【Imagine Cup World Finals 2015】ナデラ CEOが語るMicrosoftとImagine Cupの目指す世界
7月29日のプレゼンテーション大会、30日の各部門賞発表と続いた「Imagine Cup World Finals 2015」も、いよいよ31日のWorld Championship授賞式をもって閉幕した。World Citizenship、Games、Innovationの3部門を勝ち抜いてきた3チームが特別審査員3名の前で最後のプレゼンテーションを行い、米Microsoft CEOのSatya Nadella氏が最終結果を発表する。果たして優勝の栄冠を勝ち取るのはどのチームか。
○Satya Nadella氏が語るMicrosoftのミッションとは
これまで米ワシントン州レドモンドの米Microsoft本社キャンパスで行われていたImagine Cup World Finals 2015だが、31日のWorld Championshipは舞台を米シアトル市内のWashington State Convention Center (WSCC)へと移し、1万人規模の人数を収容可能な大ホールでの授賞式となった。
WSCCでは27~31日まで「TechReady」と呼ばれる年2回開催の技術系イベントが開かれており、授賞式はこの会場の一部を使った形だ。TechReadyはMicrosoftの開発系スタッフやエヴァンジェリストらが世界中から集まってくる会議で、基本的にMicrosoft社員しか参加できない。
Imagine Cup World Finalsの参加学生は総勢120名に満たず、参加校の他の生徒や支援スタッフを合わせても250~300名程度だ。つまりWSCCの大ホールの観客席の大部分を埋めるのは現役のMicrosoft技術系社員であり、それだけ学生らの今後の動向に興味を持って参加しているということだろう。
この授賞式にはImagine Cupの責任者である米MicrosoftコーポレートバイスプレジデントでチーフエヴァンジェリストのSteve Guggenheimer氏のほか、同CEOのSatya Nadella氏が登壇してスピーチを行っている。
Nadella氏が語るのは、Imagine Cupを開催する意義とMicrosoftが目指すものだ。
同社は今年で創業から40周年を迎えるが、当初から一環しているのはデジタル技術による社会の革新だ。そのソフトウェアは「PC」という個人のためのコンピュータの世界を切り開き、Windowsは現在世界中のPCの上で利用されている。同氏はMicrosoftにおいてその情熱やミッションは、個人から組織まで、より多くを成し遂げるのを手助けすることにあるという。
これは、一般的なユーザーだけでなく、Windowsエコシステムの開発者、そして今回Imagine Cupに参加したような学生デベロッパーまで、その夢の実現の一助となることがその狙いだ。
7月29日はWindows 10の公開日だが、この日のNadella氏はケニアの首都ナイロビにいた。同氏が訪問する直前の週末、ナイロビではGlobal Entrepreneurship Summit (GES)という起業家会議が開催されており、ここでは米大統領のBarack Obama氏が記念スピーチを行ったことが話題となっている。
Microsoftは会社トップがWindows 10のローンチを行う場所としてケニアを選んだわけだが、これもまた、先ほどのスピーチにおける同社の重要なミッションの1つなのだろう。Guggenheimer氏は「MicrosoftはWindows 10のリリースに際してコミュニティとの関係を重視する」とコメントしていたが、Nadella氏のケニア訪問はそうした意味が含まれている。
ナイロビはアフリカ大陸でも有数の世界都市として知られるが、一方で治安は悪く、ケニア国内の他の地方との格差も激しい。当然、都市部以外でのインフラ整備は遅れ、教育が十分に行き渡らないケースもあるだろう。
Nadella氏はケニア国内でのホワイトスペース(TV放送に使っている電波帯域の一部)開放による低価格インターネット提供の話を例に挙げ、これが同国にとって(技術的に)破壊的出来事であり(同氏は破壊的を意味する"Disruptive"というキーワードをよく好んで使っている)、これまでインフラ整備が難しかったケニアの地方にブロードバンドサービスの提供が可能になったと説明する。
これにより、例えばSkype Classroom Programでケニアの地方の学校とインドの地方の学校がSkypeを使って教室同士を接続することも可能だという。このようにブロードバンドインフラが整備され、Windows 10が利用可能な環境が整えば、ケニアの片田舎であっても他の地域と同じように作業が行え、互いに連携できる。GESの話につながるが、これにより、ナイロビ市内のスタートアップ企業らが世界を相手にビジネスしていくことも十分可能であり、イノベーションは何も米西海岸だけの専売特許ではなくなるというのがNadella氏の主張だ。
