デザイン重視のプロダクトとデジタル印刷を推進するHP - 「Innovation Day - Asia Pacific & Japan」in シンガポール
ヒューレット・パッカードは6月8日、シンガポールにて「PPS Innovation Day - Asia Pacific & Japan」を開催した。各種のプレゼンテーションやデモ、展示の中から、ポイントをしぼって紹介する。
2015年後半に分社化を控えている米ヒューレット・パッカードおよび日本ヒューレット・パッカードだが(以下、HP)、「PPS」は「HP Printing and Personal Systems Group」のこと。文字通り、業務印刷まで含むプリンティング事業と、PCを代表とするパーソナルシステム事業を展開するグループだ。分社後は、このPPSが1つの企業体となる。また、PPSの「Asia Pacific & Japan」地域における拠点がシンガポールということもあって、今回のプライベートイベントもシンガポールで開催された。
○Intel RealSenseで実現する新しいタッチUI
まずはPCから見ていくと、Intel RealSense 3Dカメラ(以下、RealSense)を搭載した液晶一体型デスクトップ「Sprout by HP」がおもしろい。米国では2014年11月から約1,900ドルで販売中だ。
PCの本体上部から前方に向けてRealSenseが備え付けられており、通常はキーボードやマウスを置く位置に専用マットが敷かれている。このマット上に物体を置いてスキャンできたり、マット上に投影されるタッチUIで多彩な操作を実現できたりする。
デモでは、タトゥーアーティストや洋服デザイン、パプリカをスキャンして合成写真を作るといったパターンが披露された。間近で見た合成写真の作成は、指でなぞりながら切り取りやドラッグを行い、恥ずかしながら最初は何をどうやっているのか分からないほどの操作スピードだった。この手の新しいユーザーインタフェースは、魅力的なアプリケーションとユースケースが大切だと思うので、ぜひ充実、進化していってほしいところだ。
○日本からの強い要望で実現した1kgの12.5型ノートPCなど
ノートPCでは、2014年12月に発表されたビジネス向け12.5型「HP Elitebook Folio 1020 G1」シリーズの上位版、「Special Edition」に注目したい。すでに日本でも発売済みで、米軍調達基準を満たす堅牢性や一通りの外部インタフェース、ドッキングステーションによる拡張性などを備えながら、約1kgという軽さを実現している。
HPブランドの小型薄型ノートPCは、日本法人(日本ヒューレット・パッカード)が粘り強く訴え続けて製品化された背景がある。
「HP EliteBook Folio 1020 G1 Special Edition」も最初は日本から投入され、各国のニーズなどを考慮しながら販売する地域(国)を広げていくという。そのほか、2015年2月にスペインで開催されたMobile World Congress 2015に合わせて登場した、360度回転ヒンジを持つ2-in-1ノートPC「Spectre x360」の姿もあった。
プレゼンテーションをはじめとして、PC関連では「デザイン」を強調しており、PCの付加価値としてHPがデザインを重視していることが見て取れた。デザインの好みは個人差が大きいが、少なくとも「作りが良い」ことは間違いない。なお、今回のイベントで展示していた各PCは、HP EliteBook Folio 1020 G1 Special Editionなど一部モデルを除いて、現時点では日本投入の時期や価格は未定となっている。
●コカ・コーラやキリンビール、身近なところにHPのプリンティング
○商品の高付加価値化やパーソナライズ化に貢献するHPのデジタル印刷機
続いてはプリンティング関連だ。ヒューレット・パッカードはワールドワイドで個人向けプリンタを手がけているが、ビジネス向け、エンタープライズ領域、および印刷業界における規模のほうがはるかに大きい。ここでは、我々のような一般消費者が普段あまり目にしない(気にもかけない?)、巨大な「印刷機」に注目してみよう。
HPは「Indigo」シリーズというデジタル印刷機を持っており、ワールドワイドでほぼ独占に近いシェアを獲得している(だいたい数千万円から数億円もする機器なので、1台売れたり売れなかったりでシェアの変動も激しいのだが)。デジタル印刷機の大きなメリットは、少数のカスタム印刷を低コストで実現できることや、必要な数だけ無駄なく印刷できることだ。現在の主流であるオフセット印刷は、1種類の印刷ごとに「版」を作るため、同一かつ大量の印刷には強いが、デザインなどを変えた少数印刷には弱い(コストが膨大になる)。プレゼンテーションで紹介されたIndigoを用いた事例は、コカ・コーラのキャンペーンだ。ペットボトルの1本1本に、すべて異なるラベルを貼り付けて出荷するというもの。日本では別のキャンペーンを展開しているのだが、仮に、コンビニで売られているコカ・コーラのペットボトルを想像してほしい。日本全国、同じラベルのコカ・コーラは1本たりとも存在しないということなのだ。これはデジタル印刷機でなければ、現実問題として不可能である。
そのほか、ワインのラベルや缶ビールのラベル、子どもたちが創作したストーリーを1冊ずつの「本」に製本するといった事例が紹介された。
Indigoシリーズのほかにも、HP Scitex、HP Latexといったシリーズがあり、それぞれインクや得意分野が違う。例えば、水をベースにしたインクだと、環境負荷が低くニオイを発しないというメリットがある。そこで壁紙に応用し、日本のとあるホテルの場合、フロアごとや部屋ごとに壁紙を変えて異なるイメージを演出している事例があるそうだ。
今のところ、デジタル印刷の規模は業界全体で5%~10%くらいとのことだが、将来的にはもっと伸びるに違いない。HPでは、「規模は5%~10%でも価値は20%~25%」としており、先述したコカ・コーラとのコラボレーションによって、おもしろい可能性が大きく広がったという。いずれ日本でも、身近にあるさまざまな商品において、パーソナライズされたデザインやオリジナリティの高いデザインを目にする機会が増えそうだ。