ソニーのテレビ事業、11年ぶりの黒字 - 2014年度決算
ソニーは4月30日、2014年度連結業績および2015年度の通期業績見通しについて発表した。2015年度の見通しは、売上高が前年比3.8%減の7兆9000億円、営業利益は367.2%増の3,200億円、税引前利益は769.0%増の3,450億円、当期純利益は前年度の1,259億円の赤字から、1,400億円の黒字転換を見込む。
ソニー 代表執行役副社長兼CFOの吉田憲一郎氏は、「赤字、無配というところからは脱しつつあるが、まだ病み上がりの状態」と表現する一方、「テレビ事業は83億円の営業黒字。2003年度以来、11年ぶりの黒字になった。2015年度も50億円の黒字を見込む」とテレビ事業の黒字化を強調してみせた。
○2014年度までは地道に止血、2015年度はチャレンジに向けた投資
また、2月の事業方針説明会で平井一夫社長が掲げた「2017年度にROE10%以上、営業利益5,000億円以上」という経営数値目標に対しては、「2015年度は、平井ソニー第2期の目標を達成するための投資の年になる。2017年度の5,000億円という水準は20年ぶりのチャレンジ。これを達成することと同様に重要になのは、5,000億円の水準を維持、向上することである。
とくに、リカーリング型事業に投資をしていきたい」とした。
リカーリング型事業とは、顧客ベースを増やし、そこで長年の契約を結んだり、コンテンツやオプションを継続的に販売するビジネスなどを指し、長期的に収益の安定化を図る狙いがある。
「2014年度まではエレクトロニクスが大幅な赤字を続いており、PC事業の撤退、本社、販売会社の構造改革など、止血のためのアクションを地道に実行してきた。過去の赤字、下方修正の反省を踏まえて、リスクをマネージするもの、投資をしていくものといった形に事業を仕分けし、今後3年に向けた、事業ポートフォリオを再編し、そのやり方を決めた年であった。社長の平井は、感性価値、創業の原点へのチャレンジを掲げており、長期的にどんな会社になるのか、財務的にどうしていくのかといったことを考え、新たなチャレンジをするために投資をしていくという腹決めをした。今年度はそれを実行する年になる」と語った。
また、「テレビ、カメラ、スマホは台数を追わない。創業の精神は、いたずらに規模を追わずに、価値を追う点にある。
今回は、それに沿った予算の立て方になっている。リスクコントロール事業に位置づけているテレビとスマホは、一度しゃがむしかない。ボリュームを落として、次の戦略を考える。売り上げは追わない。だが、BtoCはしっかりとやり抜く」と述べた。
●2015年度の業績見通し
○モバイル事業は2,100人削減、高付加価値モデルに集中
2015年度通期のセグメント別業績見通しは、今年度からのセグメント変更によって新たにソネットを加えた「モバイル・コミュニケーションズ」の売上高が前年比7.1%減の1兆3,100億円、営業損失は1,786億円改善するもののマイナス390億円の赤字を見込む。
「スマートフォンは収益性を重視し、高付加価値モデルに集中。販売台数は前年度の3,910万台から、3,000万台にまで減少させる。
モバイル事業は構造改革を実行する1年と位置づけ、人員の3割にあたる2,100人の人員削減を実行。オペレーション費用についても、3割減の900億円の引き下げを実施する。この効果は2016年度から寄与することになる」と語った。全社の構造改革は2014年度でほぼ実行できたとする一方で、モバイル・コミュニケーションズは1年遅れでの構造改革への取り組みになることを示した。
スマートフォンの販売台数の縮小は、中級価格帯の比率を下げるほか、中国からの撤退が影響するという。なお、「ソネットはモバイルコンバージェンスでの展開を視野に入れて、この分野に入れた」という。
○PS4好調、プレイステーションネットワークを積極拡大
2015年度における「ゲーム&ネットワークサービス」の売上高見通しは前年比1.3%減の1兆3,700億円、営業利益は81億円減の400億円とした。「PS4が引き続き好調を維持すると予想しているが、PS3の減少や為替影響により、売上高はほぼ前年並みとなる。
今年度は、プレイステーションネットワークを存在感があるエンターテインメントプラットフォームに成長させるための投資の年と位置づける。ネットワークサービスのアクティブユーザー数は6,500万人、PS Plusは1,000万人を超えた。PS4を1台でも多く販売し、ネットワーク利用者の拡大を図る」という。また、サードパーティ製ソフトウェアの開発強化や、ソニー・ピクチャーズと連携して制作した連続ドラマなどのオリジナルコンテンツの制作のほか、PS Vueのラインアップ拡充、開発中のProject Morpheusのような新しいハードウェアへの開発投資も行う姿勢を示した。
○イメージセンサーは大幅増収見込み、2,100億円の積極投資も
「イメージング・プロダクツ&ソリシューション」は売上高が4.2%減の6,900億円、営業利益は47億円減の500億円を見込む。「市場の減少が続くという前提であり、とくに、デジタルカメラやビデオカメラは減少する」とした。
「ホームエンタテインメント&サウンド」の売上高は前年比6.3%減の1兆1,600億円、営業利益は21億円減の220億円。「テレビ事業は通期黒字見通しだが、第1四半期は新製品の切り替え時期にあたり、一部製品の出荷が遅れるため、赤字になる」という。
