愛あるセレクトをしたいママのみかた

LGが打ち出した「有機ELシフト」の本質 - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」

マイナビニュース
LGが打ち出した「有機ELシフト」の本質 - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」
●国内メーカーに先駆けて有機ELテレビを投入
今回の題材は以下の記事だ。

LG、有機ELテレビを日本で発売 - 55型で4K対応の曲面パネル (3月25日掲載)

有機ELテレビは「次世代のテレビ」として期待されつつも、なかなか世に出ない不遇の技術だった。それが、日本でもいよいよ「実用的なサイズで手が届く範囲の値段」で登場する。各社がなぜ「大画面として有機ELテレビ」を商品展開できていないか、そして、ここでLGが商品化に至った経緯を解説してみたい。

○「カラーフィルター + 白」の有機ELを採用

今回LGが発表した有機ELテレビのパネルには、同社独自の特徴がある。それは、「基本的に白発光のパネル」である、という点だ。

液晶と有機ELの最大の違いは、有機ELが「自己発光デバイスである」ということだ。液晶はバックライトが光り、それを通ってきた光を見る「透過型」。
透過型は明度と暗部のコントラストが弱くなり、色が濁りやすいという欠点を持っている。それに対し、自発光型はコントラストに優れる。今回の発表でも、「黒の黒さ」がアピールされていた。

LG以外がテレビ用として開発してきた有機ELパネルは、赤・緑・青の画素毎にその色で発光するものだ。そうすれば、当然色の純度は上がり、より画質は上がる。

しかし、LGが採ったアプローチは違う。白い発光体の上に赤・緑・青のカラーフィルターを乗せ、さらに、色をつけない「白」を加えた「RGBW」方式を使った。フィルターを使うということは、自発光の良さを一部捨てるということでもある。
コントラストと明るさを維持するため、白の画素を加えている。

これは一見、大きな技術的後退に思える。しかしLGとしては、経済合理性を追求した結果といえる。3色の画素と1色の画素では、パネル製造上の技術的難易度が大きく異なる。特に有機ELでは、画素を発光させる発光材料によって、耐久性・生産性が異なることが知られている。日本ではソニーやパナソニック、韓国ではサムスンが3色の画素で構成するテレビパネルの製造を競っていたが、現在に至るも事業化はできていない。

問題は、液晶が十分に安く、画質向上を果たしてしまったという点だ。

液晶はテレビに使う上でたくさんの問題を抱えていた。
そのため初期のテレビは、決して画質が良いわけではなかった。しかし、生産性の高さと用途の広さは、他のディスプレイの比ではなかった。そのため、技術開発も活発化し、発色や反応性、コントラスト改善も相当のレベルに達している。かつてのライバルであったプラズマディスプレイが負けたのは、その総合力ゆえだ。

有機ELは理想的な存在ではあるが、製造が大変だ。製造工場の立ち上げには相応のコストがかかり、すでにコストメリットが発揮されている液晶と戦うのは非常に困難である。テレビがどんどん売れ、技術開発や製造に湯水のように費用をかけられる時代なら話は別だが、いまやテレビは成長産業ではない。

だからこそ、LGは当初からある種の割り切りを見せた。
画素構造を複雑にしなければ、製造はシンプルになる。発色の面では他社が開発中のパネルに劣るが、有機ELと液晶の間で起きる「スタートの不利さ」をカバーしやすくなる。

という話になると、「じゃあ、LGの有機ELテレビの画質はたいしたことがないのか」という印象を持つだろう。

だが、それはちょっと違う。

●先行逃げ切りを狙うLG、日本メーカーは対抗できるか
有機ELという自発光技術を使う以上、コントラストの高さは、やはり液晶の比ではない。LGの有機ELテレビではフィルターを使うため、色の純度は落ちるが、そもそもコントラスト性能が高いため、液晶に比べ不利、というレベルでもない。液晶テレビで培われた色補正技術を組み合わせれば、少なくとも液晶に比べ不利な点は出てこない。まだ製品において、デモ映像以外の「普通の映画」「普通のテレビ番組」「普通のスポーツ」の画を見ていないため、筆者としての最終判断は保留としておくが、新しいデバイスらしい画質になってきている、と感じる。


ここにきてLGが他社に先駆けて日本で有機ELテレビ市場を作ろうとしているのは、日本が高画質製品にうるさい市場であり、そこでの支持をテコに広く展開したい……という思惑がある。同社は日本でテレビ市場に本格参入して5年が経過した。シェアは低く、大きなビジネスになっているとは言い難いが、画質などに関する研究所を日本に設置し、かなり地道な活動を続けている。普及型から高画質モデルへとシフトチェンジする背景には、日本のLGの組織変更や体制変更といった社内事情もあったようだが、「自分達が持つ技術を軸に攻めるべき」という分析があったのは間違いない。LGは、自社の白 + カラーフィルター型の有機ELディスプレイ・パネルについて、かなり積極的な投資を行ったとみられている。元々シンプルであることに加え、リスクを先行してとったことなどから、各画素発光式の他社パネルよりも、生産量が安定してきているのでは……との観測もある。

実はLGは、このパネルの外販も積極的に展開する。1月のCESでパナソニックが展示した有機ELディスプレイの試作品は、自社製のパネルではなく、LG製のパネルを使って開発されたものだった。
画質面ではまだまだチューニング中、とのことだが、それでも液晶とは別次元の美しさだった。LG純正よりも良いテレビセットが、日本メーカーから出てくる可能性もある。

となると、LGは量産を起動に乗せつつ他社に先行するため、できる限り多くの有機ELテレビを、市場へと素早く送り込む必要があるのだ。他社がLG製パネルを使った製品を市場投入するまでには、最低でも1年くらいの時間が必要と見られている。そのタイムラグを生かしたい、という戦略とみられる。

LGエレクトロニクス・ジャパンの慶甲秀社長は、「テレビがHD(720p)からフルHDに移行した時、価格差が1.5倍程度になると加速した。今回も(有機ELと液晶では)そうなるとスピードは上がる。今すぐとはいわないが、将来的には目指したい」と会見で説明した。
いまは55型4Kで約68万円と、液晶の同クラス製品に対し7割から8割高い。1年後を見据えると、「有機ELと液晶の価格差は1.5倍以内」というのは、あり得ない話ではない。

韓国メーカーというと、まだ「後追い」と思っている人がいる。それはまちがいだ。彼らはすでに中国に追い立てられる立場にある。積極的にリスクをとっていかないと、すぐに入れかわってしまう可能性が高い。事実スマートフォンやスマートフォン向け部材では、そんな状況も見えてきた。

LGは、テレビの開発プラットフォームを変え、スマートフォン由来のOSに変えることでも、他社に先行した。サムスンのような派手さはないが、技術面では日本メーカーの手強いライバルになりつつある。

画質向上や最終的な作り込みにおいて、日本メーカーはまだ強い。だが、すでに強みはそこにしかない。だから、「全世界に対して大々的にテレビを売る日本メーカー」は減ってきている。シャープと東芝が世界戦略にブレーキをかけており、パナソニックとソニーが残る……という状態だ。その両社ともに、技術面では他社と協力のうえ、シュアなビジネスを志向することを明言している。世界のテレビ市場のトップグループに残れるか否かは、ここから数年の戦略で決まってしまうだろう。

提供:

マイナビニュース

この記事のキーワード