プロセスに翻弄されるDesktop CPU、現状と今後を解説 - PCテクノロジートレンド 2015 Update
既報の通り、AMDは現在開催中のISSCCで次世代SoC「Carrizo」の詳細を説明した。登場時期そのものはともかくとして、取りあえずMobile向けの新製品の準備はつつがなく進んでいることを印象付けている。
一方のIntelはというと、2014年後半からごく一部のSkuで14nmプロセスのBroadwellプロセッサを出荷していたが、2015年に入るとその出荷数量も増えてきたようだ。実際に2015年2月に発表された新しいVAIO ZはTDPが28WのCore i7-5557Uを選択できるようになっている。
つまり、これまではTDPが4.5WのCore Mのみだったのが、ここに来て20W以上のTDPを持つ(=それなりに動作周波数が高い)プロセッサも製造できるようになったということであり、まずは一安心といったところだ。ノートPC向けに関しては、2015年後半にSkylakeへの移行も予想されているが、これに関しては余り心配はない。
では何が心配か? というとDesktop向けプロセッサの動向である。AMDは2014年11月にプロセッサのロードマップを刷新したが、Desktop向けのロードマップを見ると2014年までしか記載されておらず、2015年に関しては何もない。
一方のIntelも、Broadwell-Kがキャンセルされるとの噂まで飛び出しているように、Desktop向けプロセッサについてはかなり混乱があるようだ。
ということで、今回はDesktop CPUに焦点を当てて、現状と今後の動向について解説と考察をしてみたいと思う。
○AMDの動向 - CarrizoはDesktop向けに提供されるか
さて、まずは先ほどのロードマップを確認してみる。Mobileの方はまぁご存知の通りで、別に目新しくもないだろう(Photo01)。一方のDesktopの方(Photo02)に目を向けると前述した通り、2014年までしか記載されていない。このロードマップが2013年末くらいに出たというのなら全く問題ないのだが、いまはもう2015年である。それにも関わらず2015年のロードマップがいまだに公開されていないのは大問題だ。
2015年元日に掲載したテクノロジートレンドでは、CarrizoをがんばってDesktopに持ってくるのではないかと予想していたのだが、今回のISSCCの発表でその可能性は無くなったと現在は判断している。
Photo03はISSCCのスライドから消費電力のカーブを抜き出したもの、Photo04はこれを35Wあたりまで延長したものだ。先の記事でも書いたが、Carrizoは高密度/低消費電力向けにプロセスを変更したので、動作周波数が上に伸びなくなっていることをここでは押さえておきたい。
さて、次に既存のKaveri DesktopとKaveri Mobileの動作周波数と消費電力の関係をプロットしたのがグラフ1である。プロットの仕方は
CPU CentricのWorkloadを考慮(GPUは無視)
TDPの高いほうをPickup(ConfigurableTDPは無視)
動作周波数は定格を採用
Photo04にあわせて、2コアあたりの消費電力を算出
というものだ。点が実際のデータ、破線が近似値である。この破線と、Photo03/04の紫が比較的似ていることが分かるだろうか。Photo03/04は20Wにおける動作周波数を1とする正規化がなされており、グラフ1を見るとKaveriでのこれは2.5GHzあたりになる。
実際のところ、2coreで20Wということは4coreなら40Wになる計算だが、Mobile向けのSKUでは、TDPは35W以下だから、A10-7400Pの4coreで2.5GHzという動作周波数はエンベロープの限界に近いところで動作していると見て取れる。
ではCarrizoはどうかというと、まずCarrizoの20Wにおける動作周波数というそもそもの数字が公開されていないわけだが、これは恐らくKaveriと同じく2.5GHzあたりだろうと筆者は推定する。理由は簡単で、プロセスそのものを変えない限り、これを上回ることは不可能だからだ。
