6倍越えのCPUパワーと2倍のメモリもお値段据え置き - 「Raspberry Pi 2」を試す
○「6種類目のRaspberry Pi」は、CPUを大幅に増強して登場
2012年2月29日に出荷が開始されたRaspberry Piは、もともと教育用というコンセプトで登場した。だが、一通りの機能がそろった「Raspberry Pi Model B」で35ドルと手ごろな価格から、Makers(自作で色々作ってしまう人達)からも人気を呼んだ。発売から約3年間に、500万台以上のRaspberry Piが販売されたという。
Raspberry Piは当初、「LAN端子なし・USBコネクタ×1基・メモリ256MB」のModel Aからスタートし、これまで5種類が登場している。概要は以下の通りだ。
・Model A : LAN端子なし、USBコネクタ×1基、メモリ256MB
・Model B : LAN端子あり、USBコネクタ×2基、メモリ512MB(初期のModel Bには256MB版もあった)
・Model B+ : 基板レイアウトを変更して電源強化、USBコネクタとGPIOピンを増やし、ストレージをMicroSDに
・Model A+ : 基板サイズを小型化して低価格化
・Compute Module : 組込み用
上記のRaspberry Piすべて、心臓部となるSoCには「Broadcom BCM2835」を使っていた。一方、CPUには700MHz駆動の「ARM1176JZF-S」を使用していたので、「やや非力」ともいわれていた。
これらを解消したのが、RSコンポーネンツから販売が開始された「Raspberry Pi 2 Model B」(以下、Raspberry Pi 2)だ。
基本的なレイアウトは先代Model B+と同一なので、ケースなどを流用できる。
スペック面では、SoCが「Broadcom BCM2836」となり、CPUは「ARM Cortex-A7」(4コア・900MHz)に、メモリは1GBにと、大幅にパワーアップした。しかも、想定価格は従来と同じだ。
筆者もマイナビニュースの記事を見てさっそく注文しようとしたが、RSコンポーネンツの通販サイト「RSオンライン」で色々と入力している間に、「一時在庫切れ」となってしまった。今回は、マイナビニュース編集部から送られてきた評価ボードを使って、あれこれと遊んでみた(注文しておいたRaspberry Pi 2は、本記事を書いているときに届いた)。
○基本的な基板デザインは従来モデルを踏襲
Raspberry Pi 2の基本的な基板デザインはModel B+と同じだが、新しくなったBroadcom BCM2836 SoCは、RAMパッケージをSoCの上に載せておらず、Broadcomロゴが見える。RAMは基板の裏側に配置されている。
●起動時間は約半分、ベンチマークで5倍以上の速度アップ
○起動時間は約半分、ベンチマークで5倍以上の速度アップ
CPUがパワーアップしたためか、OSとしてインストールしたLinuxの起動も速い。
Raspberry PiではDebianベースの独自パッケージ、Raspbianが標準的に使われており、最新(2015/01/31リリース)のRaspbianを16GBのmicroSDHCカード(SDスピードクラス10)に入れて試してみた。電源を入れて画面のメッセージを見ていると、明らかに素早くメッセージが流れていく。Model B+では、メモリカードのマウントからログインメッセージが出るまで10秒程度かかったが、これもRaspberry Pi 2では明らかに速い。
カーネルのメッセージバッファ(dmesg)を見ると、ログイン画面が表示される前に、swap領域を確保するメッセージが記録されている。これで判断する限り、起動時間は約半分程度になったといえるだろう。
加えて、UNIX BENCH Version 5.1.3を使用して速度を比較してみた。単なる数値演算(Dhrystone/Whetstone)ならば1コアでも1.7倍、4コアをフルに利用すれば7倍と、大幅な向上だ。また、システムメモリが倍増したので、起動直後のフリーメモリも倍以上に増加している。
CPUがパワフルに、そしてメモリ容量が増えたことによって、実際の利用環境で多くのプロセスを動作させても、以前よりメモリスワップが発生しにくくなった。処理が高速になったのもありがたい。
一方、有線LAN(10BASE-T/100BASE-TX)やUSB 2.0を管理するチップ「SMSC LAN9514」は変わっていないので、例えばNASとして使おうとしてもさほどパワーアップしない。先のベンチマーク結果でファイルコピー速度の向上率が低いのは(それでも十分速くなっているが)、SoC以外の部分が大きく影響するためだ。CPUコアを1つしか使わないアプリケーションだけ動作させる場合も、パワーアップの恩恵が少ないだろう。
●消費電力はModel B+比で増大、Model B比では大差なし
○消費電力はModel B+比で増大、Model B比では大差なし
パワーアップによって消費電力の増大はないだろうか?Raspberry Piは、Compute Moduleを除いて、すべてのモデルでmicroUSB Bコネクタから5Vの電源供給を行っている。そこで、USBの電圧電流モニターを使って消費電流を確認してみた。
Model B+比では、アイドル時の消費電力増は誤差の範囲といえるが、CPU負荷の高いベンチマーク時は消費電力が1コア時で約1割増、4コア動作で6割~7割ほど高かった。
Model B+とRaspberry Pi 2で同じ計算量ならば、Raspberry Pi 2のほうが短時間で終了するぶん、トータルの消費電力は変わらないかもしれない。しかし、負荷がかかると少々熱くなるRaspberry Piの泣き所は、Raspberry Pi 2でも変わっていない(蛇足だが、私物のRaspberry Piにはヒートシンクを取りつけている)。
ただ、従来モデルがModel B+になったとき、電源効率を高めて消費電力を減らしているので、さらに古いモデルの「Model B」でも比較してみた。Raspberry Pi 2のアイドル時と1コア利用時はModel Bより省電力、4コア動作時はModel Bより1割前後の消費電力増となっている。つまり、古いRaspberry Pi Model B比なら大差なく、おおむね問題ないだろう。
○積極的に選ぶ価値あるRaspberry Pi 2
昨年(2014年)8月に、Raspberry Piを使った記事[http://news.mynavi.jp/articles/2014/08/13/raspberry-pi/]を書かせていただいたとき、当時はModel B+が登場して間もないころだった。ケース類がそろっていなかったので、「現時点ではおすすめしない」としていたのだが、現在はケース類の入手性がよくなっている。よって、Model B+やRaspberry Pi 2を積極的に利用しない理由はない。
市場では、Model B+のRaspberry Pi 2で販売価格に差がある(Raspberry Pi 2のほうが高い)。できるだけ安く抑えたい、消費電流を可能な限り下げたいという人は、Model B+を選ぶ意味がある。ただほとんどの場合、CPUが大幅にパフォーマンスアップし、メモリが2倍に増えたRaspberry Pi 2を選択しない手はないだろう。
○余談・「Death Flash現象」を回避する
Raspberry Pi2には、カメラのストロボを光らせると動作が停止する「Death Flash現象」が知られていて、今回の評価機でも発生した。これは過大な光によって、基板の「U16」という位置にあるICが反応するのが原因だ。普段使っていて問題になることはない。気になるようなら、U16付近を覆ってやることで対処できる(アルミ蒸着されたお菓子の袋を当てると、ほぼ解消した)。