失敗を恐れず挑戦、昇格も降格もあり! カルビー女性活躍推進の取組みとは
女性の活躍で、会社の業績は本当にアップするのだろうか? その答えを示している企業のひとつが、食卓でおなじみの菓子メーカー・カルビーだ。
積極的に女性活用に取り組み始めて以来、4年間で売上高3割増、純利益270%増と、業績は好調に伸びている。また、2015年3月には、2年連続で女性の活躍推進に優れた上場企業として、経済産業省と東京証券取引所が選定する『なでしこ銘柄』に。
この4年でカルビーにいったい何があったのか? そして何を目指しているのか? 人事総務本部 本部長の江木忍さんにお話を聞いた。
○日本の女性管理職の割合の低さ
江木さん「当社は『2030(にぃまる・さんまる)』企業を本気で目指しています」
「2030」とは、「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を少なくとも30%程度にする」という意味の政府目標。しかし実際のところ、管理職に占める女性の割合は10.6%。アメリカでは42.7%、フランスは38.5%、ドイツは37.8%と、先進国は軒並み30%を超えているのに比べて、日本では女性管理職の割合はあまりに低い(2011年3月 内閣府・男女共同参画曲調べ)。
実は、今でこそ『なでしこ銘柄』のカルビーも、2010年4月の時点では管理職に占める女性の割合はさらに低く、たったの5.9%。
この数字を知った松本晃会長が放った一言は、「この会社、1世紀遅れているね」というものだった。
――「遅れている」と言われて、どう感じましたか?
江木さん「カルビーはもともと創業者一族が代々世襲しているオーナー企業でしたが、2009年に社外から経営者を迎えることになりました。そのときに会長に就任したのが、ジョンソン・エンド・ジョンソン出身の松本晃です。たしかに、外資系企業出身の松本から見れば、カルビーの女性管理職の少なさは驚きだったかもしれません。でも、私たちからしてみれば、『えっ、どうして?』という感じでした」
しかしその後、カルビーの女性管理職の割合は飛躍的に伸び、2015年4月には19.8%まで増加。そのきっかけとなったのが、松本会長の号令で始まった『ダイバーシティ(多様性)の推進』だった。
○サッポロポテトで意識が変わった
実は江木さんは、2010年に管理職だった数少ない女性の1人。当時はマーケティング本部の本部長を務めていた。
――そもそも江木さんはなぜ、カルビーに入社したんですか?
江木さん「私は90年に中途採用で入社したんです。もともと食べることが好きでしたし、『かっぱえびせん』などのスナック菓子もよく買っていましたから、縁があるかな、と思って応募しました。でも、その頃はキャリアを積むことにも興味はありませんでしたし、まさか自分が管理職になるなんて、考えもしませんでした」
――それなのになぜ、管理職になってバリバリ働いているのでしょうか?
江木さん「入社して5年目に、当時売り上げが低迷していた『サッポロポテト』のマーケティングを担当することになったんです。それで工場に見学に行ったら、にんじん、ほうれん草、かぼちゃ、それにホクホクにふかしたジャガイモが惜しみなく使われているのを目の当たりにしまして。『"自然と健康"という創業理念を具現化している!』と感激してしまったんです」
江木さんは、工場から開発、営業、物流まで含めたプロジェクトを発足。1年かけて、野菜の色が見える『サッポロポテト つぶつぶベジタブル』を開発し、売上を回復させた。
――『サッポロポテト』でスイッチが入った、と
江木さん「それまでは、やる気なんて全くなかったのに、自分で考えて行動して、チームみんなで達成感を味わったおかげで、こんな私でも会社に貢献することができたと実感できたんです。チャレンジって楽しいと、心から思いました。
それと同時に、他の人にもこんな幸せを感じてほしいと、人事の仕事をしてみたいと考えるようになりました」
○会社の未来に女性の力が必要な理由とは
女性管理職は少なかったものの、カルビーはもともと女性が働きにくい会社ではなかったらしい。
――昔のカルビーは、どんな会社でしたか?
江木さん「古き良き日本の会社、という感じでしょうか。私が入社した頃も今も、社員の男女比率はほぼ半々。私は比較的早い段階で課長になりましたが、がんばろうとする女性を特別視するような風潮もなくて、わりと働きやすかったです。ただ、寿退社や出産を機に退社という女性は珍しくなかったですね」
――そんな環境で、会社が女性活用の促進を始めたのはなぜでしょうか?
江木さん「理由はいくつかあります。まずひとつは、カルビーのお客さまの多くは女性だということ。女性もスナック菓子はよく口にしますし、お母さんがお子さんに買ってあげる、ということも多いですよね。それなのに意思決定の現場にいるのが男性管理職ばかりでは、どう考えてもアンバランスでしょう。
それに、女性のアイディアやポテンシャルを活用しなければ、カルビーは企業として、"人"という資源の半分をムダにすることになります。そうならないために、松本会長の肝煎りで立ち上げたのが、『ダイバーシティ委員会』です」
まずは、会社の現状を明らかにする調査が行われた。
江木さん「私は2代目委員長で、参加したのは2012年からですが、委員会立ち上げ直後に『3年後、5年後にあなたはどうなっていたいですか』と尋ねたところ、キャリアプランを立てている人は、男性でもそれほど多くありませんでしたが、女性はそれよりもぐっと少なかったそうです。つまり、『ずっと働いて、キャリアアップしたい』と考えている女性はほとんどいなかったんです」
●女性が活躍したとき、男性のポストは?
