GTC 2015 - 「ディープラーニング」にGPUの未来を賭けるNVIDIA
米NVIDIAが毎年米国で開催する開発者向けイベント「GPU Technology Conference」(GTC)が、3月17日(現地時間)からスタートした。会場は2014年と同じ米国カルフォルニア州サンノゼ市のコンベンションセンターだ。初日に行われる基調講演は毎年、NVIDIAの創業者でありCEOのジェンスン・ファン(Jen-hsun Huang)氏が行う。
○GTC 2015のテーマは「ディープラーニング」
今回のGTCの話題は「ディープラーニング」だ。ディープラーニングとは、「ニューラルネットワーク」により「認識」や「識別」を行うシステムを構築するものだ。
ニューラルネットワークは、1980年代後半に一時ブームとなったが、当時は、初期状態の設定をランダムに行うぐらいしか方法がなく、高い認識率などを実現するのが困難だった。
しかし、現在では、「よい」初期状態を与える方法などが確立され、さまざまな分野での応用が可能になった。例えば、クラウドサービスなどが持つ、画像の認識機能や、一部の自動車などに搭載されている歩行者の認識機能、あるいは自然言語認識などに使われ始めている。
ディープラーニングには、大量の行列計算が必要で、GPUの汎用演算機能(GPGPU)と相性がいい。実際、多くのディープラーニングのシステムがGPUを利用しはじめている。この組み合わせは、2014年のGTCでも話題にはなったが、このときはGPGPUにおける1つの応用分野にすぎなかった。
しかし、2015年の基調講演を見るに、NVIDIAはディープラーニングを1つの大きな柱として考えているようだ。基調講演では、ディープラーニングの話が大半だったし、セッションも大半がディープラーニング関係で、NVIDIAがディープラーニングに注力する様子がうかがえる。
PCユーザーからみると、NVIDIAは、3Dグラフィックスカードのメーカーとして知られているが、最近CPUは、ほとんどGPUを内蔵しており、以前のようにどのPCにもグラフィックスカードが搭載されているという状況ではない。このため、NVIDAはグラフィックス以外のさまざまな分野へ方向性を模索してきた。GPUによる汎用演算もその1つで、そのためにTeslaのような科学技術計算向けのシステムなどを製品化している。
また、スマートフォンなどのモバイルのプロセッサでは、ARMのCPUコアを使ったSoC(System on a Chip:1つのチップ上にプロセッサコアやGPUなどの周辺回路を統合したもの)が多くを占めており、NVIDIAもTegraシリーズのようなSoCを投入している。
こうした中、登場した「ディープラーニング」は、GPGPUにとって大きな分野になりつつある。さまざまな開発が行われるなかで、いろいろな製品が登場しているが、GPUを使うことで、学習時間を大幅に短縮できる。GPUは計算性能だけをみれば、いまや汎用CPUを大きく上回っており、適合する処理では、高い性能を発揮できる。ディープラーニングはまさにGPGPU向けの分野なのだ。
さて、今回の基調講演では、4つのアナウンスがあった。ただし、いくつかは、すでに2015年1月のCESなどで発表されたものの、アップデートになっている。
○3072個のCUDAコアを備えた「Geforce GTX TITAN X」
最初に紹介されたのは、新GPUである「Geforce GTX TITAN X」だ。
Geforce GTX TITAN Xは、これまで出荷されてきたTITANシリーズの最新版で、Maxwellアーキテクチャを採用したGM200コアを搭載している。
トランジスタ数は80億個、3072個のCUDAコアを内蔵し、単精度演算で7TFLOPSテラフロップス、倍精度演算で0.2TFLOPSの性能がある。また、搭載メモリは12ギガバイトとなる。価格は999ドル。
Geforce GTX TITAN Xは、もちろん、ゲームやグラフィックスで利用できるもので、そうした紹介も行われたが、ジェンスン氏は、Geforce GTX TITAN Xでのディープラーニングの処理速度を紹介した。
Geforce GTX TITAN Xの詳細な仕様やパフォーマンスについては、下記の記事を参照されたい。
○ディープラーニングを対象とした「DIGITS DevBox」を5月に出荷
次の製品は、まさにディープラーニングを対象とした製品だ。NVIDAのディープラーニング用のソフトウェアパッケージ「DIGITS Deep Learning GPU Training System」とこれを高速で実行できる「DIGITS DevBOX」だ。
