Ingressのデザインを手がけた際は、大好きだという「攻殻機動隊」などがインスピレーションの源になっていたとも語った。●6mの巨大な"三脚"がうねるパフォーマンス
○アート部門
今年度は大賞該当なしとなったアート部門。
入り口から入ってすぐのところに、優秀賞のメディアインスタレーション「センシング・ストリームズ-不可視、不可聴」(坂本龍一/真鍋大度)を展示。携帯電話やラジオなどから発せられる電磁波を音と映像で表現したもので、札幌国際芸術祭2014で展示されたものをそのまま東京へと移設した。六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、青山公園、東京タワーから取得したレコーディングデータを元にしており、来場者が周波数を自由に変更し、東京を飛び交う電磁波を「可視・可聴」にした映像を見ることができる。
また、同じく優秀賞の「Nyloid」は、兄弟で結成したアートユニット「Cod.Act」による作品。6メートルもの巨大な構造物が目を惹きつけるが、これは単なるオブジェではなく「音響彫刻」。会期中複数回設けられているパフォーマンスタイムには、巨大なトライポッド(三脚)がエンジンの回転によりのたうちまわり、肉声を分解した音源が動きに合わせて発せられるさまは圧巻だ。公式サイトにタイムスケジュールが掲載されているため、合わせて来場することをお勧めしたい。
○エンターテインメント部門
大賞「Ingress」の特設展示のほかにも、意欲的な作品が多く展示されていたエンターテインメント部門。
優秀賞のインタラクティブインスタレーション作品「3RD」は、来場者が実際に作品を体験することができる。
鳥を模したデザインのヘルメットをかぶると、その内部にあるモニターで、外部のカメラを通じて俯瞰された自らの姿が映し出されている。ゲームのように感じられる風景だが、紛れもなくそこに映っているのは自分自身。係の方にうながされるまま歩き回ってみたが、奇妙なズレや浮遊感があり、筆者は2度ほど壁にぶつかった。頭にかぶって異なる視点を得る、という点では、近年活用めざましいヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」を活用したコンテンツを連想させるが、この作品がもたらすのは、同デバイスによる没入感とはまた異なる体験だった。
そのほか、「のらもじ発見プロジェクト」では現地でタイピングした任意の文字列を「のらもじ」で表示できる展示ディスプレイが用意され、スライムを楽器にしたサウンドデバイス「Slime Synthesizer」は実際に演奏してみることができるなど、体感型の展示が複数見られた。○アニメーション部門
アニメーション部門は、作品(あるいは予告映像)の上映のほか、手描きの原画や設定資料などが展示されているブースが作品ごとに設けられていた。短編アニメーション『The Wound』はモニターでの上映ではなくシアタースペースが設置され、来場者が腰掛けて鑑賞することができるようになっていた。
また、新人賞の劇場アニメーション『たまこラブストーリー』コーナーでは、さまざまなシーンの原画を複数用意するのではなく、特定のシーンの原画を複数並べて展示。そのほか、キャラクター設定画を詳細に掲示するなど、鑑賞後のファンの視線を意識した展示構成となっていた。
○マンガ部門
マンガ部門もアニメ―ション部門と同様作品ごとにブースを設けた展示形態だが、各々の作品性を強く押し出した挑戦的な展示が行われていた。
大賞「五色の舟」(近藤ようこ/原作:津原泰水)では同作を構成する膨大な直筆原稿に着目し、第1話~第4話までを直筆原稿で読ませる仕掛けが展開された。デジタル作画が普及してきた漫画界において、これだけの量の直筆原稿を読む機会というのは非常にまれだといえる。
また、ドラマ化もされて話題となった優秀賞「アオイホノオ」(島本和彦)は、作品テーマとなっている「80年代のマンガ業界」の熱気を演出する意味あいで、作者の仕事机や使用している画材、ネームと完成版の比較などが行われている。
今年度は展示の密度が濃く、体験型の企画も多く用意されるなど、来場者が楽しめるインタラクティブなものとなっていた。4分野で話題を呼んだ注目作品が無料で一覧できる機会となっているため、ぜひ足を運んでみてほしい。