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アニメ「PSYCHO-PASS」の変形銃「ドミネーター」が"動く"まで (前編)

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アニメ「PSYCHO-PASS」の変形銃「ドミネーター」が"動く"まで (前編)
●ネット家電のメーカーが特殊拳銃「ドミネーター」を"完全再現"
アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」に登場する拳銃「DOMINATOR(ドミネーター)」を、家電ベンチャー・Cerevoが再現した電動玩具「DOMINATOR MAXI(ドミネーター・マキシ)」(※開発コードネーム)。作中同様、なめらかな動きで自動変形する様子が公開されたと同時に、アニメの中の動きを"完全再現"したと話題になっている。

だが、同社の事業領域は「ネット接続家電」。スマートフォン連携スノーボード「XON SNOW-1」、スマートフォンで操作可能な電源タップ「OTTO」など、これまで手がけてきたプロダクトには、アニメはもとより、何らかのエンタテインメント・コンテンツとコラボレーションしたモノは見当たらない。

だが、本体に内蔵したLEDの数は100個以上、劇中と同じ声優(日高のり子氏)を起用した撮り下ろしボイス、グリップに仕込んだタッチセンサーで「不正ユーザーへの警告」を再現するなど、同社の「本気」が見て取れる、ファンから見ても「隙の無い」仕様となっている。

それでは、今回同社が「ドミネーター」を再現した製品を"本気で"開発するきっかけはいったい何だったのだろうか。今回は、同社が居を構える秋葉原の「DMM.make」にて、代表取締役・岩佐琢磨氏からお話を伺った。

――アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」(以下、サイコパス)に登場する「ドミネーター」を完全再現されたということで、発表以来、ソーシャルを中心に話題になっています。
記者会見の情報も拡散されていますが、その直後に開催された朗読会での展示が大盛況だったようですね。

はい、非常に多くの方に足を運んでいただけました。

Webで情報を見て反応してくださる人たちと、イベントへ実際に足を運ばれる方というのは、層が違っているようでして、(ネットでドミネーターのことを)まったく見たことがないという方もいましたし、TVのニュースでちらっと動画を見たことがきっかけで来場された方もいらっしゃって。

――なるほど。ネットの反響抜きでそれだけの反応があったということは、この作品が好きな方にとっても、"忠実に動くドミネーター"の登場は予想外だったというところでしょうか。まずは、開発のきっかけについてお聞かせください。

明確なきっかけになったのは、われわれのオフィスがある「DMM.make」を運営しているDMM.comさんに橋渡しをしていただいたことですね。

同社は、この「DMM.make」という施設によって、世の中に無かった面白いモノを生み出す支援をすることが大きな目的になっていて、その先にあるビジネスに興味を持たれているんです。
そうした中で、DMMさん側がサイコパスの製作委員会の皆さま方とお話しする機会があって、「何か面白いモノ」を作れないか、という企画が持ち上がったそうです。

――そこで盛り上がった話がCerevoに持ってこられたんですね。

はい。2年ほど前から、僕は各所で「スマートトイが今後面白くなっていく」と語ってきました。日本ではスマートトイ、アメリカではアップトイと言われることが多いんですけれど、どちらも「スマートフォンやクラウドとつながったおもちゃ」という意味です。

スマートトイに参入したいけれどきっかけがつかめずにいた弊社側と、何か面白いモノを作りたいという企画を抱えていたDMMさん側の思いがうまく合わさって、「じゃあ、ちょっと作ってみようか」というような流れになりました。

――ちょっと作った、とは思えないクオリティですが、最初からドミネーターを作る計画だったのでしょうか?

そうですね。何が作れるのかっていうのは、やはり物を作る側でないとわからないので、僕の方で最初の企画書みたいなものを書きました。
今の技術で実現可能で、現実的な価格で作れるものは何かという話をしたときに、ドミネーターなら行けるかな、と。

当初からデコンポーザー(注:ドミネーターの最終形態ともいうべき最大威力のモード)への変形はあきらめて、パラライザーからエリミネーターへ持って行くように設計しました。カメラを内蔵して、相手の写真を撮るというのも、技術的には十分できるだろうと。皆さんがお持ちのスマートフォンに入ってるカメラなんて、小指の第一関節ぐらいの大きさなので、筐体の中に収まるだろうというようなことも大体分かっていたので、「作ってみようじゃないか」と。

そもそも、僕らの会社はIoT、つまりインターネットにつながるハードウェアに特化して製品開発をしています。すべてがクラウドにつながっているというサイコパスの世界観ともフィットしていましたね。これがまったく関連のないような作品ですと、これまでの事業展開との違和感が出てしまうので。

――製作委員会から提供されたデータというのは、ドミネーターのガワというか、形状のみだったのでしょうか。
それとも、動作機構も含まれていたのでしょうか?

