Apple Watchがタイムカードに? - FileMakerと連携させたソリューション
Apple Watchが発売されてから約1カ月が経過した。初期の興奮と混乱もそろそろ落ち着き、話題も冷静な評価や活用法に移行しつつある。そんななか、Apple Watchをタイムカード代わりに使えるソリューションを開発した会社に取材を行った。いったいどのような製品だろうか。
○スマートフォンを使った勤怠管理システム
今回取材したテクニカル・ユニオンは、FileMakerやOracleなどのデータベースシステムを始め、システム開発から運用までを幅広く手がける企業だ。その中に、クラウドを使った勤怠管理システム「TimeMate」という製品がある。TimeMateはバックボーンがクラウド上に置かれたFileMaker Serverで、これを出退勤時間の管理システムとして使うもの。出退勤のデータを確認したいときは、パソコン用のFileMaker Proや、iPhone/iPad用のFileMaker Goといったクライアントアプリを使う。
具体的に出退勤はどうチェックするかというと、基本はスマートフォンを利用する。会社の入り口に、タイムカードパンチャーではなくBluetoothのビーコンを置いておき、そこにスマートフォンアプリ「BTime」を起動してタッチすると、出退勤時間が記録されるという仕組みだ。社員全員がスマートフォンを使っているとは限らないが、その場合はFelicaやMifare、NFCといった非接触型ICカード読み取り機を使い、ICカードやガラケーを使ってタッチするソリューションも利用できる。
ここまでは単純にタイムカードをスマートフォンやICカードに置き換えただけとなるが、便利なのは出張中や直行直帰の場合だ。BTimeを起動して「出社」(または「退社」)ボタンをタップすると、そのときの位置情報と時間が記録される。管理者が出張や直行直帰を承認する場合も、TimeMate上でチェックできる。月末近くになってから出張の報告や承認、清算といった書類仕事で手間取る必要がなくなるわけだ。
●Apple Watch向け「BTime」は非常にシンプル
○Apple Watchからも出勤チェック
それでは、肝心のApple Watchは? というと、Apple Watch用BTimeアプリは出張時に使う出社/退社ボタンが表示され、iPhoneを経由して出退勤が記録されるという仕組みになっている。
iPhoneのGPS情報を使って位置情報が記録されるあたりも同じ要領だ。
出退勤システムとしては最小限の機能だが、現状、Apple Watchのアプリ開発にかかっている制限を考えればやむを得ないところだろう。このやり方であれば、ビーコンを設置する必要もないため、導入における設備投資が不要だという利点もある。
●社長が今後のApple Watchに期待することは?
○待ち遠しいネイティブアプリ解禁
Apple Watchを使ったソリューションも徐々に登場しつつはあるが、その開発において独自の苦労などはないのか、テクニカル・ユニオンの戸倉正貴社長に、Apple Watch向けアプリ開発についてお話を伺った。
BTimeのApple Watch対応版は、5月13日~15日に開催された第5回スマートフォン&モバイルEXPOで初めて展示したもの。取材時点で発表から約半月しか経っていないこともあり、まだ導入事例はないとのことだったが、TimeMate自体に対するものも含めて、多数の問い合わせを受けるなど、反響は大きいとのこと。
戸倉社長によると、iPhoneなどのモバイル機器や、Apple Watchなどのウェアラブル機器といったものは、現場よりも管理者、経営者が使うべきではないかという。たとえばスーパーマーケットでは、部門ごとの売れ行きを分刻みでチェックして、売れ行きの悪い部門でタイムセールを実施するよう指示を出すなど、リアルタイムでの管理が必要になる。
移動中など、いちいちノートPCなどを広げて操作する余裕があるとは限らない。モバイル機器でも管理しやすいよう工夫したシステムやアプリを使えば、もっと自由度が増し、効率的に経営できるというわけだ。
また、書類の承認なども、いちいちパソコンでひとつひとつ選択して承認……とやるのではなく、簡単なものであれば、モバイル機器でざっと確認して承認ボタンを押せば済む話だ。スマートフォンを使ったアプリやソリューションというと、現場目線のものばかりが表に出てくるが、確かに管理職以上に割り当てたほうが適切かもしれない(管理職当人のリテラシーという問題はあるが)。
Apple Watchに求めるものとしては、ネイティブアプリの解放が挙がった。現状ではアプリからセンサー類へのアクセスが制限されており、Apple Watchならではの機能を使ったアプリ開発ができないという。たとえばApple Watch自体はBluetoothやNFCといった機能を搭載しているものの、それらがアプリから利用できないため、BTimeのApple Watch版もああいった仕様になったという。
また、現在はiPhoneのコンパニオン機器として通信機能をiPhoneに依存しているが、第2世代、第3世代になってバッテリー問題などが解決すれば、単独で通信機能を持つようになると予想。
その上で、モバイル/ウェアラブルならではの機動性を生かしたアプリを作ってみたいと語ってくれた。
噂レベルではあるが、アップルは「WWDC 2015」で、Watch OSの次期バージョンを公開し、そこではネイティブアプリの動作も一部解禁される可能性があるという。これが現実になれば、ビーコンと直接やり取りできたり、加速度センサーを使ってジェスチャーでコマンドを処理するなど、さまざまなアプリの登場が期待できる。TimeMate+BTimeの組み合わせもさらにパワーアップが見込めそうだ。
現時点で、アップルはApple Watchに関して、ファッション性を重視し一般ユーザー向けの印象を強くアピールしているが、今回の取材を通じて、面倒な操作を省いて使えるという特徴は、産業界でも相性がよさそうに感じられた。今後もApple Watchはファッション路線で攻めるのかもしれないが、今後はこういった業界にもマッチするタフな端末の登場を期待したい。