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庵野監督「お金よりもまず気持ち、愛が大事」12名のクリエイターがアニメ業界の今後を語った「日本アニメ(ーター)見本市 初号上映会」

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庵野監督「お金よりもまず気持ち、愛が大事」12名のクリエイターがアニメ業界の今後を語った「日本アニメ(ーター)見本市 初号上映会」
●「あと5年で限界」発言、トピックとしてまとめられてそうなってしまった
7月18日、東京・新宿バルト9にて「日本アニメ(ーター)見本市 初号上映会」が開催された。「日本アニメ(ーター)見本市」はスタジオカラーとドワンゴが共同で制作・配信する短編アニメ企画。さまざまな監督による短編作品を毎週1本のペースで無料配信しており、業界内外の注目を集めている。ジャンルや表現手法などの縛りがない自由な創作の場を提供することで、日本のアニメ文化のさらなる発展と人材育成などにつなげていく狙いがある。

同イベントでは、ファーストシーズンで配信された全12話を一挙公開。さらにサードシーズンからも3話分が先行公開された。

また、「日本アニメ(ーター)見本市」の企画立案者である庵野秀明監督、ドワンゴの川上量生会長をはじめ、作品を制作した監督陣(雨宮哲氏、荒牧伸志氏、江本正弘氏、谷東氏、鶴巻和哉氏、平松禎史氏、堀内隆氏、本田雄氏、本間晃氏、前田真宏氏、吉浦康裕氏、吉崎響氏)とアニメ研究家で明治大学院客員教授の氷川竜介氏、アナウンサーの山田幸美氏が登壇。「アニメ業界の今後」をテーマにトークを行った。
第一線で活躍するクリエイターたちは、アニメ業界の現状をどうとらえているのか。本稿ではトークの内容を中心にレポートしていく。

口火を切ったのは、今年5月末に庵野監督が発した「アニメ業界はあと5年で限界を迎える」という言葉の真意を尋ねる質問からだった。

庵野監督は「(あと5年くらいで限界という発言は)そういうつもりで言ったんじゃなかったけど、トピックとしてまとめられてそうなってしまった」と苦笑いしながら、「厳しいのは厳しいですよね。展望がないわけじゃないと思いますが、業界全体のシステムが厳しい。ビジネススキームが難しいし、人も来ない。何とかなるんじゃないかなというのと、何ともならないんじゃないかというのがせめぎ合っています」と胸の内を明かした。

これに、アニメ研究家である氷川氏は「マンパワーの問題で、企画が増えても人が増えていないんです。
諸外国は日本も何倍も人口があるところがアニメを始めたりしていて、マンパワーで負けそうです」とコメント。川上会長も「アニメは社会的影響力のわりに産業規模が小さく、制作環境の犠牲のもとにタイトル数がどんどん増えている状態。このままの形だと業界規模が大きくなっても現場が厳しいので、そこを変えていければいいのでは」と業界の将来を危惧する。

一方で、「昔はもっとひどい状況だった」と語るのは、30年間アニメ業界の第一線で活躍するベテラン・荒牧監督。「アニメ業界はどんどんデジタルになって、3D化の流れがくるのかなと見ています。そういう変化を含めてTVシリーズを見ていると、よくがんばっているなと思います。30年前、業界に入ったときはもっとひどい状況で、その頃からもう業界はダメだよねと話していました。よくがんばってるなと思うし、意外と続いたりするのかもしれません」

こうした現場の声に対して氷川氏は「アニメはお客さんが思い入れを持たないと何も見えてきません。
絵が動くことに意味があるのではなく、お客さんの心を動かすことで生まれる愛が作品を支えています。そのあたり(愛)が痩せてきている気がするのが、一番危惧している部分です」と問題提起し、「アニメそのものがエネルギーになる、日本アニメ(ーター)見本市のような企画があるのはいいことです」とエールを送った。

続いてのテーマは「今後アニメーターを目指す若者へのメッセージ」。

話題を振られた本間監督は、「僕は業界に入って10年くらいたちますが、人との出会いや関わってきた仕事の運がよかっただけ」と謙遜。その上で、「この業界、先がないような言われ方をすることが多く、楽しい仕事だよと簡単には言えません」としながらも、「絵を仕事にするという信念がある人ならやりがいはあるし、居心地がいい仕事です」とアピール。前田監督も「絵を描いてお金になる業界ってなかなかないですよね」と同意する。

