新定番PCケースを探る - Antec「Performance One P100」
2015夏は、"Skylake"こと第6世代Coreプロセッサや次世代OS「Windows 10」といった注目の製品がほぼ同時期に封切られようとしている。Core 2 Duoや第2世代Core(開発コード名:Sandy Bridge)から自作PCが止まっているという人も、そろそろPCの換え時ではないかと考えているかもしれない。
CPUやマザーボードを新調しても旧世代のPCケースを使い続けられるのが自作PCの良いところだが、やはり最新PCはイマドキのPCケースで組みたくなるもの。数世代前とは自作PCのトレンドも変わってきた。そこで最新の人気PCケースをあらためて紹介しようというのがこの企画だ。
今回はその中でも実売1万円弱という値段でありながら、非常に扱いやすく拡張性も高いことで人気のAntec「Performance One P100」(以降P100と略)を紹介するとしよう。
○名機「P280」をベースに今のPCパーツ事情に最適化
P100のルーツである「Performance One P180」(P180)は強い静音志向を打ち出すことで自作ユーザーの絶大な支持を集め続けた製品だ。電源とマザーボードのスペースを物理的に分ける(いまはNZXTがこれに近いものを使っているが)デュアルチャンバー設計が話題を呼んだ。
その後継である「P280」はデュアルチャンバーは排したものの広いグラフィックボード用スペースや制震ゴム付き3.5インチシャドウベイ、さらに大型CPUカットアウトなど今風の要素をふんだんに取り入れた製品となった。
そして今回紹介するP100は、P280の基本設計を継承しつつもコストダウンしたエントリークラスのPCケースだ。同社はP100の下位モデルである「P70」も販売しているが、開閉式フロントパネルやベイの数はもとより、根本的なシャーシ設計から細部の作り込みにいたるまでまったく別物の存在である。
P280はXL-ATX対応(拡張スロット9本まで対応)のやや大型ケースだった。これに対しP100はATXまでの対応にしたことで、W110×D370×H460mmと全体に小型になった。その分5インチベイは3基から2基に減ったが、3.5インチシャドウベイは7基に増加した。これは光学ドライブ類を使わない近年の自作スタイルを反映させたものだ。
そのほか、P280ではビルトインされていたファンコンが削除されたり、サイドパネルの構造が簡略化されたりしているが、P100は単なるコストダウンモデルではない。
イマドキのパーツ事情に合わせ冷却力と静音性のバランスを見直した製品なのである。
○遮音パネルにも構造変化が
P100の基本セッティングは静音性重視。P280の内張りはフロントパネルがウレタン製スポンジ、サイドパネルはポリカーボネートと使い分けられていたが、P100ではフロントもサイドもウレタン製スポンジに統一された。
またP100では天井ファン穴をふさぐことで、ケース全体で遮音性を高める方向に調整することもできる。天井の穴は必要に応じてファン設置も可能になっているため、自作の自由度はむしろ上がっている。
●作業空間が広く、作業のしやすい内部構成
○作業空間が広く、作業のしやすい内部構成
P100はグラフィックボードなら最大317mm、CPUクーラーは高さ最大170mmまでのものまで収容できるキャパシティを誇るが、一番の強みはマザーボード上端と天井の高さが他社のエントリーモデルに比べ広めに確保されている点だろう。この点については後ほど説明するが、作業空間は広く、余裕をもって組み込み作業を行える。
P280では存在していた2.5インチ専用ベイがP100では削除されてしまったが、7基の3.5インチシャドウベイすべてで2.5インチドライブも固定できるため、ドライブ構成でそう困ることはないはずだ。
○大型水冷との相性も抜群
P100はフロントとリアに120mmファンをそれぞれ1基ずつ標準で搭載する。Antec製PCケースではおなじみの回転数をLow(700回転±10%)とHigh(1100回転±10%)に切り替えられる簡易ファンコン付きものだ。
