組み込みシステムのすべてのコンポーネントを提供できる - アナログ部門のトップが語ったTIの強さ
Texas Instruments(TI)は7月22日に記者説明会を開催し、同社のアナログ部門トップによりビジネス全般の概況とすでに発表した製品の紹介、それと7月29日に発表されたUSB Type-C対応製品群についての説明が行われた(Photo01)。
まず同社のビジネス概要を。同社はおよそ10万の製品ポートフォリオを持ち、かつ10万を超える顧客を抱えている企業である。2015年3月のNXP SemiconductorsとFreescale Semiconductorの合併に関するレポートの中でも少し触れたが、2014年末にIHSが発表したレポートによれば、2014年度の売り上げは121億9500万ドルで業界第6位に位置づけられている。ちなみにこの数字はあくまでIHSのもので、当のTIは2014年のAnnual Reportで130億4500万ドルという数字を発表しているが、そう大きな違いでは無い。この内訳をラフにしめしたのがこちら(Photo02)。AnalogとEmbedded Processingで売上高の83%を叩き出しているのが判る。ちなみにアナログの中にある「シリコンバレー・アナログ事業部製品」というのは旧National Semiconductorの事業部のことだそうである。
この売り上げの比率は、丁度この後合併するNXP/Freescaleの合計と恐らく逆である。こちらもさまざまなアナログ製品は抱えているものの、Embedded Processingの売り上げ比率はラフに言って50%を超えているだろう。これとどう競合していくかという話はまた別として、とりあえずTIの強さの源泉は、このアナログ部門にあることは間違い無い。
ちなみに氏によれば、同社はいわゆる組み込みシステムのすべてのコンポーネントを提供できる事が強みである、としている(Photo03)。面白いのは、もちろん統合製品も出しているが、それとは別にDiscrete部品にも力を入れていることだ。氏曰く、「もちろんサイズあるいはコストの要求が強い場合は統合製品が必要になるが、逆に性能が必要な場合にはDiscreteを組み合わせるほうが顧客の問題の解決に繋がる」そうで、Discrete製品を引き続き提供し続けるとしている。そうした方向性に沿った形で2015年7月9日に発表されたのが「UCC27201A-Q1」である(Photo04)。ハイブリッド自動車(HV)向けのゲートドライバは車載向けアナログ半導体メーカー各社とも力を入れている分野であり、TIも多くの製品をリリースしているが、さらに競争力をあげた製品を追加した形だ。
●3種類のUSB Type-C製品を市場に投入
2つ目は7月22日(米国時間では7月21日)に発表された「32bit ADC」である。一般にMCU内蔵型のADCは10~12bit前後が主流で、多くても16bit程度になっており、これを超える用途はDiscreteでまかなう事になるが、こちらも主流は24bit前後である。ここで問題になるのはENOB(Effective Number Of Bits)で、これはRMSノイズが0にならない限りどうしてもENOBは本来のbit数よりも下回る。そこで、より高い精度を持ったADCが必要とされる。こうした用途に向けて同社がリリースしたのが「ADS1262/1263」(Photo06)で、32bitの分解能に加えて自己診断機能なども搭載する。氏によれば高精度な秤量とか橋脚などに設置される歪率計など、本当に高い精度が必要な用途に用いられるとか。
また同社はWeb経由でのツールにも力を入れている。Data Converter Learning Centerはオンラインで各コンポーネントの使い方を学習できるし、オンライン設計ツールであるWEBENCHもやはり7月22日に電源回路デザインツールが追加になった事が発表された(Photo08)。
さて、最後が7月29日(米国時間で7月28日)発表となった、新しいUSB Type-C向けソリューションである。USB Type-CについてはCOMPUTEXのレポートでも軽く触れたので繰り返さないが、Reversibleなコネクタが1つのBreakthroughなのは間違いない(Photo09)。
これもあって各社共に色々な製品を投入しつつあるが、TIもまたここに一定の商機を見出したようで、今回3つの製品を発表した。それぞれ
TPS65982:USB Type-C/USB PD Controller
HD3SS460:USB Type-C CrossPoint Switch
TUSB320 Family:USB Type-C Configuration Channel/Port Control
となっている。発表会の時点では詳細な説明は無かったが(Photo10)、まずTPS65982は単にUSB Host/Device+USB PDのコントロールだけではなく、内部に60W(20V@3A)の電源供給回路まで含んだ初の統合製品となる。ちなみに100W(20V@5A)は外部にNFETドライバを用意すれば可能な模様。現時点ではUSB PDのコントローラは複数存在するが、いずれも別にUSB Type-Cのコントローラが必要とされていた。HD3SS460は4chのCrosspoint Switchで、USB 3.1に準拠、スタンバイ時の消費電力を40μWと削減したのが特徴とされる。
TUSB320 FamilyはUSB 2.0対応のTUSB320とUSB 3.1対応のTUSB321からなり、最大15Wの電力供給が可能となっている。
ちなみにこれに続く製品はまだ検討中のこと。また、E-Markerチップ、あるいはActive Cable用Bufferなどについては、現時点ではそうした製品の具体的な計画は無いそうだ。さらに言えば、Thunderbolt 3については「マーケットを注視している」言うのに留めているのは、TIのThunderbolt向け製品群が、当初予想したほどには売れなかった(というか、マーケットがTIが予想したほどに広がらなかった)事とは無縁ではないだろう。
ところで、なんでこの時期にこんな発表会が、という根本的な疑問に対する説明は無かったのだが、察するにもう少し日本マーケットへのてこ入れが必要、と判断されたのかもしれない。再び2014年のAnnual Reportに戻るが、地域別の売り上げを見ると
となっており、比率で言えば全体の売り上げの約8%を占めている。これは外資系半導体会社としては比較的よくありがちな比率であるが、2012年からの推移で言えば他の地域が概ね2012年の水準を超えている(その他地域はこの際置いておく)のに対し日本はむしろ毎年売り上げが下がっているからだ。2012年には全社に占める割合が10.5%とやや高めだったのがどんどん低下している訳で、このあたりで歯止めを掛けないといけない、と判断されたのかもしれない。
そうした歯止めの一環として、同社が強いアナログ部門を中心に製品紹介、というのは非常にありそうな話に思われる。
もちろん発表会をやるだけで売り上げが伸びるわけもないのだが、開発者に新製品を知ってもらう事は売り上げを伸ばすために重要な要素であり、その機会の1つになれば、という事なのだろう。