佐藤可士和が"美"をブランディングする新プロジェクト - ロゴデザイン一新、中田ヤスタカの曲を採用
美容室向けヘアケア製品の製造・販売を主力事業として展開するビューティーエクスペリエンスは3日、六本木ヒルズクラブにおいて同社のブランディングプロジェクト・新製品 体験型発表会「beauty experience expo」を開催した。
会場では、同プロジェクトの総合プロデュースを手がけた佐藤可士和氏を迎えてのトークセッションが行われたほか、各ブランドイメージに合わせた衣装を着たスタッフの案内で商品を実際に体験できるブースが設営されるなど、ユニークな試みが見られた。ここでは、トークセッションの模様を中心にレポートする。
今回のイベントは、同社が創業40周年を機に、ヘアケア製品の販売のみならず、"美"にかかわるさまざまな分野への事業拡大を図るべく導入した、コーポレートブランディングプロジェクトおよび新製品の体験型発表会。同プロジェクトの総合プロデュースは、セブン-イレブンやユニクロなどこれまでにも数多くのブランディングプロジェクトを手がけてきたクリエイティブディレクター・佐藤可士和氏(サムライ)が担当し、イメージ映像の音楽を音楽プロデューサー・中田ヤスタカ氏(CAPSULE)が制作するという、日本を代表する2名のトップクリエイターが顔をそろえる豪華な顔ぶれとなっている。
続いてゲストの佐藤可士和氏が登壇し、同社代表取締役社長 福井敏浩氏とのトークセッションへと移った。まずは同プロジェクトについて福井氏は「佐藤可士和さんの書籍やTVなどを拝見し、"伝える技術"がとても素晴らしいと感じ、"当社の40周年を機に何か新しいことをやりたい"という趣旨のメールを送ってみた」と明かした。
そして、初対面の際、佐藤氏から「"福井さんにとって最も重要なブランドは何ですか?」と質問されたエピソードを語った。
セブン&アイの鈴木会長は「セブン&アイ」、楽天の三木谷社長は「楽天」、ファーストリテイリングの柳井社長は「ユニクロ」だと即答したということだが、福井氏は即答できなかったという。「自社の製品ブランドがまず先に頭に浮かんでしまい、社名は出てこなかったんです。そこで"会社の世界観が構築できていない"と気づかされ、次第に"社名を変えたい"という思いが強くなってきました」とコメント。この4月、社名を旧社名の「モルトベーネ」から「ビューティーエクスペリエンス」へと変更した経緯を明かした。
佐藤氏は「企業ブランディングはネーミングが非常に重要です。どこに理念を込めてやっていくのかなどをお伺いしていたら、次第に社名ごと変更するのがベストではないかという結論に至りました。大切なのはミッションをブレないでやっていくことで、それを再構築するのがこのプロジェクトの真の狙いです」と述べた。プロジェクトを始動するにあたり、佐藤氏が「モルトベーネとはどういう会社ですか?」と福井氏や同社社員に尋ねると、"品質"や"挑戦"、"プレミアム"といった言葉に混じって"ワクワク"というキーワードが多く含まれていた点に着目した。
「今まで色んな企業と関わってきたが、"ワクワク"というキーワードが出てくる企業はこれまでになかった」という佐藤氏。そこで「製品作りを通じて新しい体験を作っていく」ということから、まずはミッション・ステートメントとしてまとめ、その内容を表す社名をさまざまな角度から1,277案を捻出。そのなかから「新しい美の体験」というミッションをそのまま英訳した「ビューティーエクスペリエンス」をネーミングとして採用したそうだ。
●佐藤可士和流、企業ロゴの発想フロー
次に、新しい「企業ロゴ」を作成するにあたり、さまざまなアイデアを出したという。例えば、新社名の頭文字である"B"や"BE"を図形にしたらどうなるか、または"beauty experience"をそのまま形にしたらどうか、あるいは美の象徴とも言える"花"や"輝き"をモチーフにしてみてはどうかといったアイデアを出したが、今後のグローバルな展開も見据えて、漢字の"美"という文字をモチーフにすることに決めたという。
ブランドカラーにはユニークな"紫"を採用し、プロジェクトの始動から約1年半かけて新社名とロゴが決定したということだ。佐藤氏は「会社が生まれかわって次に何をしていくのかということが、そのまま社名となり、そのままロゴになるという、すべてが一体化されたこのやり方は、コーポレート・アイデンティティとして新しい方法だと思う」と述べた。シンプルでわかりやすいことがスピード感につながっているという。
また、今回のプロジェクトでは、同社のコンセプトの中でもキーワードとなっている「体験」のひとつとして、映像と音楽とのコラボレーションにも挑戦したという。佐藤氏の表現したイメージから生まれた同社のブランドコンセプトをもとに、ASOBISYSTEM(アソビシステム)が映像を制作。サウンド制作にはPerfume、きゃりーぱみゅぱみゅ等のプロデュースを手がける、音楽プロデューサーの中田ヤスタカ氏が担当するなど、2人のトップクリエイターによる夢のコラボが実現している。
佐藤氏は「今後グローバルに展開していくには、イメージで伝えることがコミュニケーションには非常に大切」だと述べ、「せっかくアソビシステムさんと仕事をするなら、(同社に所属する)今の日本の新しいポップカルチャーを率いる中田さんとコラボレーションできないかと、僕のほうからオファーを出しました」と明かした。中田ヤスタカ氏には、今回のプロジェクトの経緯を説明した上で、イメージが花や光、記号などの断片であることを伝え、それをもとにしたサウンドが出来上がったということだ。完成した楽曲を聴いたとき、「中田さんらしいような、らしくないような、とても新しい印象を受けた」と述べ、「新しい会社のサウンドをデザインするのは良いことだと思う」と語った。ちなみに、このイメージ映像は、ビューティーエクスペリエンスのWebサイトで視聴できる。
最後に今回手がけたプロジェクトに関して、佐藤氏は「ミッションを練り直すということは非常に重要な作業で、今回の社名変更はタイミングとしては良かったと思っている」と述べ、「社名を変えるというのは企業にとっては一大事。
これから長く使うものなのだから、一週間では決められない。最も大切なことは何かということをずっと考察した結果、1年半という長い期間を要した」と語るとともに、福井氏には「日本を代表する新しいビューティーカンパニーとして、新しい美の文化をグローバルに展開していくことを期待しています」とエールを送り、壇上をあとにした。
なお、会場の隣に設けられていたブースでは、トークセッションのあと発表された同社の新製品「ロレッタ デビル(Loretta DEVIL)ブラックヘアケアシリーズ」や「Honeyce’(ハニーチェ)スタイリングシリーズ」などを、実際に製品を手に取ったり試したりできる体験型のブースが用意されていた。スタッフはそれぞれのブランドイメージに合わせた衣装を身にまとい、まるでアミューズメントパークに遊びに来たかのような気分で、同社の製品について知ることができた。