大学デビューの落とし穴 (8) 7月:「自他の区別をつける」これがコミュ障を克服する唯一の方法だ!
大学1年生のみなさん! 「大学デビューのホントのところ」、知りたくないですか? 本連載は、かつて大学デビューに半分成功・半分失敗したトミヤマユキコ(ライター・大学講師)と清田隆之(恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表)が、過去の失敗を踏まえ、時に己の黒歴史を披露しながら、辛く苦しい学生生活を送らないためのちょっとした知恵をお授けする。そんな連載です。
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○他者との距離感をキチンと測れる人間になろうぜ!
7月といえば、夏が本格化する季節。ところが今年は、どうにもひと月遅れで梅雨が来ているような空模様で、浮かない気分のまま試験期間に突入してしまった1年生も多いと思います。でも大丈夫。テストが終わる頃には晴れてっから! みなさんには無事に試験を乗り切って、海に祭りに花火が待ってる夏休みへと思い切りダイブして欲しいと思います。
さて、そんな7月。トミヤマさんは大学教員らしく、問い合わせメールに関するマナー講座を臨時開講してくれました。
毎年学生たちから何百通ものメールを受け取る“現場の先生”ならではの、極めて実践的な指摘だったと思います(お、俺もメールの書き方を見直さねば……)。
何が実践的だったのかというと、これが単なる「ハウツー」の話に終始していない、という点です。「こういうシーンではこういうメールを打ちましょう」と、ある種の“正解”を示してあげることはもちろん大事です。しかし、もっと重要なのは、「なぜそうする必要があるのか?」という部分を自分なりに納得することだと思います。
トミヤマさんがここで強く訴えたかったのは、おそらく「他者との距離感をキチンと測れる人間になろうぜ!」ということです。適切な距離感を見極め、その上でやりとりを進めていく──。これは「コミュニケーション能力」と呼ばれるものの本質であり、その勘やセンスを自分なりに養っておくと、生きていく上で何かと役立つはず。だから実践的なのです。
○"コミュ障"と“新型コミュ障”
ところで、世の中には“コミュ障”という言葉があります。これは「コミュニケーション障害」(すごい言葉ですが……)の略であり、意味的には「人と関わることが苦手」という感じになるかと思います。男女に限らず、それを自認している人は少なくありません。何を話せばいいかわからない、目を合わせるのが苦手、ヘンな人間だと思われたらどうしよう……。そんな風にいろいろと気にしてしまって、人との距離を詰められないというのが悩みどころだと思います(私もです/(ToT)\)。
しかし、コミュ障というのはそれだけではありません。私は「桃山商事」という、人々から恋バナを聞き集める怪しげな団体の代表を務めていますが、主に女性たちからよく聞くのが、「初対面の男子からいきなり『お前』って呼ばれてムカついた!」「合コンで会った男子に肩を抱かれてキモかった!」といった類の話です。
男性向けの恋愛ハウツーには、こういった行為を“モテテク”として紹介しているものも多々あります(大抵「女は基本的にドMだから」というしょーもない理屈を根拠に……)。
しかし、現に女性たちにウザがられている以上、それは完全なる虚妄です。騙されないで!
いきなり「お前」と呼んでみたり、初めて会った人の肩を抱いてみたり……。端的に言って、これは距離を「詰めすぎ」です。だから相手が驚いたりキモがったりするわけです。大胆で勇気あるアクションと誤解されがちですが、適切な距離感を見極められないという点において、これもひとつのコミュ障と言えます。一般的な定義と区別するため、我々は便宜的に“新型コミュ障”と呼んでいますが、先生に馴れ馴れしいメールを送ってしまうのも、もしかしたらその一種なのかもしれません。
○“他者不在”のコミュニケーションとは?
コミュニケーション論の名著として名高い『わかりあえないことから─コミュニケーション能力とは何か』(平田オリザ/講談社現代新書)には、このようなことが書いてあります。
いわく、かつては「一億総中流」という言葉が示していたように、日本人は均質的な価値観やバックボーンを共有していた。
しかし、ライフスタイルが多様化した今、状況は大きく変わっている。だとしたら、互いに「わかりあえないこと」を前提に、バラバラな価値観の人間たちがいかにコミュニケーションしていくかを考えるべきである──。
これは非常にシビアかつ重要な指摘だと思います。なぜなら、「どんなに近しい人であっても、結局は自分と異なる“他者”なのだ」と言っているからです。
コミュ障というのは、おそらく「他者不在のままコミュニケーションしようとすること」が原因です。自分を守ることばかり考えてしまうから相手との距離が詰められないのだし、相手の反応をちゃんと見ないから距離を詰めすぎてしまうのでしょう。
もちろん、世の中には「傷つくことを恐れずガンガン行こうぜ!」と語る自己啓発書は多いし、逆に「失敗しないためのマニュアルをしっかり身につけよう」と謳う教則本の類も少なくありません。そういうものに飛びつきたくなる気持ちは痛いほどわかりますが、個人的には反対です! なぜなら、それも結局は「傷つかないこと」「失敗しないこと」が目的になっていて、相変わらず“他者不在”だからです。
○どんなに仲良くても、相手は他者(さみしいけど……)
自他の区別をしっかりつけるというのは、イコール「甘えられない」ということであり、「常に緊張感を失わない」ということだと思います。
これはなかなかシビアなことです。でも、どんなに仲良くても、相手は他者。考え方も感じ方も、自分とはまったく異なっている。何だかさみしいけど、これは厳然たる事実です。
だから、コミュニケーションは「怖くて当たり前」です。ビビってナンボの世界です。ビビりながら、ちょっとカタめの態度から始めてみて、恐る恐る距離感を測り、徐々に距離を詰めていく。
逆に、近しい人であっても、独立した他者であることを尊重し、一線を引くべきポイントを見定める。
そうやって適切な距離感を見極めることができれば、結果的にそのコミュニケーションは気持ちの良いものになっているはずです。ビビらないメンタルを身につける必要も、無数のマニュアルを叩き込む必要も、一切ナシ! そう考えると、ちょっと気持ちが楽になりませんか?
……って、何だか7月とは全然関係ない上、妙に説教臭い話になってしまいました。でも、これマジめっちゃ大事なことだと思うので、“トライアンドエラーし放題”という大学1年生の特権をフル活用し、ぜひコミュニケーションの勘とセンスを養ってみてください!
清田隆之/桃山商事
1980年、東京生まれ。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆など、何でも手がける"恋バナ収集ユニット"「桃山商事」代表。男女のすれ違いを考えるPodcast番
組『二軍ラジオ』を更新中。雑誌『精神看護』やウェブメディア「日経ウーマンオンライン」「messy」などでコラムを連載。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。
』
(原書房)がある。
Twitter @momoyama_radio
トミヤマユキコ
ライター・大学講師。「週刊朝日」「文學界」でブックレビュー、「ESSE」「タバブックス」でコミックレビューの連載を持つライター。早稲田大学などでサブカルチャー関連講義を担当する研究者としての顔も持っている。「パンケーキは肉だ」を合い言葉に、年間200食を食べ歩き『パンケーキ・ノート』(リトルモア)にまとめた。
Twitter @tomicatomica