中村倫也「今とても心地いい」 ブレイク後の変化の中でたどり着いた自然体
●等身大の自分を受け入れて開けた俳優としてのキャリア
数々のドラマや映画で魅力的なキャラクターを生み出し、ファンの心をつかんでいる俳優の中村倫也(34)。昨年10月期に放送された『この恋あたためますか』(TBS)のイケメン社長役も注目を集め、4月5日からは原作のキャラクターに似ていると話題の主演ドラマ『珈琲いかがでしょう』(テレビ東京)がスタートする。
勢いが止まらない中村だが、ブレイクまでには長い下積み時代があった。3月18日に発売された初のエッセイ集『THE やんごとなき雑談』で、理想と現実のギャップにもがいていた当時の心境を明かしている。中村にインタビューし、等身大の自分を受け入れてから開けた俳優としてのキャリアや、経験を重ねるにつれて変わっていった役作りについて、また、「今とても心地いい」と言える自然体にどのようにたどり着いたのか、話を聞いた。
■理想と現実とのギャップにもがいていた下積み時代
『THE やんごとなき雑談』は、雑誌『ダ・ヴィンチ』で2年間にわたり連載されたエッセイに書き下ろしを加えたもの。中村は、完成した1冊を読み返して「くだらないことをぐだぐだ考えているなと。エッセイって、出会った人との楽しかった思い出や面白い事件がメインな気がしていましたが、僕は違いましたね。
自分が悩んだり考えたりしたことをたくさん書いている。それが自分という生き物だと知りました」と、自分がどういう人間か改めて気づいたという。
普段の生活の中で自分のことを深く掘り下げる機会はあまりないかと思ったが、中村は昔から“考える人”だったという。「考えるのが癖になっていて、心の中で自問自答しています。そういう性格なんです。ただ、自分の中だけで完結している感覚でよかったものを言語化する作業だったので、それは初めての経験でした」
エッセイでは、理想と現実とのギャップにもがいていた20代前半のこともつづられている。等身大の自分を受け入れられるようになったきっかけを尋ねると、「仕事がなかったからです」と即答。「うだうだ言っているけど、仕事がないという現実が否応なくあった。
見て見ぬふりしていましたが、そろそろちゃんと見ようという時期があり、見つめ直しました」と振り返る。
続けて、「その現実と向き合ってから変わっていきました」と言い、「自分に対してわだかまりがない心持ちでいられると、自分の外の世界、人にも、物事にも、無駄なわだかまりがなくなっていく。そして、“人は鏡”と言いますが、周囲からも自分に対してわだかまりが少なくなっていくのはすごく感じました」と説明。「だから、いろんなことが自分次第なところが多いのかなと思うようになりました」と語る。
■『半分、青い。』でのブレイクは「何かが積み上がった結果」
自分が変わることで周囲から受け入れられるようになり、俳優としての道も開けていった。数々のドラマや映画、舞台に出演し、そして、31歳のときに朝ドラ『半分、青い。』の“マアくん”こと浅井正人役でブレイク。
その後、『初めて恋をした日に読む話』、『凪のお暇』、『美食探偵 明智五郎』、『この恋あたためますか』など、どの作品も話題に。勢いが止まらないが、やはり『半分、青い。』出演による変化は「大きかった」と中村自身も実感している。
ただ、「後輩などに聞かれたら教えたいと思うのは、『半分、青い。』の半年前に、布石になるような何かがあり、さらにその半年前に何かあって。たぶん1年半くらいかかる。それは業界内のことだと思いますが、降って湧いた幸運なわけではなく、何かが積み上がった結果、ブレイクと呼ばれるものになっている」と冷静に分析。「売れたいと言っている人がいたら、最初から世間を見るのではなく、業界内で期待してもらえるような人間になることが大事だと伝えたい」と語る。
ちなみに、中村自身が俳優人生において大きかったと感じている作品は、2009年に出演した真心一座 身も心もの公演『流れ姉妹 たつことかつこ ~獣たちの夜~』とのこと。「僕にとっては革新的な出合いでした。この作品に出演したことで、のちに『ロッキーホラーショー』や、シス・カンパニーの舞台に呼んでいただいたり、そこで知り合った方たちの背中を見て成長してきたところもあり、自分の中で転機となった作品です」と明かす。
●俳優業は「とても豊かな仕事」 役作りの変化も明かす
■人間の複雑さを知り「キャラクターを決めつけないように」
