南極の話をKDDIが子どもたちに教える理由
電子マネーの雄である交通系ICカードの「Suica」。2014年1月時点で4500万枚の総発行枚数を誇り、PASMOなど相互利用先を含む1日あたりの決済件数は500万件を超えているという。
そのSuicaの右下にいる可愛い動物、それがペンギンだ。実はこのペンギン、特に愛称が定められておらず、単に「Suicaのペンギン」、「ペンギン」と呼ぶらしい。このペンギンは、南極に生息する実在の「アデリーペンギン」がモチーフ。南極にはほかに、「コウテイペンギン」も生息している。
Suicaのペンギンは、アデリーペンギンがモチーフなんだよ――。
そんな話を、各地の講演会で子どもたちに教えているのが、KDDI 技術企画本部 電波部 管理グループ マネージャーの大越 崇文氏だ。
「なんでKDDIが南極なんだ」「auWALLETって電子マネーを運営しているのに、Suicaの宣伝をしていいのか」といったツッコミがあるかもしれないが、後者の疑問はひとまず置いておこう。
KDDIが南極の話をする理由……それは、南極に日本が設置している「昭和基地」にある。昭和基地は、日本から1万4000km離れた南極大陸の端に位置する。ただし、正確には南極大陸には存在しておらず、大陸の岸から4km離れた「東オングル島」という島に位置している。もちろん、真冬の時期は島と大陸が氷続きとなるため、大雑把には「南極大陸の昭和基地」で問題ない。
昭和基地が1957年に建てられてから、すでに50年以上が経過している。基地は大小60~70の建物で構成されており、気象観測棟や発電棟、居住棟、衛星を受信する通信棟などが存在する。そう、その通信を行う機能こそ、同社の社員の役割というわけだ。
過去、11名が、観測隊として参加しており、現在は56次隊が南極で生活している。
○協力しながら生活をする南極という地
KDDIの総務部 CSR・環境推進室で室長を務める鈴木 裕子さんは、こうした活動を「とても意義があること」と話す。
同社からは通信技術者を派遣しているが、通信技術者以外にも、施設の整備担当者、医師、研究者など、様々な職種の人物が互いに協力して南極での1年4カ月にも渡る生活を送っている。「社内でも『南極で仕事ができる』と何人も手を上げていますが、もちろん通信技術者の派遣は一人だけになります。もちろん、技術だけでなく、南極で生活していく上で、人格も重要な要素。色んな仕事といろんな仕事をやる必要があるわけです。こうした活動に会社として携われること自体も誇りです」(鈴木さん)
南極に向かう観測隊の隊員は、国立極地研究所の所員として現地で活動を行う。繰り返しになるが、南極では、生物や気象観測、天体観測など、自然にまつわるありとあらゆる研究を行っている。
そうした情報は、衛星通信を通じて、瞬時に日本に送ることができる。もちろん、インターネットの利用も可能だが、こうした通信設備が故障せぬよう、そして故障時にすぐに復旧活動が図れるように同社の社員がいるわけだ。
●南極からのメッセージで子どもたちに伝えた意義
54次隊で南極へ向かった大越氏は、こうした体験を今年に入ってから毎月のように子どもたちに伝えている。今回取材した毎日メディアカフェでは、小学校低学年の子どもたちが南極にまつわる様々な話を真剣な眼差しで聞いていた。
特に、国立極地研究所の協力のもとに持ち帰ってきた「南極の氷」の体験コーナーでは、氷に水をかけて、氷の中に閉じ込められた2万年前の空気が弾ける音を、わいわいみんなで楽しみながら聞いていた。筆者も体験したのだが、純真な心を失ったためか、音を聞くことができなかったことだけ付け加えておきたい。
また、まさに"通信"を使った、56次隊とのライブ中継も行われた。KDDIから参加している第56次日本南極地域観測隊の隊員 田村 勝義氏は、子どもたちの「今の気温は何度ですか?」「なんで隊員になろうと思ったんですか?」といった疑問に答えたのち、中継の最後に「メッセージ」を送った。
「私は南極に来るのが夢でしたが、みんなも夢をたくさん持ってると思う。夢は強く願えば叶うものなので、諦めずに頑張ってほしい。
もう一つは、人間は一人で生きられないということ。今も、基地で26人が頑張っています。(生活するための)水を作る人、機械を整備する人、お医者さん、みんなが協力しあって生活しています。夢も同じで、周りの人の理解がないと実現できません。
そのためには、身の回りの人たちを大事にして、夢を叶えてください」(田村氏)
鈴木氏も、田村氏の言葉こそ、KDDIとして子どもたちへ届けたいメッセージだと話す。「南極での仕事、宇宙飛行士のしごともそうだけど、私達の生活からすれば非現実的なお仕事。
そうしたお仕事でも、夢を諦めずにやれば叶うというメッセージを、子どもたちに伝えたかったし、こうした取り組みを通じて伝えられたかなと思います。
通信事業者として、『笑顔や思いを繋げる』ということを、ライブ中継を通しても伝えたかったし、子どもたちも具体的なイメージが湧いたかなと思います。
1年4カ月という長い期間、家族と離れていて、数少ないメンバーで協力しながら生活をしている。そうした中で、家族とのコミュニケーションという大切な時間を守るために私達は通信を守っていますし、1万4000kmを超えて、リアルタイムで繋げる役割を担っています」(鈴木氏)
なお同社では、19日にau SHINJUKUで南極の様子を伝える夏休みプチ体験教室を行う予定だという。