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Apple Music、LINE MUSICで始まる「ストリーミング・ミュージック」市場の拡大 - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」

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Apple Music、LINE MUSICで始まる「ストリーミング・ミュージック」市場の拡大 - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」
●「持っていない曲も聴きたい」
直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材はこれだ。

Apple、定額制の音楽配信サービス「Apple Music」発表 - 月額9.99ドル (6月9日掲載)
定額制音楽配信サービス「LINE MUSIC」 - 8月9日まで無料で聴き放題 (6月11日掲載)

筆者は現在、取材でアメリカにいる。先週はWWDCでサンフランシスコにおり、Apple Musicの発表を目の前で見ていた。また、LINE MUSICについては渡米前に詳細な取材を行い、他誌に記事を書いている。

今回は、これら「ストリーミング・ミュージック」がどのような状況にあるか、改めて整理し、サービスの内容について分析してみたい。

○「持っていない曲も聴きたい」ニーズが拡大中

ストリーミング・ミュージックは、音楽をダウンロードせず、すべてストリーミングで楽しむもの。月額の固定料金であり、会員である限りは、サービスが提供する膨大な楽曲が聴き放題になる。
これまでのダウンロード配信は、ディスクを購入する代わりにデータをダウンロードして「所有する」ものだったが、所有している音楽以外は再生できない。ストリーミング・ミュージックは楽曲を所有できない代わりに、巨大なライブラリーへの入場パスを手に入れるようなものである。

この種のサービスはすでに海外では定着しており、世界的に人気な「Spotify」と、アメリカを中心に人気の「Pandora」が有名なところだ。Spoifyについては先日、全世界でアクティブユーザー数が7,500万人、有料会員数が2,000万人を突破した、との発表があったところだ。

ストリーミングというと「音質が悪い」というイメージを持ちそうだが、現在主流のサービスはそうではない。最高音質設定の場合、Apple MusicがACC・256kbps、LINE MUSICがAAC・320kbpsで配信を行う。ダウンロード配信もおおむねこの値に近く(ハイレゾ配信を除く)、もはや両者に音質上の差は小さいと考えていい。

ストリーミング・ミュージックの最大の特徴は、音楽の聞き方が変わってしまう点だ。
これまで我々は、持っている音楽だけを聴いていた。気になる音楽があったら、買う必要があった。1980年代はFMラジオのエアチェック、1990年代以降はCDのレンタルという手段もあったが、それは「安価に楽しむための補助手段」とも言えた。1990年代末から2000年代になり、音楽の違法ダウンロードなどが問題視されることもあったが、結局、手軽なダウンロード販売が定着することで、ある程度の沈静化を見た。

だが、そうした状況がさらに大きく変わったのは、YouTubeやニコニコ動画によって、無料で音楽を楽しむ人々が増えてきたことだ。特に10代・20代までの若年層では、スマートフォンを使い、無料で音楽を楽しむ人が増えている。現在、携帯電話事業者にとっての「ヘビーなパケット利用者」は、固定回線の代わりに使って、データを大量にダウンロードする人々だけでなく、「スマホでYouTubeをジュークボックス代わりにする学生」も多くなっている。そのくらい、音楽の聴き方が変わっているのだ。


YouTubeでは「無料で音楽が聴ける」だけではない。「自分が持っていない音楽が聴ける」ことが、これまでとの大きな違いだ。友人・知人から教えられたり、どこかで見聞きしたりした音楽を、買わずに何度も聴けるという点で、YouTubeは優れた音楽プラットフォームだ。

だが、音楽関係者はそれを良くは思っていない。「海賊版」という話ではない。今はプロモーションのために公式にアップロードされた曲も増えているので、聴くことは問題ではない。問題視されているのは、広告がベースになった収益体系では、音楽出版社やアーティストへの還元額が増えにくく、収益に結びつきづらい、という点だ。

だからこそ、「無料で聴き放題」がすでにある現状でも、別の「聴き放題プラットフォーム」を準備する必要が出てくる。
それが、ストリーミング・ミュージックなのである。

●使い勝手で「YouTube」との差別化を図る
○使い勝手で「YouTube」との差別化を図る

ストリーミング・ミュージックには、音楽をラジオのように「流しっぱなし」にする「ラジオ型」と、プレイリストや検索結果に応じて1曲ずつ流す「オンデマンド型」がある。実際問題、ラジオ型のストリーミングは10年以上の歴史があり、まったく珍しいものではない。日本でも、ラジオのネット配信プラットフォームである「Radiko.jp」は、広告で運営されたストリーミング・ミュージックと言えなくもない。今時のラジオ型は、楽曲のジャンルやチョイスに応じて大量のチャンネルを用意する、オンデマンド型とネットラジオの中間のようなもの、といっていい。オンデマンド型の方が使い勝手は良いが、音楽業界の慣習として、ラジオ型の方が楽曲資料料や許諾へのハードルが低く、先行している部分がある。

無料のYouTubeに対して、有料のストリーミング・ミュージックはどう戦うのか? 答えは「使い勝手」だ。プレイリストやレコメンド機能の充実によって楽曲に出会いやすくし、さらには連続再生もしやすくすることで、「いちいちYouTubeを使うよりも楽で快適な音楽環境」を用意するわけだ。


Apple Musicはそこで、「一体感」と「レコメンド能力」を推す。Apple Music事業の責任者であるジミー・アイオヴォンは、WWDCの基調講演でこう話した。

「音楽について知る・楽しむ場所は、ネットの中で分散してしまっていて、どこから楽しんでいいかわからない。Apple Musicでは一つの場所で、オール・イン・ワンで楽しめる」

「音楽を発見するには、音楽を知る人々の能力が重要。アルゴリズムだけではない」

Apple Musicの場合は、これまでiTunesで管理していた「自分が持っている音楽」とストリーミング・ミュージックが一体化される。また、ネットラジオやアーティストのSNSも一体化された「一つのアプリである」。

使い勝手を価値にする。また、音楽のレコメンドについてはソフトウエア処理だけでなく、音楽の知識を持っている人々を大量に雇用し、かれらの判断に基づいて最終処理を行うという。
アップル関係者は「BPMが同じだからといって、スカとハワイアンが一緒になったら興ざめだろう?」と話していた。確かにそうだ。

LINE MUSICはそれに対し、「LINEというコミュニケーションプラットフォーム」で戦う。LINEやTwitter、Facebookなどに音楽をシェアしやすい作りにして、「音楽を会話の要素として使ってもらう」ことを考えている。LINE MUSICの場合、会員以外にも30秒分の「視聴曲」は無料でシェアされるようになっていて、会話のネタとしては十分使える。その上で、他社より安い価格を打ち出し、LINEの支持層である学生を取り込む作戦だ。

この他にも、ストリーミング・ミュージックは、今年の後半に向けて積極的なビジネス展開が進むとみられる。音楽出版社の関係者は、「よほど条件が悪くない限り、どこかに権利を提供したら、他にも提供することになる。
そうすれば、売り場が増えてビジネス機会が拡大するからだ」と話す。

去年まではストリーミング・ミュージックに消極的だった日本の音楽出版社も、CDやダウンロードビジネスの環境悪化に伴い、「これ以上の牛歩戦術は意味がない」と考えるようになっている。ジャニーズ系など、一部いまだ楽曲提供に消極的な例をのぞき、日本でも今年後半には、「ストリーミング・ミュージックでも、CD販売とさほど変わらないタイミングで新譜が聴ける」時期がやってくるだろう……と筆者は予想している。

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