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本当に利用者の立場に立ったものづくりとは? - 実利用者研究機構の「使いやすさ検証済認証」

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本当に利用者の立場に立ったものづくりとは? - 実利用者研究機構の「使いやすさ検証済認証」
みずほ銀行は2014年11月から同行ATM操作画面のリニューアルを開始した。一部エリアではすでに先行して導入されているので、気づいた方もいるのではないだろうか。ここまでの大規模なリニューアルは、実に約10年ぶりだという今回のプロジェクト。同行は運用開始に合わせて実利用者研究機構による「使いやすさ検証済認証」を取得している。これは、どのような認証なのか、また同行がそれを取得したねらいとは。同行個人マーケティング部 エリアマーケティングチーム 調査役の川端竜一氏、実利用者研究機構 代表の横尾良笑氏にお話を伺った。

○ユーザビリティ対応への問題意識からスタート

川端氏のチームではATMの設置場所選定から操作画面まで、ATMに関わる様々な業務を行っている。川端氏が担当する操作画面については、利用者から「わかりにくい」「こうしてほしい」といった意見や要望が数多く届いていたが、これまではそれに十分に対応してくることができなかったという。


川端氏「その反省点を踏まえ、これまで大きく変えてこなかったものを抜本的に見直そうということが、リニューアル企画立ち上げの背景にありました。」

企画の最初の段階で、これまで利用者から寄せられていた声を徹底的に見直し、何をどう変えていくべきかの洗い出しを行った。それを基本に、目的別の操作の流れを構築し直し、操作画面のボタンデザイン・書体・配色を決めていった。画面の文字には視認性の良いユニバーサルデザインフォントを採用し、ボタンや文字はカラーユニバーサルデザインに配慮して配色を決めるなど、誰にでも使いやすいユニバーサルデザイン(以下、UD)の考え方を念頭にプロジェクトが進められた。

一通りの作業が完了したところで、川端氏はユーザビリティ調査を専門に行っている企業に依頼し、モニターによる実機の利用調査を実施した。最初の段階で利用者の意見を十分に検討し、UD対応を基本にデザインを行ってきたことで、この時点で以前の画面よりは、だいぶ使いやすいという反応が得られた。この調査で得られたモニターからの反応と、 ボタンの形や配色などに関する意見を反映させ、2回目の調査も行って、最終的な形がほぼ確定した。

これまで、画面のデザイン変更に当たっては担当者自身の判断やチームメンバーに意見を求めることで検討を行ってきたが、川端氏は「それでは限界がある」と専門家による知見の必要性を感じていた。今回は専門の調査会社に依頼することで、利用者視点の調査に公正性が得られた形になる。


こうした中、ユーザビリティの視点から書籍などでUDを勉強したり、接点のある企業などを頼って情報を集めていた川端氏の目に留まったのが、実利用者研究機構(当時、日本ユニバーサルデザイン研究機構)の「使いやすさ検証済認証」だった。

川端氏「自分たちの主観ではなく、あくまでお客様の目線に立ってプロジェクトを進めてきました。独り善がりのものでない、という思いを伝えたいと思いました。」

川端氏は「使いやすさ検証済認証」を取得することで、利用者の声を受け止め、利用者の立場に立って作られたものであることを、分かりやすい形で伝えたいと考えたのだ。

○工夫したつもりが……適切な配慮の難しさ

横尾氏が「使いやすさ検証済認証」を立ち上げたのには、理由がある。10年ほど前、UDの研究を進める中で"UD対応"を謳う食器を実際に使ってみる調査を行ったところ、その約9割が「障がいがある人にもない人にも使いにくい(横尾氏)」という結果になった。障がいのある人や高齢者のための工夫が足りないのではなく、工夫したことが意図したその目的を果たしていなかったのだ。

例えば、握力の弱い人でも持ちやすいようにと、胴の部分に指の形にフィットする形状の窪みが付けられたコップがある。しかし、窪みが指のカーブに密着するということは、熱いものを入れると熱い面に指が密着するということになる。
また、小さな子供の手には窪みの位置が合わず、普通の大人にとっては持つ場所を限定される。UD視点の配慮が適切でないと、逆に使う人を制限してしまう結果になりかねないのだ。

反対に、適切な配慮がなされたコップは、微妙な角度で外側へ広がる形状により握力が弱い人でも落としにくく、内側は嚥下障害のある人にも飲みやすい角度をつけた二重構造。だが外見は普通のコップとあまり変わらず、一般の大人も子供も普通に使うことができる。誰でも使えるというUDの理念に合致するほど、逆に見た目だけではその特長が伝わりにくい。利用者は実際に使ってみるまで、それが使いやすいかどうか判断することは難しいのだ。

○正しい検証と、使いやすいものを作るノウハウの蓄積

リニューアルされたはずの製品やサービスが、実際には以前より使いにくかったというケースは、利用者として経験したことのある方も多いだろう。なぜこうしたことが起きるのだろうか。
横尾氏は製品の開発プロセス、特に検証段階での問題点を指摘する。

プロトタイプができた段階でモニターに利用してもらい、搭載された機能を便利だと感じるかどうか訊ねれば、「便利だ」と回答されるかもしれないが、それは設計した側の考えによる仮説を検証しているに過ぎない。本当に必要なのは「想定外」を検証することだ。

機能やユーザビリティ向上のために盛り込んだ事項は、製品を得点で評価した時に(高い低いはあるが)基本的にプラスになる。しかしプラスにすることに捉われたがために、手つかずで残った部分やプラスとトレードオフで削ったり、変更した部分が、評価にとってのマイナスになっていることに気付かないと、思わぬところで使いにくさや事故につながる恐れがあるのだ。

また、開発企業がテストを行う状況と、実際の使用状況が異なっていることもある。店頭デモや試用で便利そうだと思っても、買って家で使ってみるとそうでもなかった、という経験はないだろうか。他にも、小さな違いが見えない部分で蓄積されていることが考えられる。
社員やその家族、自社製品の利用者などから募集したモニターでは、その前提となる部分の違いに気付けないことが多いのだ。こうしたことから、横尾氏は「使いやすさ検証済認証」の取得にあたっては、第三者による利用者テストを必須としている。

横尾氏「自社基準でなく、第三者の法人や専門機関が募集したモニターによる利用者テスト行うことで、全体の質が上がっていくと考えています。」

さらに、製品企画段階からUD対応と同認証取得をサポートするケースでは、利用者テストやその分析にも同機構が参加することで、企業の中にノウハウを蓄積し、使いやすい製品を開発できる人材を育成することにも注力している。

みずほ銀行の新たなATMは、2回の利用者テストを経て「使いやすさ検証済認証」の取得を申請した。申請後に同機構が改めて専門家チームがユーザビリティ検査をするインスペクション法による検証を行い、その結果からさらに用語統一や言葉の表現の修正を加えた後、正式に認証されることとなった。利用者の声を大切にしながらUD対応で形にし、さらに専門の調査会社による検証を重ねた今回のリニューアルについて、横尾氏は「理想的な開発ステップ」だと評価している。

「使いやすさ検証済」認証制度
「使いやすさを決めるのは専門家や規格ではなく、普通の一般利用者である」という理念の元、推理や推測でなく、「一般利用者の評価」を基軸に、科学的に真偽を確かめることを定めたもの。利用者への認知だけでなく、企業に対して「商品を育てる」視点で利用者による評価を活用するノウハウ蓄積にも役立てられている。

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