世界中どこでも人々が大望を抱け、自らの夢を実現できる、これがMicrosoftのミッションやモチベーションであり、Imagine Cupで世界中の学生を集めての競技大会を開催する理由の1つでもある。
実際、インフラ整備の遅れていた地域では携帯電話の利用が比較的進んでおり、ケニアにおいてもM-PesaというVodafoneが始めたユニークなモバイル決済システムの普及が進んでいることが知られている。
またインフラ面では、地方で電気が通っていないケースも見受けられるが、M-KOPAというソリューションにより各家庭に太陽電池パネルが設置され、「時間単位で電気を買う」ことが可能だ。
M-KOPAは最終的に家庭で太陽電池パネルシステムそのものを買い取ることも可能で、大規模なインフラ整備なしで各家庭が電力を得られるというユニークなビジネスモデルになっている。
いずれにせよ、デジタル技術の革新が思った以上に世界の格差を縮める一助になっているといえるかもしれない。
重要なのは、Imagine Cupに参加したすべての学生がこの世界を革新する技術とビジネスのスタート地点にあり、今後の活躍をMicrosoft社員を含め世界中の関係者が注目しているということだ。
ケニアでの出来事は一例に過ぎないが、学生スタートアップの一助になるというのもまたMicrosoftのミッションだとCEOは語っている。
●World Championshipの栄冠に輝くのはどのチームか
Imagine Cupでは各チームに与えられるプレゼンテーションの時間は一律10分間となっているが、このWorld Championshipのみ3分間となっている。
また、World Finalsではプレゼンテーション後の審査員とのQ&Aは実施されなかったが、World Championshipでは3名の審査員からそれぞれ3つの質問が行われる。30日に各部門での1位が決定した3チームは一晩のうちにプレゼンテーションを練り直し、限られた時間で審査員らにアピールすることとなる。
だが、さすが予選から含めて世界大会を勝ち抜いてきたチームだけあり、手際良く自らのプロジェクトを紹介している。審査員の質問も意地悪なものが多いが、非常に上手く返していたのが印象的だった。それだけ深くプロジェクトに入れ込み、将来像も含めて描けていることの証左だろう。
3人の審査員は、1人目が俳優で現在はHBOのドラマシリーズ「Silicon Valley」でRichard Hendriks役を演じるThomas Middleditch氏、2人目がMinecraftのリードデベロッパーのJens Bergensten氏、そして3人目が米MicrosoftのテクニカルフェローでHoloLensを開発したAlex Kipman氏だ。
特にMinecraftのBergensten氏や、Kinect開発でも知られるKipman氏に憧れを抱いている開発者は少なくないはずだ。3人からは緩急つけた質問が投げかけられたが、3つのチームのメンバーはきちんと正面から受け答えを行っていたのが印象的だった。
特にブラジルのeFitFashionがプロジェクトの重要性やビジネスプランについて理路整然と説明していたが、これは3年間プロジェクトを走らせてきたことで得た経験や情熱がきちんと反映されたものだったと思う。
筆者が29日と30日に取材をしたときはプレゼンテーションしか見ていないため、eFitFashionについては「つたない部分があるかな」といった第一印象があったが、これがQ&Aで内容を深掘りしていくと詳しい説明やより深いアイデアの話が出てくるなど、プロジェクトの背景にあるより深い部分が明らかになっていった。
このあたり、限られた時間でプレゼンテーションを行う難しさみたいなものも感じたりした。
最終的に、優勝の栄冠に輝いたのはブラジルのeFitFashionだった。eFitFashionだけでなく、各3部門で1位のチームには賞金5万ドル、2位は1万ドル、3位に5000ドルが授与される。
部門1位のチームには、それぞれの部門に応じてMicrosoftが提供する学生向けの専用セッションやMicrosoft Venturesのアクセラレータ・プログラムへの参加権が得られる。また、優勝したeFitFashionのチームメンバーにはNadella氏との1対1ミーティングの場が提供されるなど、"次のステップ"を踏み出すための支援策が次々と提供される。
Imagine Cupはゴールではなく、あくまでスタート地点に過ぎない。
今日入賞できなかったチームも、ほとんど同じ場所にいるといえ、さらに腕を磨いてぜひ次のステップアップの機会を狙ってほしいところだ。
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