「Apple Music」を早速試す - 音楽の聴き方に変革をもたらすか?
WWDC15で「革新的な音楽サービス」として発表されたApple Music。当初のアナウンス通り、米国西海岸時間6月30日午前8時のiOS 8.4配信開始とともに、そのサービスをスタートさせた。
日本での価格は個人プランが月額980円、ファミリープランが月額1,480円で、後者はiCloudファミリー共有に登録している6人までが、Apple Musicを利用できる。なお、登録から3カ月は無料トライアルでフル機能を利用できる。
○まずはiOS 8.4を導入してみよう
Apple Musicを利用するには、iOS 8.4もしくはiTunes 12.2をダウンロードするところから始まる。原稿執筆時点の米国西海岸時間6月30日午前11時の段階では、まだ筆者の環境にはMac向けiTunes 12.2のアップデート通知は届いていない。そのため、iPhone 6 PlusにiOS 8.4を導入してApple Musicの利用を始めた。
まず、ホーム画面の「ミュージック」アイコンが、これまでのオレンジからよりビビッドな赤に変更された。
アイコンの背景は白くなり、レインボーカラーの音符マークに変更されている。このことでApple Music対応していることがわかる。
アプリを開くと、Apple Musicの紹介と初期設定画面が登場する。まず、月額プランを使うか使わないか、どのプランにするかを選ぶ。前述の通り、登録から3カ月間はフリートライアル期間になるため、月額プランを選らんでも課金はされず、課金前に解除する道筋もある。
プランを選ぶと、今度は音楽の好みの初期設定に入る。このプロセスは、Appleが買収する前のBeats Musicのそれと同じで、好きなジャンルや好みのアーティストのバルーンを選択もしくは削除し、好みの音楽を反映させていく。この好みの設定は、後からアカウント設定で行うこともできる。
こうしてApple Musicに対応した「ミュージック」アプリを使う準備が整った。
○5つのタブの役割
Apple Musicに対応した「ミュージック」アプリは、5つのタブが用意されている。向かって一番右に位置する「My Music」は、これまでのミュージックアプリの機能を一つのタブにまとめたものだ。それ以外は日本においてはApple Musicによって実現したタブになる。
「For You」は、特集されているアーティストやジャンル、検索や好みのアーティストを反映したプレイリストなどが表示される。
「New」タブでは新譜や注目トラック、「Connect」機能にアップデートされたアーティストの音楽やビデオにいち早くアクセスできるほか、Apple Musicスタッフによるセレクトや雰囲気に合わせたプレイリストが楽しめる。特に「アクティビティ」のプレイリスト群は、「アウトドア」「お出かけ前」「モチベーション」といった状況から音楽を選ぶことができユニークだ。「モチベーション」には「掃除がはかどるメタル」「暑すぎる夏にやる気を出す:レゲエ」「締切直前にやる気を出す」など、何とも役立ちそうなシチュエーションが用意されている。
中央のタブ「Radio」からは、刷新されたiTunes Radio後継のストリーミングラジオサービスと、ロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドンから生放送で開局される「Beats 1 Radio」にアクセスすることができる。
米国などではすでにiTunes Radioがリリースされてきたが、日本ではリリースされておらず、新鮮なサービスと言える。トップチャートやジャンルなど、固定されたテーマで自動的に楽曲が流れてくる仕組みだ。
そして「Connect」タブ。自分がフォローしたアーティストから、日々の活動や新譜、ライブ情報、写真やビデオなどのアップデートが届く仕組みで、好きなアーティスト専用のソーシャルメディアのような仕組みだ。海外アーティストのアップデートは流れてきているが、日本のアーティストのものは筆者の環境ではまだ見かけていない。
●音楽の聴き方を育てられるのが魅力
○より積極的に音楽を楽しむ
Apple Musicは、グローバルでは3,700万曲とも言われる膨大なカタログにアクセスできるサービスだ。画面右上に検索窓が用意されているものの、ユーザーが楽曲を指定して検索するような使い方はどちらかというとメインではない。
Apple Musicの特徴は、音楽エディターやDJなどが関わって人の手によって選ばれた「プレイリスト」や、アルゴリズムによって選ばれる「ラジオ」を通じて、音楽と出会い、好みを記録しながら楽しんでいく仕組みにあると言える。プレイリストや楽曲には、「+」ボタンと「ハート」ボタンが用意されている。「+」ボタンを押すと、プレイリストや楽曲を「My Music」に追加できる。My Musicの音楽はオフラインで聴くために、デバイスにダウンロードすることもできる。「ハート」ボタンは音楽の好みをApple Musicに記録する役割がある。また、アーティストのページには「Follow」ボタンがあり、Connectに新規投稿が表示されるようになる。
このようにして、聴きたい音楽を選んだり、聴いた音楽に対してアクションを起こす仕組みを備え、膨大なライブラリから自分なりの音楽の聴き方を育てていくことができる。
また、聴いているプレイリストや楽曲、ラジオステーションを、iOSの共有機能によって、TwitterやFacebookなどに投稿できる。
Twitterに共有する場合、プレイリスト名やApple Music上で直接開けるリンクに加えて、ジャケット写真のコラージュも投稿される仕組みだ。
○音楽の聴き方に変革をもたらすか?
Apple Musicは、後発の音楽サービスということもあり、非常によく練られられている印象だ。特にプレイリストは、人の手によって作られていることが、詳しい解説が添えられていることからも伝わってくる。
冒頭でも紹介した通り、Appleはこのサービスについて「革新的」と語った。確かに、これまで1曲150円、アルバムを2,000円前後で購入してきたiTunes Storeの世界と比べれば、毎月980円ですべての音楽にアクセスできる点は、音楽を購入してきたリスナーにとっては大きな変化だ。
CDやデジタルで楽曲を「購入する」という従来の楽しみ方の場合、購入するかどうかという判断があり、購入した音楽は自分のものとして繰り返し楽しむようになる。思い出や好きなアーティストである、など、何らかの思い入れがそこに働く。
しかし、無料で広告ベースのストリーミングサービスは、よりBGM的に、受動的に音楽を楽しむスタイルを世の中に定着させてきた。
もちろん好みの反映もされるが、必ずしもApple Musicのように積極的に「選ぶ」行動を必要としなかった。そして、アーティストにとっては、収益性を低下させるだけでなく、リスナーからの積極的なフィードバックを得にくい構造が作られていった。Apple Musicは旧来の「購入する」スタイルのリスナーも、ストリーミングに親しんでいるリスナーも取り込めるような工夫されている。ストリーミングで自分の好みに近い未知の音楽に触れながら、結果的に新しく好きになった楽曲やアーティストを見つけてフォローする、という積極的なスタイルを実現できそうだ。
こうした音楽の体験や、Apple Music流の音楽市場の構築まで含めて「革新的」と呼ぶなら、非常に納得できる。日本向けのカタログの充実や、アーティストやレーベルのビジネスなど、今後も多くの課題がある。しかし、これまでコンテンツサービスの開始が遅れてきたり、機能制限があったストリーミング途上国の日本でも、世界に足並みを揃えてサービスが始まった点は、素直に評価すべきだろう。