成長戦略へと舵を切ったパナソニック - 4月1日付けでテレビ事業部を復活
パナソニックが発表した2015年度事業方針は、同社が成長戦略へと大きく舵を切ったことを、強く印象づけるものとなった。2015年度の業績予想は、2014年度見通しに対して、売上高で2,500億円増の8兆円、営業利益は800億円増の4,300億円。営業利益率は5.4%となる。
パナソニックの津賀一宏社長は、「売上高は為替影響を除いたベースでも増収になる」と円安に頼らない業績拡大を強調。2014年度には、2015年度を最終年度とする中期経営計画「CV2015」で掲げた「営業利益3,500億円以上」と「累計キャッシュフローの6,000億円以上」の数値目標を1年前倒しで達成する見通しであることを改めて示し、残るひとつの指標である「営業利益率5%以上」についても2015年度には達成することを明言。「5%以上の『以上』という部分にこだわる」と、さらなる上積みまで期待させてみせた。
津賀社長は、「構造改革効果や固定費の削減によって支えられた過去2年の収益構造から脱却。売上成長が増益を牽引する構造へと転換する」と、成長戦略への転換を明確に打ち出してみせたほか、「2014年度中に7つの赤字事業の方向づけが完了。
CV2015で取り組んできた事業構造改革が完遂した」と宣言した。
また、2018年度の売上高10兆円達成に向けて、通常投資に加えて、1兆円規模の資金を「戦略投資」として計上。非連続な成長を実現するためのM&Aや、成長を加速させるための積極的な研究開発投資、宣伝投資なども行う。すでに、2015年度では約2,800億円の通常投資に加えて、約2,000億円の戦略投資を行うことを発表した。
このように過去数年の構造改革フェーズから、成長フェーズへと舵を切ったことを明確化させた今回の事業方針説明は、わずか2年前に2期連続で合計1兆5,000億円規模の赤字を計上したパナソニックの姿はまったく感じられないほどの回復ぶりだといえる。
○4月1日付けでテレビ事業部を復活
今回の事業方針説明のなかから、とくにテレビ/パネル事業、および白物家電を中心とした家電事業にフォーカスしてみたい。家電事業のなかにはテレビ事業も含まれることになる。
構造改革の中心でもあったテレビ/パネル事業は、2014年度にはまだ赤字が残り、7期連続での赤字となるが、PDP(プラズマディスプレイパネル)事業の終息や、LCD事業の転地の加速により、方向づけが完了したことを示す。
ここでいう「転地」とは、パナソニックが使っている社内言葉で、同じ製品や技術でも、ターゲットを変えて、パナソニックの強みを生かす事業戦略へとシフトすることを意味する。テレビの場合には、コモディティ化し、収益確保が難しいコンシューマ向けテレビ主軸の事業形態から、デジタルサイネージなどのビジネス用途向けの展開を加速。収益性を改善させるといった取り組みを指す。
さらに、中国におけるテレビの生産を終了するなど、海外生産拠点を再編。また、米国では工場から直接消費者に届けるファクトリーダイレクト方式を推進し、在庫負担減少などの効果を生んでいる。一方で、4月1日付けでテレビ事業部を復活。これによって、テレビ事業の事業責任をより明確化できるようにし、黒字化への総仕上げに挑む。
津賀社長は、「テレビ事業の回復にマジックはない」と前置きし、「テレビ事業はオペレーションを軽くすることが大切。
開発や生産拠点を軽くし、アセットライト化。それによりオペレーション力を高めなくてはいけない。また、テレビはリードタイムが長い一方で、市場変動が激しい。そのため、市場変動に対応しにくく、在庫が溜まりやすいという特徴がある。マーケットと呼吸をあわせるような事業展開ができるかどうかが重要になる。その一方で、テレビの常識を覆すような新たな価値の実現や、新たな住空間にマッチした製品を投入することが重要」であると、テレビ事業の基本戦略を語る。
だが、基本姿勢は、あくまでも「数よりも、利益優先」の姿勢。来年度は、「黒字化」を最優先課題として取り組む考えは変わらない。
かつて、PDP事業への大規模投資が、長年、パナソニックの業績を悪化させたのは、誰の目にも明らかである。
今回、1兆円規模の戦略投資を行うことを明らかにしたが、津賀社長は、PDP事業終息の経験をもとに次のように語る。「過去の大規模投資の多くが、減損に繋がった反省を踏まえ、成長投資によって増加する資産にもしっかりと目を向け、将来に負の遺産を残さないような事業運営を行っていく」。戦略投資にはM&Aも含まれるが、新たな投資には、過去の反省をもとにした慎重な姿勢で取り組むことになるわけだ。
●白物家電事業はアジアと中国でプレミアム製品を展開
一方で、白物家電事業は、これまで2018年度までに2兆円としてきた売り上げ目標を2兆3,000億円と上方修正した。2014年度見通しに比べて16%増と2桁増を見込む。
津賀社長は、「アプライアンス社において、マーケティング機能を組み込むなど、新たな枠組みとした結果、2兆3,000億円になったまでの話。これまでの2兆円の目標とそれほど違いはない」とするが、これまでは明確にしてこなかった2018年度の売り上げ目標の地域別内訳を公表。
「成長のコアになるのはアジアと中国になる」と位置づけてみせた。
2018年度における日本市場の売り上げ計画は1兆円規模を想定。2014年度見通しと比べてもわずか3%増の成長率としたほか、欧米は4,000億円で同8%減とマイナス成長を見込む。これに対して、海外戦略地域は同60%増の9,000億円と高い成長を見込んでいる。
「海外戦略地域においては、きちっとした組織を作り、戦略投資枠を活用して、宣伝、マーケティングに投資をしていく」とする。その組織が4月に設立するAPアジアおよびAP中国ということになる。
APアジアでは重点国として、ベトナム、インドネシア、フィリピンをあげ、「日本のメーカーならではの『Japan Premium』商品によって、憧れを生み出すような戦略的なマーケティングを展開していくことになる」とする。
一方でAP中国では、中国の富裕層にターゲットを絞り込み、プレミアム商品に開発リソースを集中させる展開を行う。
これまでにも、日本のモノづくりを生かした展開は行ってきたが、今回の取り組みは、現地の組織に対して、大幅に権限を委譲する点がこれまでとは違う。日本からオペレーションを行うのではなく、現地主導で開発、製造、販売を行う。いわばミニパナソニックともいえる組織が、それぞれの地域に生まれることになる。
津賀社長は、「パナソニックは、プレミアムゾーンおよび中級以上のゾーンに対して、本気で品揃えができていなかった。いや、やっていなかったといった方が正しいだろう。いままでは日本に過度に注力しており、海外で戦えるラインアップが揃っていなかったともいえる。そこからしっかりとやっていく」とする。
先に触れたように、2018年度における地域別構成比では、日本が1兆円に対して、インドや中国を含む海外戦略地域が9,000億円。
ほぼ匹敵する規模を構成する。また、欧米を含めると海外売り上げ比率は、家電事業の過半数を占める。日本を中心に展開してきたこれまでのパナソニックの家電事業にはなかった事業構造へと挑戦することになるというわけだ。成長戦略においては、車載関連事業、住宅関連事業などのBtoB事業に注目が集まるが、家電事業においても、これから大きな変革へと挑戦することになる。パナソニックグループにおいて、最も意識改革が必要な事業が、家電事業だといえるかもしれない。