イマドキのCPUやグラフィックボードなら、P100のファン構成のままでも十分冷えそうだ。しかしTDP高めなCPUをオーバークロックして使いたいとか、マルチGPU構成をしたい人は冷却力を強化できるかが気になるところ。こういう場合に備え、天井やフロントに120mmまたは140mmファンを最大2基装着できるようになっている。
これならハイパワーな構成にも十分対応できるはずだ。特に天井とマザーボード上端の隙間が狭いと肉厚の水冷ユニット(ラジエーター)が装着できなかったりするが、P100の場合厚み60mm弱の水冷ユニットを天井に固定してもまだ余裕があるのがうれしい。
●大型パーツも余裕をもって組み込める
○大型パーツも余裕をもって組み込める
それでは実際に組み込んでテストしてみよう。
今回用意したパーツは以下の通りだ。
作業スペースが広いため組み込み作業もストレスなく行えた。特に天井部分に空間の余裕があるため、マザーボードを入れた後でもCPUクーラーの装着や交換が非常にしやすい。EPS12Vケーブルを裏から配線するための穴が大きめに取られているのも評価すべき点だ。
さらに裏配線スペースも十分確保されているため、特別なテクニックを使わなくても十分美しい配線ができる。結束バンドで固定するためのループもマザーボード裏の随所に用意されているが、今回はほとんど使わずにまとめることができた。CPUカットアウトも大きいので、マザーボードを組み込んだままバックプレートを当てるタイプのCPUクーラー装着も余裕で行える。
ただエントリーモデルなせいか、マザーボードを支えるシャーシがやや強度不足な感じを受けたのと、フロントパネルから出るケーブルが少々乱雑になりがちな点等が気になったが、全体の完成度の高さを考えれば小さな話だ。
組み込んだシステム(OSはWindows 8.1 Pro 64bit版を使用)上で「OCCT Perestroika 4.4.1」の「Power Supply」テストを実行し、「HWiNFO64」でCPU、GPU、HDDの温度推移を追跡した。室温は約26℃、マザーボードのファン制御機構(Q-Fan)はSilentモードに設定している。
GPU温度はGPUクーラーが強力なせいもあってほとんど変化していないが、CPUの温度はファンの回転数をHighモードにすると2度低下した。HDDは吸気ファンのすぐ後ろに設置したせいか、どちらのモードでも温度はほとんど変化していない。テストに使ったCPUがCore i7-4790Kと高クロックな分発熱やや高めのCPUではあるが、標準構成のままでも十分冷えてくれることがわかる。
次にファンノイズも計測しておこう。ここではアイドル時とOCCT実行中(20分経過時点でCPU負荷の高い時)のファンノイズを騒音計「AR815」で計測した。ここではファンの動作モードのほかに、フロントパネル開と閉のときでの違いもチェックしてみたい。
暗騒音は約35.3dBAの室内で測定し、騒音計のマイクはP100の正面30cmの位置に置いている。
P100のフロントパネルの効果は絶大で、高負荷時にパネルを開放するとファンノイズがダイレクトに耳に飛び込んでくる。ウレタン製スポンジのノイズ減衰効果はかなり高いようだ。ウレタン製なので、素材的に加水分解が懸念されるため、どの程度の年数で持つか不明だが、フロントパネルを閉じればエントリークラスのPCケースとしては十分な静音性を確保できるといえるだろう。
○まとめ:チープさは所々にあるが、完成度は非常に高い
P100をさまざまな角度からチェックしてみたが、P280などの上位モデルと比べるとチープだと感じる部分が各所に見られる。しかし実売1万円前後のPCケースとしては極めてバランスの良好な製品だ。
大型パーツの収容力やしっかりとした裏配線対応はもちろんだが、筆者が最も気に入ったのは天井部分の空間が広く、空冷/水冷を問わず大型クーラーを組み込んでも難なく作業できるところだ。PC自作のスキルレベルに関係なく"使い手に余計な苦労をかけない"設計であることを力説しておきたい。