高い圧縮率のリモートデスクトップソフト「Siegfried」を試す - iOSからもWindowsマシンをリモート操作可能
○独自の映像圧縮エンジンで高画質・高圧縮を実現
手元にないPCをネットワーク経由で操作する「リモートデスクトップ」のニーズは高い。Windowsも標準でRDP(Remote Desktop Protocol)を実装しているが、低速なネットワーク環境での高速化はもちろん、さらなる応答性の向上など改善を求める声は少なくない。そのような要望を持つユーザーに試してほしいのが、個人や法人(営利/非営利)を問わずに使用できるフリーソフトウェアとして、2015年4月2日に正式リリースを迎えた「Siegfried(ジークフリード)」である。
Siegfriedを開発したIchiGeki氏は、2012年4月からMicrosoft MVP for RemoteDesktopServicesを受賞し続け、iOSからWindowsを遠隔操作する「KeroRemote」などをリリースしてきた。使用した経験をお持ちの方ならご承知のとおり、いずれのアプリケーションも高い応答性を備えている。その背景にあるのは、On2 Technologies(現在はGoogleが買収済み)が開発したビデオコーデック「VP8」をベースに、独自開発した映像圧縮エンジン「KUGA」だ。
KUGAは動き判定をもとに、内部でVP8と、これも独自開発のビデオコーデック「GBVC(GaeBolgVideoCodec)」を内部的に切り替えることで、高画質と高圧縮を実現。IchiGeki氏のブログを参照すると、2013年8月頃に1つの完成を迎えたKUGAは、その後もパラメーター調整など改善を重ねてきた(技術的な部分は割愛する)。
○ホストPCとなるWindowsマシンにSiegfriedを導入
それでは、Siegfriedの使い方から解説しよう。ダウンロードリンクに用意されているのはZIPファイルのため、任意のツールを使って展開すると、実行形式を含めた3つのファイルが現れる。この中の「siegfried.exe」を実行し、ドロップダウンリストから「ServerMode」(サーバーモード)か「ClientMode」(クライアントモード)を選択して、リモートデスクトップのサーバーとクライアントを起動する仕組みだ。なお、Windowsのサービスとして動作させる場合は、管理者として実行すれば選択可能になる。
サーバーモードで起動する場合は、最大64文字のパスワード設定が可能だ。空欄のままサーバーを起動しても構わないが、セキュリティリスクが発生することは理解しておこう。初回起動時はWindowsファイアウォールによるブロック解除をうながされるので、必要に応じてネットワークプレースを取捨選択してブロックを解除すれば、サーバーの準備は完了。サーバーの稼働中は、デスクトップ画面右下の通知領域にアイコンが加わる。
また、通知領域アイコンを右クリックすると現れるメニューからは、リモートデスクトップ描画のフレームレート変更や、ファイルの送受信を行う項目を設定できる。共有フォルダーを未作成の環境でも、ファイルのやり取りができるのは何気なく便利だ。
●SiegfriedクライアントPCから、ホストPCをリモート操作
○SiegfriedクライアントPCから、ホストPCをリモート操作
続いて、クライアント側の準備に取りかかろう。ClientModeに変更すると、設定項目が大きく変化する。「IP」はサーバー側で使用するIPアドレスを入力し、「Port」はサーバー側で変更しない限りは初期値の「49900」で構わないだろう。「Control」はリモートデスクトップ接続時にキーボードやマウス操作を行うか否かの設定だが、サーバー側で有効にしないと動作しない。「VideoQuality」は描画画質を5段階から選択できるが、接続後も変更できるので、まずは変更せずに接続してみよう。
下図は、Windows 8.1から別PCのWindows 8.1へ接続した状態だ。
実行スループットが約17Mbpsの無線LANでも(「LAN Speed Test Lite」で測定)、十分実用レベルである。さすがに画像クオリティやフレームレートを上げるともたつく場面があったため、有線LAN(実行スループットは約700Mbps)を試したところ、こちらは各種設定を変更しても遅延するような場面は皆無だった。
Siegfriedで興味深いのが、マルチディスプレイに標準対応している点だ。筆者はデスクトップPCに4台のディスプレイを接続して普段から使用しているが、クライアント側からリモート表示/操作するディスプレイを自由に選択できるのはありがたかった。また、すべてのディスプレイを表示する項目も用意している。下図はディスプレイを横/縦/縦/横を配置しているため"いびつ"な形だが、さまざまな用途で活用できそうだ。
●iOSデバイスから、ホストPCをリモート操作
○iOSデバイスから、ホストPCをリモート操作
冒頭で述べたようにIchiGeki氏は、iOS用リモートデスクトップアプリケーションとして、KeroRemote以外にも「Orthros」をリリースしている。WindowsマシンでSiegfriedサーバーを起動しておくと、いずれのクライアントからも接続できる。
今回はKeroRemoteをiPadにインストールして接続を試みたところ、拍子抜けするほど簡単にリモート操作が可能だった。スワイプ操作でソフトウェアキーボードや操作ボタンを呼び出せば各種の操作を実現できるが、アプリケーション内にヘルプなどが用意されていないため、各種コントロールの消し方に慣れるまで時間を要するのは少々残念だ。
Siegfriedを使用する上で留意すべきは、Windows標準のリモートデスクトップ接続とは、接続方法が異なる点である。リモートデスクトップ接続はWindowsのセッションを利用しているため、サーバーがWindows 8.1などクライアントOSの場合、同時接続可能セッション数が制限されてロック状態となる。
一方でSiegfriedは、デスクトップの映像や音声などを圧縮転送しているため、クライアント側の操作はそのままサーバー側に逐一反映する仕組みだ。そのためSiegfriedによるリモート接続時は、サーバー側の負荷も高まり、アプリケーションによっては応答性が低下する場合もあることを踏まえて使ってほしい。
○「ルーター超え」のリモート接続も可能
最後に外出先からSiegfriedの接続を確認してほしいと編集部から指示を受けたため、検証結果を報告しよう。SiegfriedはIPアドレスとTCPポートさえあれば接続できるため、ルーター側でNAT(Network Address Translation)設定を行えば簡単そうだが、今回は集合住宅向けISPからVPN経由でフレッツ光接続したルーターへ接続。
その上でSiegfriedのリモート接続を行ったが、もちろん問題はない。
試しにスマートフォンとノートPCをBluetoothでつなぎ、通信キャリアのネットワークでNAT設定を行ったルーター経由で接続したが、こちらもリモート接続の成功を確認している。もっともNAT設定はセキュリティリスクも発生するため、特に問題がなければVPN接続を用いることをおすすめしたい。
なお、今回取り上げたSiegfriedは圧縮率に特化しており、パフォーマンスを優先するのであれば「Brynhildr(ブリュンヒルデ)」と試してほしいとIchiGeki氏は説明している。
阿久津良和(Cactus)