DIGITSは、すでにディープラーニング用として利用されているCaffe(UCバークレー開発のディープラーニングフレームワーク)を中心に、Torch(Luaスクリプトを使うディープラーニングライブラリ)、Theano(Pythonを使うディープラーニング用ライブラリ)などをサポートし、GPU側のインタフェースやユーザーインタフェースなどをまとめたソフトウェアパッケージで、オープンソースとして入手できる。
このDIGITSが導入されているディープラーニング開発者向けのハードウェアが「DIGITS DevBox」だ。ただし、DevBoxは、いわゆるワークステーションクラスのPCであり、そこにTITAN Xを装着して利用する。OSとしてはLinuxが採用されていて、前述のようにDIGITSが導入されている。2014年の5月から出荷開始で、価格は15,000ドル。
●次世代GPU「Pascal」の性能を紹介 - ディープラーニングではMaxwell比で10倍
○次世代GPU「Pascal」の性能を紹介 - ディープラーニングではMaxwell比で10倍
3つ目のアナウンスは、GPUのロードマップだ。2014年のGTCでは、Maxwellの次がPascal、その次がVoltaということが明らかになり、Pascalについては、3DメモリやNVLink(CPU、GPUを接続するリンク。2014年の時点ではIBMのPowerプロセッサが対応予定となっていた)などを搭載するとしていた。
今回も基本的なロードマップは同じで、Pascalは2016年の投入を予定する。性能はMaxwellの2倍で、NVLinkや3Dメモリ採用という点も変わっていない。ただし、Pascalでは、単精度と倍精度演算を混在した「Mixed Precision」という機能が搭載されるようだ。
具体的には、Pascalは、Maxwellに対して1ワット当たりの演算性能(単精度の行列の積を計算した場合)が2倍、メモリ容量が2.7倍になる。また、精度を混在させた演算では、Pascalが持つ「Mixed Precision」機能により、1ワット当たりMaxwell比で4倍の性能があるという。
さらにディープラーニングで比べればPascalは、Maxwell比で10倍の性能を持つことになるとしている。「10倍」という数字の根拠は、3DメモリとMixed Precisionで5倍程度、さらにNVLinkによるGPU間接続により2倍の性能向上が得られるからとのことである。
○車の自動運転システム向けコンピュータ「Drive PX」の開発ボードを提供
最後の製品は、CESでもアナウンスのあったSelf-Driving Car ComputerであるDrive PXという製品についてだ。
Drive PXは、Tegra X1を使ったコンピュータボードだが、自動運転自動車向けに開発されている。
こちらも2015年5月から出荷開始で価格は10,000ドル。ただし、これは、自動運転自動車を開発するために開発者が利用する「開発ボード」であり、普通の車につけると自動運転ができるようになるものではない(そういうようなイメージの名前ではあるが)。購入できるのは自動車メーカーや開発組織などに限られる。
このDRIVE PXは、12のカメラ入力(インタフェースはGigabit Multimedia Serial Link:GMSL)やCAN(車載機器用のネットワークの規格)、デバイス接続用のUARTなどのインタフェースを持ち、LVDSによるディスプレイ出力もある。
2つのTegra X1が搭載されているのは、冗長性のためで、処理を分散するのではなく、片方が壊れても動作し続けられるためだという。64bit CPU(Cortex-A53と57を各4コア搭載)で10ギガバイトのメインメモリを搭載していて、128ギガバイトのフラッシュメモリが乗っている。
このDRIVE PXでは、12個の2メガピクセルカメラからの毎秒60フレームの映像を同時処理することが可能だとしている。
AlexNet(カナダのトロント大学で開発されたニューラルネットワークシステム)を動作させた場合、6億3000万の接続点で1秒間に1160億接続点分の処理が行えるという。
また、ディープラーニングを使うことで、例えば、歩行者の一部が車の陰に隠れていても認識が可能になり、路肩に止まっている車のドアが開いていれば、その分、自分が走行できる領域が狭くなるといったことも検出できるとの説明もあった。
さて、このように基調講演は、ディープラーニング一色という感じで、2014年までのゲームやグラフィックスが主体だったGTCとは大きく変化した。NVIDIAは、ディープラーニングをGPGPUに最適な応用分野、あるいは「キラーアプリ」ととらえ、これまで続けてきた「車載」や「モバイル」、「科学技術計算」といった製品分野での取り組みをさらに強化することを決めたようだ。