「デバイス」の売上高は16.5%増の1兆800億円、営業利益は320億円増の1,210億円。イメージセンサーの大幅な増収が見込まれ、「技術に裏付けられた顧客企業との協業関係をベースにしており、リカーリング型ビジネスの典型になる」と述べたほか、「2015年度は半導体の設備投資として2,900億円を予定。そのうち、イメージセンサーに2,100億円を投資する。当社のイメージセンサーへの投資は、二面積層という貼り合わせやアナログ技術をベースとしたものであり、最先端技術によるシリコンサイクルの影響を受けず、陳腐化しにくいもの」と語った。
また、「映画」は売上高が16.1%増の1兆200億円、営業利益は55億円増の640億円。メディアネットワーク事業の売上拡大を見込んでいる。音楽は売上高が1.6%減の5,500億円、営業利益は134億円増の740億円。デジタル化への対応、アーティストの発掘活動、事業の多角化を推進するという。
金融は売上高が2.2%減の1兆600億円、営業利益は183億円減の1,750億円とした。
なお、為替の感応度は、エレクトロニクス5分野で、米ドルに対する1円の円安で70億円のマイナス、ユーロでは55億円のプラスになるという。また、2015年度の構造改革費用として350億円を予定。さらに、PCの撤退に伴うサポート費用が2015年度にも100億円弱発生するとした。そのほか、吉田CFOは、「当社は過去7年で15回の下方修正をしている、市場からの信頼を回復する必要がある」などと述べた。
●2014年度の連結業績
○テレビ事業の黒字化は大きな意味を持つが……
一方、2014年度の連結業績は、売上高が前年比5.8%増の8兆2,158億円、営業利益は158.7%増の685億円、税引前利益は54.3%増の397億円、当期純利益は前年度の1,283億円の赤字だったものが、1,259億円の赤字となった。
「売上高は円安がプラスに影響している。利益については、モバイル・コミュニケーションズ分野が悪化したが、デバイスを中心に損益が改善。
2014年度の構造改革は、ほぼ予定通り実行ができた。販売会社で20%、本社30%として固定費削減は達成。2015年度見込みで1,100億円の費用削減(2013年度比)を実現できる」とした。
セグメント別の業績は、「モバイル・コミュニケーションズ」の売上高が前年比11.0%増の1兆3233億円、営業損失は2,330億円減のマイナス2,204億円の赤字。「営業権の減損により、1,760億円を計上しており、これを除くと444億円の赤字になる。ドル高や引当金が赤字の要因」とした。
「ゲーム&ネットワークサービス」の売上高は前年比33.0%増の1兆3,880億円、営業利益は669億円増の481億円と黒字転換した。PS4が好調を維持。PS4は前年度の750万台に対して、1,480万台を出荷したという。
「イメージング・プロダクツ&ソリシューション」は売上高が2.9%減の7,200億円、営業利益は284億円増の547億円。「高付加価値ビジネスが好調であった」という。
「ホームエンタテインメント&サウンド」の売上高は前年比3.3%増の1兆2,073億円、営業利益は456億円増の201億円。テレビ事業は83億円の営業黒字。「テレビ事業の黒字化によって事業を継続できることは大きな意味がある。黒字化したのは、過去3年に渡って、大幅に固定費を縮小してきたことが最大の要因。いたずらに量を追わず、販路を絞った。2015年度もさらに台数を減らすことになる。4月1日付の組織改革において、テレビのマネジメントと販売会社を実質的に一体化した。これは今後のテレビ事業において、重要な意味を持つことになる」と述べた。液晶テレビの販売台数は、2014年度実績で1,460万台と、前年度の1,350万台からは増加しているが、2015年度は1,150万台にまで絞り込む。
「デバイス」の売上高は23.9%増の9,578億円、営業利益は1,055億円増の931億円と黒字転換した。
「映画」は売上高が5.9%増の8,787億円、営業利益は69億円増の858億円。前年度に比べて劇場興行収入の減少。また、サイバー攻撃対応に関する費用として、49億円を計上したという。
「音楽」は売上高が8.2%増の5,446億円、営業利益は88億円増の590億円。デジタルストリーミング配信の売上が増加した。ただし、音楽ディスク事業については、「国内では利益を計上しているが、海外事業では2年間合計で約500億円の損失を計上しており、CFOとして大変反省している」と述べた。
「金融」は売上高が9.0%増の1兆836億円、営業利益は230億円増の1,933億円。その他事業は売上高が42.8%減の4,911億円、営業損失は327億円増となったものの、1,034億円の赤字となった。
一方、分社化のスケジュールについては、2015年10月にビデオ&サウンド事業を予定通り分社化することを示す一方で、「他のセグメントは具体的に言える段階にはない」(ソニー経営企画管理部シニアゼネラルマネージャー VPの武田和彦氏)と述べた。
今回の業績発表では、11年ぶりとなるテレビ事業の黒字化が大きな成果だったといえるが、2015年度の黒字幅も小さく、以前として販売台数の縮小路線を余儀なくされることを考えれば、吉田CFOが語る「病み上がり」という言葉は、テレビ事業にも当てはまるだろう。
その一方で、中期的な成長を担うデバイス事業が、その軌道に乗っていることを示した点では大きな成果がある。だが、過去に何度も下方修正を繰り返してきたソニーだけに、2015年度以降の成長戦略の数値を鵜呑みにするとはできないという見方があるのも事実。第1四半期から、成長の道を着実に歩んでいる成果を示す必要がある。