間もなく日本で正式開始、「Stripe」はどんな決済サービス・企業か?
オンライン決済サービスを提供する米Stripeは5月19日、日本での招待制ベータ版サービスの提供を発表し、現在登録受付を開始している。StripeはWebサイトやモバイルアプリに簡単なコードを組み込むことでクレジットカードなどによる決済サービスを追加可能な仕組みを提供しており、ライドシェアサービスのLyftアプリの決済のほか、Kickstarter、Facebook、Twitterといった大手サービスでも採用されている注目企業だ。このStripeが提供するのはどのようなサービスで、日本進出がどのような意味を持つのかを整理してみたい。
○Stripeはいま注目のオンライン決済サービス会社の1つ
オンラインでの支払いを行う場合、最も手軽な決済手段の1つはクレジットカードとなるが、オンラインサービス事業者がクレジットカード決済を可能にしようとすると、一般にカード決済事業者やアクワイアラのような加盟店ネットワークとの個別契約を締結しておく必要がある。
これには事前審査のほか、開設のための初期費用、サイトへの決済機能の導入、そしてカード決済手数料など、越えるべきいくつかのハードルが存在しており、特に零細企業やスタートアップにとって負担が大きいの現状だ。
そこで登場してきたのがPayPalのような決済代行と呼べるサービスで、こうした煩雑な商店向けのクレジットカード処理の受け入れや個人向けアカウントの開設による決済情報の個別管理など、事業者にとって負担となる契約処理や個人情報保護を"代行"することで成長を遂げてきた。
現在、このオンライン決済の世界では第2の波のようなものが押し寄せており、より簡便で決済処理サービスを提供する事業者が出現し話題になっている。1つは2013年9月にeBayによって買収され、事実上PayPalの姉妹サービスとして提供が行われている「Braintree」だ。
サービス内容は基本的にはPayPalのそれに近いが、ペイメントゲートウェイと呼ばれる決済ネットワークへの接続仲介機能の提供のほか、カード情報保存、サブスクリプション型サービスでの自動引き落とし機能、マーケットプレイス機能など、決済に関わるさまざまなサービスを簡易に実装できる。
もう1つの注目が今回話題の「Stripe」で、サイト内にコードを数行埋め込むだけでPayPalのようなページ遷移なしに同一画面内で決済機能を簡単に追加できる点が特徴となっており、さらに世界のユーザーを相手に決済機能を提供するサービスの場合、通貨変換が容易な点でStripeの評価が高いようだ。
どちらも一長一短あるものの、提供される機能は似ており、さらにモバイル対応があらかじめ視野に入っている点が最近のトレンドをうまく取り込んでいるといえる。
●Stripeは注目の企業
○Stripeのバックボーン
Stripeは会社のバックボーンも興味深く、このあたりが注目を集めるもう1つの理由だろう。Stripeの設立日は正式サービスのスタートした2011年9月となっているが、同社の年表によれば2009年からプロジェクトはすでに開始されており、それを勘案しても非常に若い会社だといえる。
創設者はアイルランド出身のPatrick Collison氏とJohn Collison氏の兄弟で、現時点で年齢がどちらも25~26歳と非常に若い。投資家の面々も比較的大物が揃っており、VCのY Combinatorを筆頭に、PayPal共同創業者で知られるPeter Thiel氏、Sequoia Capital、Marc Andreessen氏とBen Horowitz氏が共同設立したAndreessen Horowitzからの投資を受けている。
同社はその後も資金調達を続け、2014年12月時点での時価総額は35億7000万ドルとなっており、約1年前の同年1月時点での17億5000万ドルからほぼ倍増している。
わずか設立4年程度の会社がこれだけの規模になったわけだが、それも今後成長が有望視され、かつ「決済」という流通インフラの根幹を成すサービスの重要性が認識されたものだといえるのかもしれない。
なお、上場前ベンチャー系企業の市場価値の参考データを紹介すると、GoogleによるYouTubeの買収価格が16億5000万ドルで、"(Appleにしては)破格の高額買収"とされたBeats Electronicsが30億ドルなので、投資家視点でかなりの大型有望株だろう。
●日本でのサービス開始で何が変わる?
○Stripeの日本での正式サービス開始後は?
Stripeでは日本のサービス事業者が同決済システムを利用した場合、現在は日本円での決済のみに対応しているが、これが正式サービスに移行することで欧米のケース同様に100カ国以上の決済通貨サポートが行われ、世界中を相手にした決済機能を持つサービス展開が容易になるとみられる。また各種開発者サポートやダッシュボードなど各種バックエンド機能の日本向け提供など、フルサービスメニューが展開されることになる。
こうしたStripeが日本市場で狙うのは、スタートアップ企業、特にモバイルサービスを念頭に事業の海外展開を図る企業が中心になると予想される。
前述のように通常の手続きでこうしたスタートアップ企業が自身のサービスに決済機能を組み込むのはハードルが高いため、Stripeのような仕組みを活用することで素早くビジネスを展開できる。またスタートアップ企業では資金繰りが厳しいなど、クレジットカードで一般的な月末締め後の1~2カ月後入金といったことはなく、最短で数営業日での入金が期待できるなど、キャッシュフローの面での融通が利きやすい。
国内での競合は同種の決済代行やペイメントゲートウェイを提供する、楽天ID決済やGMOペイメントゲートウェイ、そして今年2015年初めに「WebPay」を買収したLINEあたりが挙げられるだろう。
eBayからの分社が決まり、日本国内での事業拡大を進めているPayPalとBraintreeも、欧米豪同様に日本でのライバルになるとみられる。特にPayPal+Braintreeはここ最近、モバイルアプリに決済機能を導入するMobile SDKの利用推進を進めており、Uberを筆頭とした成功事例を頻繁に宣伝している。
Stripeでのそのほかの注目ポイントは、中国でのユーザー拡大を狙うべく同国最大手のオンライン決済代行事業者Alipayと提携したり、Apple Pay決済を可能にする組み込みサービスを提供したり、Bitcoin決済に対応したりと(http://www.wired.com/2015/02/bitcoin-comes-influential-payments-startup-stripe/)、Stripeプラットフォーム上で利用可能な機能拡張を矢継ぎ早に展開している。つまりStripeを利用するサービス事業者は、正式サービスインとともにこうした仕組みを利用可能になることを意味している。