また、サラリーマンからアニメ業界に転身したという経歴の持ち主である谷監督は「10年がんばるといいと思います」とコメント。その理由として、自身が10年前にはサラリーマンだったことを挙げ、「今、この壇上にいることを10年前の自分に言っても信じないと思いますから」と笑顔で語っていた。


●アニメは多様性が大事だけど、今は二極化している

トークイベントの後半では、観客から寄せられた質問に答える大質問会を開催。「アイデアは普段から溜め込んでいるもの?」という質問に対しては、平松監督が「第一期の作品(『until You come to me.』)ではスタジオカラーからこういうネタでやってくれという感じできたのですが、第二期の『イブセキヨルニ』は普段から見ていた社会問題をやってみました。日本アニメ(ーター)見本市のためというよりは、普段から小さなことでも使えるかなと(溜め込んでいる)」と回答。雨宮監督も「普段から溜め込んだほうがいいというのはその通りだと思います」と同意し、「僕はやっていなかったので大変でした。有名な映画などは共通言語として見ておいたほうがいいと思います」と語った。

将来はCGの現場で働きたいという方から寄せられた「CGとアニメの融合について」という質問に対しては、吉浦監督が「より渾然一体となっていくんじゃないか」と回答。「昔は飛行機やロボがCGで人は手描きだったのですが、最近は同一のキャラクターであっても手描きとCGが混在することもあります。手段として、どちらかがやりやすいかを考えて自由に選べる時代になりました」と語っている。


根本監督は、「割合としてはCGの方が多くなっていくと思います。現状はCGとのハイブリッドが多いので、CGの分野であっても、手で描くスキルがあればさらに仕事をする上で有利になると思います」とアドバイスを送った。

「日本アニメ(ーター)見本市」の企画自体に関する質問も上がった。「企画前にイメージしていたもの、予想してものと変わったことは? 他のクリエイターへの影響は?」という質問に対して、庵野監督は「やったかいがあったし、僕自身よかったなと思っています。アニメは多様性が大事だけど、今は二極化している気がしています。ストップモーションとか影絵とか、アニメには色々な面白さがあったはずなのに、新作ではそういうものがない。それを新作で見てみたいという思いが企画の趣旨でした」とコメント。

他のクリエイターへの影響については「こういうものは主流にはならないでしょうけど、端っこでやっていることで業界に広がっているんじゃないでしょうか」と回答し、「単純にアニメは面白いんです。
それが伝わればいいなと」と、「日本アニメ(ーター)」見本市の意義について語った。

さらに「アニメ制作は中抜きが多い。未来の才能に投資できるクラウドファンディングのような場がほしい。直接的に支援したい」というファンからの声があり、これに庵野監督は「お気持ちは大変うれしいです」とコメントし、「アニメは安いと言われるが、権利関係なども諸々あって、一本作るのにけっこうなお金がかかります。大変なのはもとをとることで、日本アニメ(ーター)見本市はそれを捨てたからできています。今は円盤が売れないと言われていて、色々なスタジオが赤字になっている状態。売れない原因は今突き詰めても仕方ありませんが、小さなお金でも積んでいただければ大きくなります」とアニメ業界の事情を説明。「お金より先にまず気持ちが大事で、愛情があれば。
こういうイベントも、お金儲けではなく大画面で見てほしいという気持ちでやっています。自分で言うのもあれですが、愛ですかね(笑)」とアニメへの思いを熱く語った。

最後に「ファンとして何かできないか」という質問に対しては雨宮監督が「アニメがすごく好きな人は業界にきてください。それが力になります」と回答。これに庵野監督は「雨宮、いいこと言うね。久しぶりに感動した」と笑顔を見せていた。

トークショー後、出演した監督陣のサイン色紙がプレゼントされる大抽選会が行われ、日本アニメ(ーター)見本市の作品上映会を経てイベントは終了となった。

アニメがクールジャパンともてはやされる中、業界の低賃金労働と人手不足をどう解決していけるか。第一線で活躍している監督陣も、まだ明確な道筋は見つけられていないようだ。「日本アニメ(ーター)見本市」の可能性と同時に、アニメ業界が抱える問題の根深さを改めて感じたイベントであった。

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