日本企業の「稼ぐ力」向上をめざす法人税改革
○「法人実効税率」の引き下げ
法人実効税率とは、法人税など企業の所得に課せられる税金について、企業が実質的に負担する割合のことです。
株式会社などの「法人」組織は、その事業で得た収益の内、一定の割合を法人税として国に納めるほか、法人事業税や法人住民税などを地方税として各自治体に納めています。法人実効税率は、こうした税金について税務上の処理を行なった上で、企業収益に対する税負担が実際にどの程度となっているかを示しています。
日本の2014年度時点での法人実効税率は34.62%(標準税率)と、米国に次いで主要先進国では2番目に高い水準となっていました。その税率の高さから、高い収益を稼ぐ日本企業が、税負担のより軽い国へ移転してしまうことなどが懸念されており、かねてより経済界などから税率の引き下げが強く求められていました。
そうしたなか、政府は法人税改革を日本経済の持続的な成長をめざす「成長戦略」の柱としており、法人実効税率を2015年度から数年で20%台まで引き下げることを目標としています。そして、2015年度の税制改正では、法人実効税率を2.51%引き下げ、32.11%とすることが決まりました。2016年度には更に31.33%への引き下げが予定されており、今後も20%台をめざした法人税の段階的な減税が見込まれています。
市場では、減税に伴ない生じた資金が活用され、設備投資の増加や賃上げにつながることが期待されています。また、法人税は稼いだ収益に応じて課税されることから、今回の引き下げは高収益企業への恩恵が大きく、日本企業にとって収益力を高めるインセンティブとなることも期待されています。
ステップアップ
法人事業税や法人住民税は、各自治体の裁量で税率を上乗せすることができます。そのため、都道府県などの各地域における実際の法人実効税率は、標準税率とは異なっています。
○「課税ベース」の拡大
今回の法人税改革では、法人税率引き下げの財源を確保するため、資本金1億円超の法人を対象とした「外形標準課税」の拡大や、「租税特別措置」の見直しなどを行なうことで、税金を支払う対象、つまり課税ベースを拡大しています。
「外形標準課税」は、企業の利益ではなく、事業規模(資本金や給与総額)に応じて課税される税金です。法人税と異なり、利益の大きさや赤字・黒字に関わらず課税されるため、今回の外形標準課税の拡大は、相対的に赤字企業の税負担の増加につながります。
「租税特別措置」は、特定の業界や企業を税制面で優遇する仕組みで、一般に「政策減税」と呼ばれています。今回は、その一部が縮小・廃止されます。中でも、研究開発費の一部を法人税額から控除できる「研究開発減税」が大きく縮小されており、研究開発への投資額が大きい傾向にある医薬品業界などの税負担が増加するとみられています。
こうしたことから、一部の企業や業界にとっては、今回の法人税改革は減税ではなく実質的な増税になる場合があると考えられます。ただし、今回の法人税率引き下げによる減税額は、課税ベースの拡大による増税額を上回っており、全体では「実質減税」となるようです。また、課税ベースの拡大は、一部の黒字企業への税負担の偏りを改善し、産業の新陳代謝を促すなど、プラス面もあると考えられます。
政府は、法人税の構造を、広く薄く税負担を分かち合い「稼ぐ力」を持つ企業の税負担を軽減する「成長志向型」に変え、日本企業の収益力改善、さらには賃上げへとつなげることをめざしています。今後は、こうした好循環による景気回復が期待されます。
ステップアップ
政府は、賃上げによる景気回復をめざしており、外形標準課税の拡大とともに賃上げ分の一部を外形標準課税の対象としない仕組みを導入しました。さらに、賃上げ分の一部を法人税から控除できる「所得拡大促進税制」という租税特別措置も拡充しています。
(2015年4月1日 日興アセットマネジメント作成)
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