『思い出のマーニー』米林宏昌監督が語る、『アリエッティ』からの変化とジブリらしさ
昨年7月に公開されたスタジオジブリ作品『思い出のマーニー』のBlu-ray&DVDが3月18日に発売となる。原作はイギリスの作家、ジョーン・G・ロビンソンによる児童文学作品で、映画化にあたり舞台をイギリスから北海道に変更。無表情で誰にも心を開かない思春期の少女・杏奈が、金髪の少女・マーニーとの交流を通して心の成長を遂げる物語が描かれている。
本作は『借りぐらしのアリエッティ』で知られる米林宏昌監督にとって4年ぶりとなる監督作品であり、宮﨑駿氏や高畑勲氏が関わっていない作品としても大きな注目を集めた宮崎監督の引退宣言もあり、否応なしにスタジオジブリの次代を担うことを期待されてきた米林監督は、どんな思いで『思い出のマーニー』を制作したのか。作品の制作秘話と心境を伺った。
――まずは作品の制作話から伺えればと思います。本作の映画化を鈴木プロデューサーから提案された時「映画にするのは難しそうだ」と思われたそうですが、実際に制作されていかがでしたか。
難しかったですよ。
今、思い返してもそう思います。杏奈とマーニーを描くのはやはり大変でした。原作は杏奈のひとり語りで綴られていくのですが、映画だと全部を言葉で喋らせるわけにはいきません。僕はアニメーターなので、やはり表情やリアクションなどの"動き"で見せたいなと思ったんですね。ですから、杏奈が水とからんだり、マーニーとからんだりするシーンは、原作よりも多めにしています。ただ、やはり会話がメインになりますから、制作は苦労が多かったですね。それでも、難しいけれどやってみる価値はあると思いました。
――「難しくても映画化したい」と思うだけの魅力があったと。
杏奈とマーニーが交流する場面や、ボートで笑い合ったり、会話をするシーンなどをジブリスタッフが描く美しい風景の中で描けたら、いい映画になるんじゃないかなと思いました。とはいえ、派手な事件が起きて巻き込まれていくような映画ではないし、そもそもはっきり"事件"と言えるようなことは起きないんですよね。だからこそ、杏奈の心にフォーカスできたわけですが、こういう映画の企画はジブリじゃないと通らないでしょうね(笑)。そういう作品が作れてラッキーだったと思います。
――DVDとBlu-rayで発売されると、さらに多くの人が作品に触れることになります。映画館で見たという人も、映像なら何度でも見ることができますよね。何度も見られるからこその楽しみ方や注目ポイントはありますか?
この作品は、そもそも何度も思い返したり見返したりして欲しい作品です。例えばラストの展開を知ってから見返すと、それぞれのシーンにどんな意味があったのかがわかるはずです。
本だとすぐにページを戻して振り返られるのですが、映画では一方向なので難しいですよね。
なので、DVDとBlu-rayではご家庭で何度も見てもらえるとうれしいですね。すべてのシーンに意味を込めています。杏奈の服装や髪型、水に入るときのリアクション、どこで靴下を脱ぐのかまで、あらゆるところにです。ぜひそんなことを考えながら見てほしいですね。
●ジブリ作品ではピーカンが多いのですが、『思い出のマーニー』は曇り空
――監督が各シーンに込めた意図や思いを感じ取ってほしいと。
考えてみる前に「意味不明」と言われてしまったりするのは残念ですね。作っている方は色々な意味を考えて描いているので、そういったものを感じてもらえるとうれしいです。
まあ、一度でわかるように作っておけと言われてしまうとそれまでですけど(笑)。
――宮崎さんが引退を表明し、米林監督を後継者として期待する声も多いです。そうしたファンの期待についてどう感じていますか?
ジブリを背負うという意識はせずに作りました。ジブリについては宮崎さんと鈴木さんの考え方次第ですから。僕が考えるべきはお客さんのこと。『借りぐらしのアリエッティ』の時は、宮崎さんの目を意識した部分が大きかったんです。宮崎さんならどうするだろうとか考えたりもしました。でもマーニーでは純粋にお客さんが面白いと思ってくれることをやろうと考えましたし、最初から宮崎さんのことは意識しないようにしていました。
逆に"意識しない"という意識をしていたのかもしれませんが(笑)。
――そこは『借りぐらしのアリエッティ』との大きな違いですね。
だから、宮崎さんは、きっとこの作品は好きじゃないだろうなって思いますよ(笑)。もちろん、スタジオジブリのファンの皆さんが期待されることもわかるんです。それに応えたいという気持ちもあります。ただ、ファンの声というのもいろいろだと思うんですよ。「ジブリっぽいものが見たい」という声もありますし、逆に『ジブリっぽいものばかり作るな』という声もあります(笑)。その意味で、今回の「思い出のマーニー」は、ジブリから少し外れた要素を入れていきたいと思ったんです。
空一つとってもそうです。ジブリ作品ではピーカン(快晴の青空)が多いのですが、『思い出のマーニー』では曇り空なんですよね。
――言われてみれば、たしかに。
ジブリにしても、ずっと同じことをやってきたわけじゃないんですよ。毎回、実験的なことを色々とやってきました。今までと同じものを繰り返すだけでは、表現する者としてはダメなんじゃないかなと思います。つねに新しいものを模索していかないといけない。だからといって、ひとりよがりでやっていてもお客さんは引いていってしまいます。
そういう意味で「ジブリファンの期待に応えるか」という問いに対しては、「両方やっていく」というのが答えになるでしょうか。スタジオジブリのファンの期待に応えつつ、新しいものを作っていきたいですね。それに、僕は今までスタジオジブリの作品以外の経験がありません。そういう意味では、マーニーには自然にジブリらしさが出ているんじゃないかと思います。
スタジオジブリや宮崎監督よりも、その先にある観客を意識して『マーニー』を作り上げたという米林監督。彼が次代のアニメーション界を担う監督の一人であることは確かだ。ファンの期待に応えながらも、それをさらに超えていく――次の米林監督作品は、どんな映画になるのだろうか。
■プロフィール
米林宏昌
1973年7月10日生まれ。石川県出身。1996年にスタジオジブリに入社し、2010年『借りぐらしのアリエッティ』で初監督。2014年『思い出のマーニー』は監督2作目となり、同年にスタジオジブリを退社。
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