愛あるセレクトをしたいママのみかた

VAIO Phone騒動から見る「ODM」の価値 - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」

マイナビニュース
VAIO Phone騒動から見る「ODM」の価値 - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」
●一種の炎上状態になった背景に
マイナビニュースで新しい連載を始めることになった。狙いは「ニュース解説」。といっても、シンプルなものではない。ニュースの中で「家電的な意味で」もうちょい深掘りして、楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めていく。ご愛顧いただければ幸いだ。

さて、第1回の題材とするのは以下の記事だ。

VAIO Phoneがついに登場! - ユーザーニーズの“ど真ん中”を狙う (3月13日掲載)

VAIO Phoneは、そのありようも含め、非常に多くの議論を巻き起こした。要は「VAIO Phoneの名前から想像していたものとは違う」という反応から、一種の炎上状態になったわけだ。
筆者も様々な課題があると考えているが、述べたいのはそういう話ではない。

皆さんの反応を見ると、「ODMが悪い」「パナソニックのELUGA U2にそっくりだから悪い」といった論調が多いように見受けられるが、本当にそうだろうか。背景には、現在のOEM・ODMを活用したものづくりについての誤解もあるように思う。

今回はVAIO Phoneの話題を軸に、「ODMを活用してモノを作るとはどういうことか」を解説してみたい。

○優秀なODMがいるから「今の家電」が生まれる

かつて、製品を「作る」といえば、大手企業の場合、自社傘下の工場で製造するのが基本だった。他国で製造したり、製造専門の会社に委託したものは一級品ではない……、そんなイメージもあったろう。

しかし、もちろん今は違う。製造を担当する企業は、単に低価格化を担当する部門ではない。
効率的な開発と製造を助ける「専門家」といったほうがよく、ODMはそうした手法の一つを指す用語となっている。

ODMとは「Original Design Manufacturing」の略で、本来は「生産委託を受けて、相手先のブランドのための製品を作る」ということを指す。たとえば、ある企業Aがスマートフォンを開発したいとしよう。しかし、企業Aには機器の開発についても、製造についてもノウハウが不足している。そうした場合に、生産委託を受けた企業Bが設計から生産までを手がけ、委託した企業Aのロゴを製品につければ、ノウハウのない企業Aでも「メーカー」になれる。なんか、どっかで聞いた話だ。

だが、である。

ODMはそんなにシンプルなものではない。
やり方には色々あって、そこに委託する企業とODMメーカーの関係が表れてくる。

●VAIO Phoneの悲劇を呼んだ要因は……
たとえば、最近増えているハードウエアスタートアップが、実際に製品を作って出荷したい、としよう。彼らは彼らなりに、新しい発想で企画した奇抜な製品を提示する。その際には、デザインや発想だけでなく、技術的な特徴を備えていることも少なくない。だから、彼らの元に技術がないわけではない。

しかし、「量産のノウハウ」に欠けていることは容易に考えられる。商品のコアパーツでない部分での部品の選び方や、生産をスムーズにするためのちょっとした設計のコツといったものは、やはり、日常的に「量産」している人々でないと持っていないものだ。意欲的な製品の多くは、ODM・OEMメーカーと、企画元企業のコラボレーションがあって、はじめて世に出て行く。


名前を聞くことも多い「Foxconn」や「Quanta Computer」は、そういうノウハウを多数持っている超一流のODMメーカーだ。彼らの能力なしに、今の家電の量産は難しい。

設計などを持ち寄って生産してもらう形は、いわゆる「OEM」の一形態であり、現在はODMとOEMの境目もあいまいであるが、量産に至る設計や製造プロセスまで含め、どこがイニシアチブをとるかで、生産の形はずいぶん違ってくる。たとえばアップルの場合、設計から生産方法まで徹底的にコントロールする。生産委託先は労働力と物流拠点を提供する相手、といっていい。アップル以外でも、各メーカーのフラッグシップ・スマホはかなりそうした色合いが強い。

だが、ミドルクラス以下のスマホのように設計や製造がそこまで難しくない製品については、人件費が安く、リーズナブルなモノ作りのノウハウに長けたODMと組むにしても、「ほどほど」で済ませる。開発の段階で関与度を高めれば高めるほど、製造にかかるコストや期間は長くなってしまうためだ。
その関与のさじ加減こそが重要なポイントで、Quanta Computerのような企業は、そこで企業とユーザーの要望をうまく満たすすべをよく知っている。

今回、VAIO Phoneにおいて、パナソニックが台湾市場向けに供給している「ELUGA U2」に似ている……、という話が出てきたのは、Quanta Computerが持つ生産パターンの中から、日本通信がそのモデルを選んでカスタマイズしたからだろう、と予測できる。日本通信とVAIOは元々、商品性として「ハイエンドではなく、手に取りやすい価格で十分な性能」のスマホを求めていたようだ。その観点で見れば、VAIO Phoneも、ELUGA U2も決して悪い製品とはいえない。そこに「期待アゲアゲ」になるような事前プロモーションを仕掛けて、ユーザーの期待との乖離を生んでしまったことが、今回の悲劇につながる。

●デザインや梱包は「注文次第」、ブランド維持には努力が必要
一方で、ODMのもうひとつの価値を考えると、VAIO Phoneのやり方はやっぱりよろしくなかった、と感じる。

ODM・OEMは「バッジビジネス」と言われることが多いが、現在、バッジを付けるだけで成立している製品は少なくなっており、きちんとしたブランドコントロールが重要視されている。

ここでいうブランドコントロールとは、質感や「梱包」の点だ。


デザインを大きく変えられない場合、素材や仕上げを変えて付加価値を付けることは多い。VAIO Phoneの場合も背面のカバーを変えているが、「ブランドの名前を全面に立てた製品」の割には、カスタマイズ幅が小さすぎる。

ODMでは製造だけでなく、手間のかかる梱包までも担当することが多い。VAIO Phoneにしても、オリジナルの「箱」が用意されていて、そこではブランド価値向上の試みがなされている。だが、スマホの梱包に使うビニール袋や、同梱品まではあまり気をつかっていないようだ。箱を開けた時の高級感を演出するため、でき合いのビニール袋を使わないメーカーもあるし、同梱品のケーブルやヘッドホンなどに、より良質なものをチョイスする企業もある。

デザインや箱を開けた時の感覚などは、「Out of the Box Experience」などと呼ばれ、商品性のうちとする声は大きい。アップル製品はその代表格だし、ハイエンドスマホでも、そうした部分での価値を追求するものは増えている。
ODMと一緒に製品を作るということは、そういうところにも気をつかって管理するということなのだ。

そのため業界には、ODMとの折衝や生産管理を専門とするプロフェッショナルがいる。彼らに頼らなかったせいで余計な期間やコストがかかったメーカーも少なくない。ODMは優れた存在だが、任せてしまえば彼らの論理で品物を作られる。そこで交渉し、「より自社の求める製品」を作るよう交渉を重ねることが、今の家電作りの一つの形といえる。今回のVAIO Phoneは、筆者も商品性に問題があると思う。課題はELUGA U2に似ていることでも、ハイエンドでないことでもない。「ブランドを重視したモノ作りを、ODMとともに行った」ように見えないことが問題なのだ。VAIOに人々が抱く期待がその程度だと思っているなら残念だし、そうでないなら、もっともっとやることはあっただろう。

提供:

マイナビニュース

この記事のキーワード