音波で情報を配信する「おもてなしガイド」をイオンモールで体験
5月1日、イオンモールでは音のユニバーサルデザイン化支援システム「おもてなしガイド」を活用した実証実験を開始した。実証実験のプロジェクト名は「イオンモール×ヤマハ SoundUD化プロジェクト」。ヤマハが開発したシステムを、イオンモールの一部店舗から展開して行く取り組みだ。この実証実験について、イオンモール幕張新都心においてプレス向けの体験会が開催された。
「おもてなしガイド」は、イオンモールのために開発されたアプリではない。ヤマハが、共通のアプリを各所で利用できることを目指して開発したもので、2014年10月より提供。「音のユニバーサルデザインサービスを受けられる社会」の実現を目的としている。
「おもてなしガイド」は、利用者がアナウンスやナレーションなどの日本語音声が流れているところで、自身のスマートフォンやタブレットからアプリケーションを開くだけで、翻訳された音声や文字を受け取ることができるというもの。
翻訳コンテンツは、各モバイル端末の言語設定にあわせて提供されるため、難しい設定を行うことなく必要とする言語で情報を受け取れる。
翻訳コンテンツは、音声信号をトリガーにして、あらかじめ用意しておいた翻訳音声や文字を提供。この音声信号を、いつも流しているアナウンスや映像などに埋め込むことで、既存のコンテンツを活かした音声・文字ガイドの構築を行える。
体験会に先立って、イオンモール マーケティング統括部 統括部長 檜山護氏は「訪日外国人への対応をイオングループをあげて強化中だ。バリアフリーについても施設の環境整備等強化している。ご来店いただいているさまざまなお客様の暮らしの未来をデザインすることにつながると考え、今回の実証実験のスタートに至った。よりモールで快適な時間を過ごしていただけるようにしたい」と語った。
また、ヤマハ 執行役員 事業開発部 部長 小林和徳氏は、「このシステムは日常のアナウンスを何も変えずに日本語のわからない方や耳の不自由な方に情報が伝えられるのが特徴。
今後もいろいろな企業の方々とともに、多くの環境、多くの条件のもとで、よりよく改良をかさねてよいものにしたい。今後も実証実験は多く計画している」と「おもてなしガイド」についてコメントした。●音声をトリガーに音波で情報を配信
「おもてなしガイド」は音声をトリガーにして、伝達内容をユーザーの利用言語に合わせたテキストでスマートフォンに表示するアプリだ。日本語のわからない外国人に母国語で表示するだけでなく、聴覚障害者等の音声では十分な情報を得づらい人に日本語で表示する機能も持つ。
大きな特徴は、情報の伝達にLTEやWi-Fiといった一般的な通信手段を採用していないことだ。ヤマハの技術によって音波で伝達するため、電波状況の悪い環境でも十分に利用できる。また、音声を翻訳しているわけではなく音をトリガーにしてアプリに情報を受け取らせているため、通常の日本語アナウンスだけで多言語向けの案内を行なうことが可能だ。
「現在訪日観光客は中国本土からくる人よりもタイから来る人の方が増えているが、タイ語のアナウンスはあまり見かけない。
しかしタイ語、フランス語と各国語のアナウンスを追加して行くと日本人にとってわかりづらくなってしまう」とガイド言語を増やす方式の問題を語ったのは、ヤマハ 事業開発部 プロデューサー 瀬戸優樹氏だ。
音はトリガーになっているだけなので、店内アナウンスの終盤などでアプリに翻訳の指示を出しても、全文が確認可能だ。トリガーとしての音が十分アプリに聞き取れる必要はあるが、健常者が特別な注意をしなくとも内容が理解できる程度に聞こえていれば問題はないという。
実際にイオンモール幕張新都心店の店内で、営業時間中に行なわれた体験会では、来客が行き交い、迷子の泣き声なども近くでしている中で行なわれた店内放送をトリガーにメッセージがスムーズに表示された。表示される言語はスマートフォンの言語設定にあわせられるため、ユーザーはいちいち選択せず自動的に母国語でのアナウンスが受けられる。
外国人親子モニターによる「子供が迷子になった」というシーンを想定したデモンストレーションも行なわれた。こちらは通常のシステムを通した店内アナウンスではなく、リアルタイムに呼び出しを行なう形になるが、こちらでも問題なく翻訳結果が表示された。
●イオモール以外でも同じアプリを利用してサービスを受けられる実証実験を展開
「おもてなしガイド」は、採用する事業者が対応言語を決定する部分はあるが、アプリとしては何カ国語にも対応している。
イオンモールの場合は幕張新都市心見せで日本語、英語、中国語の3カ国語に対応。成田店ではこれに韓国語とタイ語を加えた5カ国語対応となっている。
汎用アプリであるため、幕張新都心店と成田店で同じアプリが使えるのはもちろん、今後実証実験に参加する交通機関などが増えてきた場合には同じアプリを各所で利用することができる。
アナウンスはあらかじめ用意されたシステムからの音声出力の場合、ひもづくテキスト情報を用意しておき送付している。迷子放送などについてもテンプレート的な部分は事前準備をしたテキストを利用し、名前や特徴といった変化する部分についてのみ音波で追加送信するような形がとれるようだ。
またスピーカーについてはヤマハ製のものである必要はなく、市役所等に備え付けの一般的なスピーカーからの出力でも利用可能だという。さらに音は人間に聞こえる必要もない。BGMをトリガーにして情報配信することもできるが、人には聞こえない音を使って場に合わせた情報を表示することも可能だという。
日本人健常者に向けたアナウンス以上の音を流すことなく、必要な人には随時わかりやすいテキストでの情報提供が行なわれるということで、健常者にとっても情報が多すぎて目的のものがわかりづらくなるというようなデメリットがないのも特徴だ。
同日から開始されるミラノ万博の日本館では同様の技術を専用アプリに組み込んだ形で利用されているほか、5月15日からは東急バスでもイオンモールと同じアプリを採用。今後はさまざまな企業や自治体と順次展開予定となっている。
ゲストスピーカーとして登壇した経済産業省 商務情報政策局 情報通信機器課 広瀬健治氏は、「日本は高齢者や障害者にくわえ、子供、女性、訪日外国人などを含めたダイバーシティ社会の創出が求められている。そのために専用の機器を用意するのは非効率的だが、それはITによって解決されると考えている。SoundUD化プロジェクトはアナウンスが聞き取れない、意味が分からないといった問題を同時に解決してくれる。また、訪日観光客による買い物消費額は2兆円をこえ、いかに楽しくストレスフリーに買い物をしてもらうかという観点は大切。このような大型ショッピングモールで実証実験が行なわれるのはよいこと」と語った。