作品ごとにさまざまなキャラクターになりきり、確かな演技力で多くの人たちを魅了している中村。自身は俳優のやりがいを「凶悪犯を演じるとなったら、凶悪犯でもその人のことを理解してあげないといけない。それが役者という仕事で、人を受け入れる作業が役作りなので、とても豊かな仕事だなと思います」と語る。経験を重ねる中で役作りの方法は変わり、以前は「こういうキャラクターだ」と自分の中で一つ答えを出していたが、今は決めつけないようにしているそうだ。それは、いろいろな人と接する中で人間の複雑さを知り、俳優業にも影響したのだという。
「こういう人だなと思っていた人が実はそうではなかったり、出会った人たちの意外性に触れるたびに、『僕はこう思い込んでいた役は、実は違うのではないか』と思うようになり、『ようわからんなあ』となっていきました。現場で『ようわからないけど、こんな感じかな』という1日の終わりも増え、でもそれでいいんだろうなと思っています」
「こういうキャラクターだ」と決めつけたほうが断然楽で、セリフを覚えるのも早いそうだが、「そう思っちゃったから仕方ない。もう楽できないんだなと思います」と笑う。そして、大変ではあるが、「決めつけないで演じたほうが、役というより人間と向き合っている感じがします。『お前はこういうヤツだろ』と決めつけていたものが自由に勝手に育つようになり、キャラクターではなく、ちゃんと人になっているなと感じます」と、自分としてもしっくりきている。
■平常心をモットーにマイペースなふりをしていたことも
エッセイでは、“平常心”をモットーにマイペースなふりをしていたことや、2019年に『NHK紅白歌合戦』で歌唱した際、自分のペースでいられなくても精一杯やったことが誰かの笑顔につながるのもいいなと感じることができたという心境の変化も明かしている。
いろいろな経験を経て、今、生きていく上で大切にしているモットーを尋ねると、「あるがまま」「自然体」を挙げ、「それだけではダメなときももちろんあるので、いろんなスイッチは持っていますけど」と補足。さらに、自然体でいられるようになっているからこそ、「モットーを持つ必要もなくなってきているのかな」とも話した。
バラエティや舞台挨拶などでも、自然体で自由なトークを繰り広げている中村だが、昔は考えすぎてうまく話せなかったという。トークを鍛えたいという思いもあって始めたトークライブや、バラエティなどで少しずつ慣れていき、「役者としての立場が変わったり、年齢を重ねたこともそうですし、いろんなことが連結しているのだと思います」と自己分析。
今ではすっかり「自由に話せている」と言い、「『王様のブランチ』に出演させていただいた時も、音が使われていないワイプの時間もいろんな話をしていました。昔だったら『生放送だ! ちゃんとしなきゃ』と思っていましたが、今はそんなこと全く思わない」とにやり。「人様の前に出る以上は、いい意味で背筋を伸ばすという意識はもちろんありますが、無駄な委縮はしなくなり、とても楽です」と、インタビュー中も終始自然体だ。
そして、「役者としての立ち位置や期待など、この2、3年でだいぶ変わったものが、少し体に馴染んできて、落としどころが見つかってきた今なのかなと感じています。それを探る2年間でもあったと思いますが、今はそういう意味で心地よさを感じています」と穏やかに語る中村。
最後に思い描いている将来像を尋ねると、「優しいおじいちゃんになりたい。
それくらいしか決めていないです」と笑い、「役者としてどうなりたいというのは特にないです。やりたいようにできたらいいなと、その一言に尽きます。その都度一生懸命やって、見てくれた人たちが何か思ってくれたらいいなと思います」と語った。
■中村倫也
1986年12月24日生まれ、東京都出身。2005年、俳優デビュー。2014年、初主演舞台『ヒストリーボーイズ』で第22回読売演劇大賞優秀男優賞受賞。2019年にはエランドール賞新人賞を受賞。近年の出演作は、ドラマ『初めて恋をした日に読む話』、『凪のお暇』(19)、『美食探偵 明智五郎』、『この恋あたためますか』(20)、映画『台風家族』、『屍人荘の殺人』(19)、『水曜日が消えた』、『人数の町』、『サイレント・トーキョー』(20)、『ファーストラヴ』『騙し絵の牙』(21)など。4月5日から主演ドラマ『珈琲いかがでしょう』(テレビ東京)がスタート。5月28日公開予定の映画『100日間生きたワニ」に声優として出演。また、3月18日に初のエッセイ集『THE やんごとなき雑談』を発売した。