ルーターオススメ規格「IEEE 802.11ac」のチェックすべきポイント - Wi-Fiルーターの選び方(第3回)
前回は無線規格「IEEE 802.11ac」について紹介したが、今回は11acを構成する技術要素について説明していこう。少々難しくなるが、11ac製品を購入する際の重要なポイントなので、しっかり理解しておきたい。
○高速化のキモ「MIMO」
同時に複数の送受信アンテナを使ってデータをやり取りし、1組のアンテナを使うより数倍の速度を実現するのが「MIMO」(Multiple Input Multiple Output)だ。11nでもMIMOは使っていたが、これまでは最大で4組(4×4)だったものが、11acでは最大8組(8×8)まで利用できる。
もっとも、現在販売されている無線ルーターでは、ストリーム数が4つの「4×4 MIMO」対応が最高だ。4x4 MIMO用でもすでにかなりのボリュームがあるが、8×8 MIMOともなるとアンテナの物理的なサイズも相当なものになるため、コンシューマ向けの市販品として登場するかは少々疑問が残る。
MIMOによる速度向上は、送信側だけでなく受信側も同数のアンテナを持っている必要がある。現在市販されている11ac機器のうち、スマートフォンでアンテナ1~2組、タブレットで2組、ノートPCでようやく3組のMIMOを載せているかどうか、という普及度だ。
3×3 MIMO以上の速度を確実に得ようと思ったら、ルーターを2台用意して、片方を親機、片方を子機(ネットワークアダプタ)として使うのがベストというのが現在の状況だ。
では自分の使っている端末が対応していないから2×2 MIMO以上のルーターを買う意味がないかというと、そんなこともない。11acではルーター側(親機)のストリーム数に応じて複数の子機と同時に通信できる「MU-MIMO」が使える。
11nまでは、どんなにアンテナが余っていても、一度に通信できるのは1台の子機だけで、順番に切り替えながらデータを送受信していたが、MU-MIMOなら親機のアンテナ数が許す限りの子機と同時に通信できる。これにより、端末側の通信速度は変わらずとも、これまでより通信レスポンスが格段に向上することになる。
魅力的なMU-MIMOだが、これを有効に使うにはやはり子機側も11ac&MU-MIMOに対応している必要がある。とはいえ、無線LAN機器は今後11ac&MIMO化が進んでいくため、近い将来を見据えれば、MIMO構成のルーターを買っておくメリットは大きい。
●「ビームフォーミング」とは?
○距離を伸ばすビームフォーミング
MIMOと関連して、複数のアンテナを持ったルーターでは「ビームフォーミング」を利用できる機種がある。
通常、無線LANルーターのアンテナは全方向に等しい強さの電波を飛ばしているが、それぞれのアンテナの強度を調整し、壁などの反射を利用して指向性を持たせ、目的の端末に向けて最適な電波が届くようにするのがビームフォーミングだ。11acとしてはオプション扱いだが、注目したい機能のひとつだ。
ビームフォーミングでは5GHz帯が苦手とする障害物が多い環境でも高速で通信しやすくなり、これまで届かなかったところでも通信できるようになる。
ビームフォーミングでもルーターだけでなくクライアント側が同機能をサポートする必要があり、今の所、同機能に対応を明記しているのはiPhone 6/6 PlusやGalaxy Sシリーズ、AQUOS PHONE ZETAなど、数が少ない。自分が対応機種を使っているなら、積極的に対応ルーターを使うようにしたい。
なお、バッファローは同社の無線LANルーターの一部で、11ac非対応のiPhone 5/5c/5sやNEXUS 7などでも速度向上が得られるとする「ビームフォーミングEX」を搭載している。ビームフォーミングEXも対応機種が限られる機能ではあるが、11ac非対応端末がある場合、選択肢のひとつとして考えておいてもいいだろう。
●「チャネルボンディング」とは?
○帯域を拡張するチャネルボンディング
無線LANでは2.4GHz帯、5GHz帯といった使用される帯域が、さらに20MHzずつの「チャネル」に分けられている。
2.4GHz帯ではチャネル数が13、5GHz帯では合計19チャネルある。通常は1つずつ使うのだが、隣接するチャネルを複数束ねて使い、通常のチャネルの2倍、3倍と速度を上げていくのが「チャネルボンディング」だ。LTEにおける「キャリアアグリゲーション」と似た仕組みと言っていいだろう。
11nまでは20MHz+20MHz=40MHzまでのチャネルボンディングが使えたが、11acからは4チャネル束ねて80MHz、さらにオプションとして8チャネル束ねて160MHzのボンディングまでが規格に入っている。2.4GHz帯の場合、隣接したチャネル同士では干渉が強く、影響を避けるためには5チャネル離す必要があり、チャネルボンディングを前提にすると実質1回線しか使えなかった。ところが11acが使う5GHz帯では、もともと隣接するチャネルどうしが干渉しにくいように確保されており、チャネル数も多いため、80MHzのボンディングでも5GHz帯全体で4回線、160MHZでも2回線確保できる。11acなら、安定した高速性能を期待できるわけだ。
今回はIEEE 802.11acを構成する技術要素について説明してきたが、次回は実際に11acをサポートする製品を紹介するとともに、無線LANルーターを使う上でのメリットやセキュリティといった注意点について紹介していこう。
(記事提供: AndroWire編集部)