調査の結果を受けて、当時のダイバーシティ委員会は、仕事と家庭の両立支援制度についてわかりやすく解説した『D-BOOK』というブックレットを作成し、全社員に配布した。制度については社員規程集にも載っているが、簡単な言葉で伝えることによって、制度の活用促進につながったという。
――このほかに、どんな取り組みが?
江木さん「女性限定の『エンカレッジ研修』を実施しました。2011年9月の初回には、工場で働く人から営業、サポート業務のスタッフまで、さまざまな年齢の女性84人が自主参加しました。1泊2日の研修で、自分のキャリアや強みを総ざらいして、その後の自分のキャリアプランを作ったんです。
初日の懇親会には社長も出席して、会社が女性の力に期待していることをトップが直接自分の言葉で伝えました。『仕事へのモチベーションを初めて持てたと』いう声が多かったですね」。
このほか、年に1回、『ダイバーシティフォーラム』を開催しています。全国から約400人が参加しまして、経営陣のメッセージを聞いたり、外部から講師を招いて勉強したり。ダイバーシティをテーマに交流する『晃さんと語ろう』というイベントもあります」
――「晃さん」って……松本会長ですよね?
江木さん「そうです。けっこう人気があるんですよ、このイベント。経営トップが『女性の力を活用したい』と語れば、社員にも会社の本気度が伝わりますよね。以前行った時はイベントの終わりに、、ボードに『ダイバーシティ推進のために取り組むこと』を書いて、写真撮影。
その写真はイントラネットで公開しました。言葉にして約束することで、ダイバーシティは確実に前進するんです」
○昇格も降格もあり
カルビーのユニークなシステムのひとつが「チャレンジ制度」。この制度にはいくつかのコースがある。例えば「役職チャレンジ」。課長職または部長職にチャレンジしたい人が、本部長全員の前で、これまでの実績や「課長(または部長)になったらやりたいこと」をプレゼンする。
江木さん「社員なら誰でもチャレンジする権利があります。課長を飛び越えて、部長にチャレンジしてもいいんです。今までのところ、部長チャレンジからは毎年1~2名、課長チャレンジでは3~4名が抜擢されています」
――すごいチャンス! ですが、チャレンジ失敗もあるわけですよね
江木さん「もちろんです。
でも、チャレンジしたこと自体は評価されますし、チャレンジ後には出席した本部長たちから『ここはいいが、これが足りない』とか、『ここをもっと勉強するといい』などのコメントが書かれた評価シートがもらえます。これが大好評で、思いはかなわなくても、上の人にちゃんと受け止めてもらえたということが、モチベーションにつながっていくようです」
――でも、女性の管理職が増えれば、その分男性のポストは減るわけですよね。
江木さん「管理職に女性の割合を増やしたいのはもちろんですが、女性だからといって昇進できるわけではありません。男性、女性に関わりなく、優秀な人がふさわしいポストに就くというだけ。成果を上げられなければ、これも男女問わず、降格もありえます」
――降格! 厳しいですね……
江木さん「実は私にも経験があります。2010~11年までは本部長でしたが、12年には部長、翌年はまた本部長。キャリアのアップダウンが激しいんです(笑)。でも、降格したときは、自分でもその理由に納得できたので全く気になりませんでした。それに、管理職を経験することは、自分の成長にとって確実にプラスになります。女性で『役職チャレンジ』する人はまだまだ少ないですが、やってみて損はないんですよ」
○女性管理職が集まる『アネゴネットワーク』
――管理職って大変なことも多いような気がしますが、やっぱりいいものでしょうか?
江木さん「たしかに端から見ると、あまり魅力的な仕事と思えなかったかもしれません。でも、昔ながらの男性的なやり方を見て、『管理職なんて面倒ばかり』と思い込むのは、もったいないと思うんです。ですから、男性のやり方を見て大変だと思うより、管理職として活躍する女性がロールモデルとなって、『あんな風になりたい』と思ってもらうことが大切なんです」
――既存のイメージにとらわれず、"なりたい管理職"像を探すということですね
江木さん「そうですね。それと同時に、女性には女性ならではのライフイベントや悩みもありますよね。そんなときどうしたらいいか、女性管理職に直接ぶつける場があれば、と立ち上げたのが、『AGNネットワーク』。AGNはANEGO(アネゴ)Networkの略です(笑)。女性管理職は自動的にこのメンバーになって、交流することができます。不定期開催ですが、女性管理職だけの食事会や、社内から男性本部長を招いてのレクチャーなども行っているんです。今女性活躍の波は来ています。ダイバーシティは長丁場で取り組まないといけないですが、少しずつ仕組みを変えていければと思っています」
――ありがとうございました。
女性が活躍する企業では、女性が特別扱いされているわけではなかった。みんなが自分のなりたい姿を目指して"当たり前"に働ける会社が、結局は女性が活躍する企業だと言えるのかもしれない。
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