KaveriはGlobalfoundriesの28nm SHP(Super High Performance)といういまだに詳細が明かされない独自プロセスを利用しているが、動作周波数は28nm HPP(High Performance Plus)と変わらないか、むしろSHPの方が高速になるだろう。もちろん低消費電力プロセスである28nm SLP(Super Low Power)でも28nm SHPの動作周波数を上回るのは不可能だ。
大体ISSCCの発表からして、CarrizoではHigh Density Libraryを使うことで既存の製品より省電力/高密度化したという話なので、プロセスそのものは既存の製品と同一と考えるのが自然だろう(マーケティング的にはそういうバックグラウンドを無視して比較もありえるだろうが、ISSCCでそれは無いと思いたい)。ということでCarrizoも28nm SHPを使っての製造であると仮定すると、動作周波数そのものはKaveriと変わらないと思われる。
これを前提に、32.5W(TDP 65W)とか47.5W(TDP 95W)という枠でどのくらい動作周波数を引き上がるかを見てみると、Photo04で示した通り、Carrizoは25Wあたりから動作周波数は伸びなくなる傾向で、35Wでも1.1倍(2.75GHz)に達しない。おそらく47.5Wでも3GHzに達するのは難しく、Turbo動作でも3.5GHzに達するか怪しい。
つまりPower Per Core Pairを一定以上に上げた場合、Carrizoの絶対性能はKaveriより落ちる方向にあると考えて良い。もちろんIPCを大幅に引き上げることができればまた話は別だが、CarrizoではIPCの伸びは5%といってるので、こちらの期待もできない。
ここまでの話をまとめると、Carrizoの設計をそのままにDesktopに持ち込んだ場合、Kaveriより発熱が多く、さらに動作周波数が伸びないという、いわゆる「回らない」チップになる可能性が高く、結果として絶対性能も下がると想像される。
もしCarrizoをDesktop向けに出す場合は、もう一度High Performance向けに再設計が必要になるが、そもそもKaveriをHigh Density向けに設計しなおしたのがCarrizoという形だから、CarrizoをHigh Performance向けにしても、それはKaveriの再設計にしかならない。なので現実問題としてこれはありえないだろう。
もちろんAIOや超小型PCなどには現在のCarrizoの設計でもそれなりに効果はあるだろうから、そうした用途向けにはリリースされる可能性はある。TDP 45W位までは(性能面でのアドバンテージがあるかどうかはともかく)Kaveriと同等の動作周波数で駆動できると思われるので、GPUのCU数を増やした分、性能の改善が見込めるからだ。
その一方でDesktop向けには引き続きKaveriベースの製品が提供されることとなるだろう。
COMPUTEXあたりのタイミングで、Kaveri Refresh(最近これがGodavariという名前になったという報道があったが、真偽は不明)のアナウンスがあるだろうと思われる。動作周波数がどこまで引き上げられるかは不明だが、AMDがGlobalFoundriesと共同で28nm SHPの性能改善を行っていれば、100~200MHz位の上乗せは期待できるかもしれない。
●Intelの動向 - 先行きが不透明なBroadwell-K
○Intelの動向 - 先行きが不透明なBroadwell-K
さて次はIntelの話だ。最初にお断りしておくと、筆者は現時点でのIntelのDesktop向けロードマップは保有していない。なので、現実問題としてBroadwell-Kがキャンセルされるかどうかは知らない。ただ、先に紹介したBitsandchipsの記事を見る限り、「いかにもありそうだ」という感想を持った。このあたりを少し説明しておきたいと思う。
まずはIntelのプロセスについておさらいから。
Photo05は2014年8月11日にIntelのSenior FellowであるMark Bohr氏が"14nm Technology Announcement"という発表をした時のスライドである。ここでは14nmプロセスは、22nmプロセスと比べて「同じ動作周波数ならより消費電力が少ないし、同じ消費電力ならより高速に動作する」ことを示している。