いいえ、ガワだけですね。中身はすべて弊社で設計しました。

アニメの中で設定されているドミネーターの動作って、側面についているエラみたいなパーツなど、さまざまな部分が空中に浮いているんですよ。現実世界でモノを浮かばせるというのはほぼ不可能で、特殊な磁石か反重力物質でもない限り無理なんですけども、アニメの中ではそういった作りになっていて、各パーツが本体とつながっていないんです。

――駆動部の接続が無いんですか。

無いんです。ガンダムのファンネルのイメージが近いでしょうか。

例えば、ロボットアニメで、肩に何か部品がついていて、その中から銃が出てくる変形シーンがあるとします。
コマ送りで見てみると、空中にふっと肩の一部が浮かび上がって、銃が中からが出てきて、浮かんだ部品は空中を浮遊して肩の横にくっつく…というような内容になっています。

――不思議な磁力か浮力的な物で動いていると。

そうですね。でも現実では、リンク機構があって、肩の部分が開いて…というところを考える必要があるんです。ドミネーターに限らず、こういった変形シーンは空中を浮遊して位置変更を行っていることが多いです。

もちろん、"空中浮遊"はアニメーションや映画の表現として十分で、何ら問題ないんですが、それを現実に作ろうと思うと、やっぱり何かで本体とつながないといけない。それは一体どこでつながってるんだろうっていうのを、考えないといけないんです。

映像をそのまま再現するとしたら、実はドミネーターのこのエラのような部品は、もう少し外側に張り出して、空中に数ミリ浮いたぐらいの位置に存在してるんですね。
その位置関係を再現しようとすると、本体に棒を付けざるを得ないんですが、それって格好悪いんじゃない?みたいな話もあって。

それならば、設定よりも本体に近づけて、開く角度を小さくしようだとか、デザイン的に破綻しない範囲に収めつつ、実際に変形できるように、設定資料を僕らなりに解釈して、設計し直した部分はいくつもあります。製品化にあたって、設計し直さないといけない部分は増えていくかと思いますし、ここが課題ですね。●「メカメカしい」本体機構と「シビュラシステム」の開発
――ここに行き着くまで、どれぐらい試作されましたか?

およそ4世代くらいでしょうか。間にバージョン3.5みたいなものもあったりするんですけど。

――作中のなめらかな変形動作がこれだけ忠実に再現されている、ということが話題の核だと思うのですが、ここはうまくいった、と思う部分は?

ものづくりって、1カ所ここだ!っていうのはあまり無いんですけれども、まあ、よく入ったな、と(笑) ほぼ1/1のサイズの筐体の中に全てのパーツを入れられた、というところでしょうか。

製作委員会からご提供いただいた資料を見て、これだったら行けるだろうという判断をしたものの、やはり現場の皆さんの頑張りがなければ実現できませんでした。この筐体の中に複雑なメカ機構っていうのを入れるというのは大変なことで、そこはしてやったり、というか。


中を見ていただくと分かるのですが、かなりメカメカしくて細かいモーターやギアが詰め込まれているんです。上の部分なんかも機構が複雑に作られていて、下からこうのぞき込むように見ていただくと面白いかもしれません。こっちにもギア、あっちにもギアという構造で。

――外側だけを見ているとモデルガンのような仕上がりですが、中を見ると機械らしさが感じられますね。

ギアがあって、バネがあって、モーターがあって。そして、光らせるためにLEDも必要です。LED自体はすごく小さいものなんですが、満遍なく光を伝えようと思うと、光を導く板が必要なので、そういったものを全部入れて行くのはかなり厳しい戦いでした。あと、何と言っても、部品が入っても変形できなければ意味が無いので。

このプロジェクトは、現状はメカが先行していて、変形機構を頑張って作った段階です。ここからはソフトウェアが頑張って、最終的な製品としてできあがるというような流れですね。

――少しソフト側のお話も伺いたいのですが、作中の核となる設定「シビュラシステム」はどういった技術で実現されるご予定ですか? 犯罪係数を計測する、というのは現実的に基準を決めるのが難しそうですが。

※注:シビュラシステム=「サイコパス」劇中に登場する、人間の心理状態や性格を数値化するシステム。その中で犯罪に関する数値は「犯罪係数」と呼ばれ、一定値を超えると罪を犯していなくても「潜在犯」とみなされる。「ドミネーター」はこのシステムに接続されており、計測数値に合わせた形態に自動的に変形し、対象を裁く。

その点は今詳細を詰めているところです。ベースとなる部分はOpenCVなどの画像処理ライブラリを使って、カメラから撮影した画像をもとに、何らかの値を計算するというアルゴリズムを組み込む予定です。

――ランダムではなく、実際に何らかの"係数"を算出するんですね。

単純なランダムではやはり面白くないですし、「スマート感」が出ないので、そこはきちんとインテリジェンスなアルゴリズムを使って、"らしい値"を出そうと思っています。といっても、測定対象になった方が本当に危なそうかどうか、というのを測るわけでは当然ないですが。

ひとつの例として、僕がパナソニックにいたころに関わった「眉毛診断」というものがあります。眉毛の形を写真から読み取って性格診断をするのですが、そういった顔のパーツなどを基準にするのもひとつの手だとは思っています。

――すでに完成されているメカの部分で、ここでつまずいたというようなエピソードがあれば教えてください。

どこもかしこもつまずいてるので、何とも言えないのですが、モーターとギアでしょうか。開発中はギアが割れたり、モーターの力が足りなくて開ききらなかったりしました。電池駆動にするためにはフルパワーのモーターを積めない上、LEDも同時に光らせなくてはならないなど、制約も多かったです。

それに、電動変形、しかもそれが元の形状に戻るというのは、いわばパズルみたいなもので、ピースを1個間違うと完成しないんですね。そのために、こっちを立てるとあっちが立たない、みたいな状況がかなりありました。

ギアでものが動くという機構は、家電のノウハウというより、玩具のノウハウに近い所があります。弊社の中にさまざまなバックグラウンドを持つエンジニアがいて、彼らの持っているスキルをうまく持ち寄ることで何とかできあがったんです。

後編では、岩佐代表が「スマートトイ」に取り組む熱意と、記者会見で自らコスプレした理由など、さまざまなバックグラウンドが語られる。

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