ただ、このスライドの図は「嘘は言っていないが、正確でもない」ものである。なぜならIntelの場合、22nmプロセスはLogic向けのP1270とSoC向けのP1271から構成されており、この2つは内部構造が違うからだ。
Photo06はIntelが2012年のIEDMで発表したトランジスタの特徴であり、P1270がHigh Speed Logic、P1271がLow Power Logicにそれぞれ相当するが、Gate PitchやLgateの寸法が異なっているのがお分かりかと思う。
これを受けて、2013年末にはこんな一覧を示していた(Photo07)。この段階では、まだMobileを含むClientはHP、つまりPhoto06で言うところのHPとSPのトランジスタをベースに製造する前提になっている。2014年の表が無いのは、2014年のInvestor Meetingではこのスライドがばっさり抜け落ちているからであるが、もしあったらClient/ServerにはLow Powerが追加されていても不思議ではない。
話を戻すとIntelの14nm世代はこちらに示したような理由で詳細が公開されていない。なのでこれは筆者の推察なのだが、おそらく14nmでもP1272(SoC)とP1273(Logic)という2種類のプロセスが用意されていると思われる。
先のPhoto05のグラフで、P1270~P1273はどういう風にオーバーラップするか、というイメージ図がPhoto08である。22nm世代までは、Mobile向け製品もLogic向けプロセスで製造していたのが、14nm世代ではSoC向けのP1272に切り替えたた。これによりCore Mの最初の製品は4.5Wなどという驚異的なTDPを実現できたわけだ。逆に周波数を引き上げた現状のハイエンドであるCore i7-5557Uは2core/定格3.1GHzで28Wというのは、P1272における上限に近い部分であろう。
○Desktop向けプロセッサの命運を握るP1273
さて、ここからはBroadwell-Kについて話を進めよう。例えばCore i7-5557Uと同じスペック(Base 3.1GHz/Turbo 3.4GHz)で4coreにしたら、TDPは2倍の56Wで収まるか? といえば、おそらくぎりぎり収まるだろう。ただ、これをCore i7-4770Kと同じBase 3.5GHzまで引き上げたら、恐らくTDPは84Wで収まらないし、ましてやCore i7-4790Kの様にBaseを4GHzまで引き上げることはそもそも無理だろう。
それはなぜか? Intel ARKで第5世代Coreプロセッサ(Core i7/5/3)を確認すると、Baseが2.5GHzを超えるかあたりで大幅にTDPが異なっており、P1272は大体このあたりから急速に消費電力が増える特性であろうと想像されるからだ。
分かりやすい例がCore i3で、2.1GHz駆動のCore i3-5010UのTDPは15Wなのに、わずか400MHzアップのCore i3-5157UのTDPが28Wなことからもこれは確認できる。
現状出回っているBroadwell-KのES(や、一部話題になったSkylake-SのES)は、この特製をも持ったP1272を使って試作されていると思われる。しかも、そのプロセスは現状の安定した段階での製造ではなく、P1272自身に問題を抱えていた時点での製造と思われる。そりゃ消費電力が鬼の様に増えても不思議ではない。
じゃあ、Broadwell-Kは駄目なのかというとそんなことはない。問題が生じているのはLow Power向けのP1272を使っているからで、High Performance向けのプロセスであるP1273を使って製造すればきちんと動作すると思われる。
Base Clockで4GHz超えも難しくないだろうし、その際の消費電力もむしろ下がるかもしれない。Devil’s CanyonよりもOCに向いたチップになるだろう。なので、まともなBroadwell-Kが出るかどうかは純粋にP1273に掛かっているわけだ。
では、IntelはP1273をやるのかやらないのか? といえば、やらざるを得ない。Desktopだけでなく、XeonにはP1273が絶対必要になるからだ。昔からIntelにとってXeonのマーケットは最大の稼ぎ頭であり、Intelは「既存のServerを新プロセスで製造した新しいXeonに更新するだけで、こんなに性能が上がり、さらに消費電力が下がるので、運用コストを考えたら更新するのがお徳ですよ」という主張をサーバ戦略の軸として成長を続けてきた。
だから新プロセスを使い、絶対性能を(上げないまでも)下げずに性能/消費電力比を改善したXeonを出すことは経営的にも必要であり、P1273をやらないという案はまずありえない。幸いにもXeon系列はDesktop/Mobileよりも導入が遅れており、いまはHaswellベースの製品がやっと広くDeployされ始めたばかりだから、次の弾が必要になるまで1年弱のゆとりがある。それまでにP1273をきちんとモノにできれば、影響は最小限に抑えられるだろう。
やはり問題はDesktopに絞られる。Mobile向けにBroadwellの大量出荷が開始されたということは、P1272がやっと出荷品質になったということだ。それはP1273の作業はこれから始まることを意味している。
P1273を使った製品が出荷されるまでにどの程度の期間で可能になるかは不明だが、まぁ普通に考えて1四半期では収まらず、2四半期は軽く要するだろう。だから、早くて8月中に出荷アナウンスであり、遅れればなんとか2015年中にというスケジュールになる。
○Broadwell-Kは市場に投入されるのか
さて、ここでもう1つ絡んでくるのがSkylakeの動向である。OEMメーカー(特にマザーボードメーカー)としては、Broadwell-Kが出てもあまりうれしくない。なぜなら現行のIntel9シリーズチップセットに関しては、基本的にBIOS UpdateでBroadwell-Kに対応できてしまうからだ。
このあたりはSandyBridge→IvyBridgeの時の騒ぎに似ている。ただ前回は、IvyBridgeがPCIe 3.0に対応した(SandyBridgeはPCIe 2.0対応のみ)という違いが「それでも」あったが、今回はそうしたネタもなし。せいぜいがUSB 3.1とかUSB Type-Cコネクタ位しかトピックがなく、買い替え需要を喚起するのは非常に難しい。
ところがこれがSkylake-Sになると、そもそもソケットの互換性もないからマザーボードは買い替える必要がある。さらに当初はDDR3/DDR4マザーがリリースされ、後でDDR4のみのマザーボードが主流になるというトランジションが今回も出てくると予想される。これはマザーボードメーカーにとって大きな商機であり、「Broadwell-Kをすっ飛ばしてSkylake-Sを」という声は当然出てくるだろう。
では、P1273ベースのBroadwellは作られないのか? というと、それはないだろう。Desktop向けプロセッサと共通のプロセスを使うXeon E3ファミリーのマーケットも大きい。いきなりここでBroadwellをすっ飛ばしてSkylakeに飛ぶのは(ソフトウェアのValidationという観点から)困難である。
ただ、P1273ベースのBroadwellをどの程度Desktop向けCPUとして出すかはP1273の成熟次第ではないかと思う。もしP1273が早期に安定して出荷できるようになれば、Skylake-Sを若干後ろにずらしてBroadwell-Kをリリースするのは、「公約を守る」という観点からも好ましい。
一方、P1273の成熟に時間が掛かるようなら、Broadwell-Kをすっ飛ばしてSkylake-SをいきなりDesktopに投入するのは当然選択肢としてありえるだろう。この場合は「Intelの公約違反」という、単にメンツだけの問題である。
ということで、IntelのDesktop CPUは引き続き、14nmのプロセス動向に影響されていると思われる。そりゃしっかりしたロードマップ(=過去の公約とは無関係な、確実なロードマップ)が出てこないのも無理ないところである。
2015年のIDFでIntelはBroadwell-KやSkylakeなどを発表するのは確実と思われるが、問題はそれが本当に大量出荷されるのはいつかということだ。2015年のCeBITあるいはCOMPUTEXあたりのマザーボードメーカーの動向を見れば、もう少しこのあたりがクリアになりそうに思える。