神木隆之介、声優挑戦は「超絶リスキー」もアニメ愛を持って徹底的に役作り
●『100ワニ』ワニ役「選択肢がありすぎて怖かった」
俳優の仕事だけでなく、声だけで役を演じる声優のオファーも絶えない神木隆之介(28)。昨年、社会現象を巻き起こした4コマ漫画『100日後に死ぬワニ』(著:きくちゆうき)をアニメ映画化した『100日間生きたワニ』(7月9日公開)の主人公・ワニ役にも抜てきされた。注目度の高いワニ役をどのように演じたのか、また、声優の仕事において心がけていることや、本作から学んだという人生において大切なことについて話を聞いた。
原作に込められたメッセージに強く共感し映画化を熱望した『カメラを止めるな!』の上田慎一郎氏と、妻でアニメーション監督としても活躍するふくだみゆき氏が夫婦で監督・脚本を務めた本作は、100日間のワニの日常と、そこから100日後、大切なものを失った仲間たちのその後の姿を描いた物語。主人公・ワニの声を神木隆之介、ワニの親友・ネズミ役を中村倫也、モグラ役を木村昴が務めた。
ニュースとして取り上げられ話題になっていることを知り、きくち氏のツイッターで展開された原作を見ていたという神木。その話題作の映画化でワニ役のオファーを受けたときは驚いたという。「読者として見ていましたし、ずっと話題が絶えない作品だったので、映画になるの? 僕がワニ役? 特殊メイクをして? みたいな。
アニメでしたけど(笑)」
そして、ワニ役の演技は「難しかった」と告白。「4コマ漫画だけで、声のイメージがなかったので、選択肢がありすぎて。作り甲斐がある反面、どういう風にでも作れてしまうので怖かったです」と振り返る。
監督からは「幼稚園の頃からの親友と話しているかのような、いい気怠さ、気を使っていないような声がほしい」とリクエストされたという。「人との距離感によって、会話するときの声は変わる。一番素に近い声を意識しつつ、低すぎてもワニに合わないと思ったので、声のトーンを少し高くしました」と、模索しながらワニの声を決めた。
ネズミ役の中村は、神木と親しい関係であることも起用の一つのポイントだったと監督夫妻が明かしているが、その狙い通り、神木は演じる上で、中村との関係性は「とても大きかった」という。『3月のライオン』『屍人荘の殺人』に続き3度目の共演。
「『屍人荘の殺人』のときに2人でよく取材を受けていたので、コミュニケーションをとっている回数がすごく多い。倫也くんのいい感じの適当さがわかるので、それに対してツッコむべきか、ツッコまないべきかという判断もできるようになり、その関係性を生かせればと思って演じました」。
ワニとネズミのシーンでアドリブを求められた場面もあったが、「攻めすぎてボツになりました(笑)」とのこと。「倫也くんが途中で脱線しすぎて使えないものに。結局、事前に決めて無難なセリフになりました。ボツになったやりとりは、ひっどい掛け合いでした(笑)。でも、それくらいふざけられる間柄でよかったなと思います。ワニとネズミは特別な関係なので」と話した。
モグラ役の木村とも『ドラえもん のび太の恐竜2006』で共演経験があり、約16年ぶりの再会ながら、すぐに「りゅうちゃん」「昴くん」という当時の関係性に。「相手がともくん(中村)と昴くんだったので、気兼ねなく親友と話すような気怠さが出せたと思います」と振り返った。
●「全力で声に気持ちを」 音へのこだわりも語る
神木は、『千と千尋の神隠し』の坊役で声優デビューを果たすと、『ドラえもん のび太の恐竜2006』『サマーウォーズ』『借りぐらしのアリエッティ』など数々の作品で声優を務め、『君の名は。』では立花瀧を演じ、声優アワード「主演男優賞」を受賞した。
俳優がゲストとして声優参加するレベルではなく、声優も一つの職業となっている活躍ぶりだが、神木はプロの声優たちとは技術が違うと断言。「役を演じるということに関しては同じだと思っていますが、手法がまったく違う。声優さんは、学校もありますし、声の出し方や声の変え方に関して職人、プロ。キャラクターに対して自分でその声までテンションを到達させることができる」とプロの声優のすごさを述べ、「僕もそうですが、俳優など技術を習ったことがない人間が声優業に挑戦するのは超絶リスキー。
声優さんと比べたら技術がないと思われてしまうので」と俳優が声優に挑戦する難しさに言及した。
リスキーさを感じつつも、アニメ好きということも生かして挑戦を続けている神木。声優の仕事においてこだわっているのは、「気持ち」と「音」だという。「技術はないですが、全力で声に気持ちが込められたら。また、アニメが大好きなので、より伝わりやすいのはどの音なんだろう、どの語尾の上げ方がいいんだろうとか、聞こえ方はすごく意識しています。そこに気持ちを乗っけることが、僕が今できる精一杯です」。また、プロの声優はキャラクターにあわせて声を変えているが、神木が声優を務める場合ほぼ地声で演じており、自身のそのままの声が求められているから演じられるのだという。本作で木村と共演したことで改めてプロの声優のすごさを感じたようで、「声優さんたちは声を変え、声の中の質・密度を弱くしたり強くしたりできる方。
その技術は僕にはないので、隣で聞いていてすごいなあと。そこにはたどり着けないですから」と尊敬する。
そして、「僕自身、アニメ好きだから、俳優さんが声優をやるとき『えっ!声優さんがやった方がよかったじゃん』という意見を耳にしたことも何度かありますが、僕はアニメが好きで、ファンの方の気持ちもわかるからこそ、絶対に、徹底的に悔いがないようにやるようにしています」と、本音を交えつつ声優に挑戦する際の覚悟を明かした。
声優の経験が俳優の仕事にもプラスになっているか尋ねると、「音はすごく大事だなと思うようになりました」と答え、「『ありがとう』の一言でも言い方はいっぱいある。語尾が下がるのか、上がるのかで全然聞こえ方が違うんだなと。『サマーウォーズ』や『とある飛空士への追憶』、『君の名は。』など、いろいろやらせていただく中で、音の大事さを感じるようになりました」と説明。
「実写でも、モノローグなど声の演技もありますし、普通の演技においても、語尾が上がるか下がるか、少しかすれた声にするとか、それだけで全然違って聞こえるので、音ってすごいなと。
本当に大事なんだなと思いました。映画も、密室状態で良いスピーカーで聞くわけですから、その聞こえ方はすごく大事だなと思います」と音の重要性を強調し、俳優の仕事においても「どういう風に言ったらより伝わるか、音をより意識するようになりました」と意識の変化を明かした。
●『100ワニ』で気づけた“人生において大切なこと”
本作においては、一視聴者としてもストーリーから大切なことを学んだという。後半は映画オリジナルのストーリーとして、ワニが亡くなったあとの仲間たちの姿が描かれており、ネズミやモグラたちと交流を重ねる重要な役どころとして、山田裕貴が声を演じる映画オリジナルキャラクター・カエルが登場する。
神木は「カエルが登場するパートになってからグッと、ズキンとくるものがありました。そして、見終わったときにはすごく希望を感じました。進むというか解けていくというか、いろんな解釈があると思いますが……」と述べ、「僕たちが生活している中で当たり前だと思っていることは、なくなって初めて当たり前ではなかったと気づく。それをすごく教えてくれる深い映画になっていると思いました」と続けた。
さらに、「くだらないことで笑ったり、楽しいなと思ったり、それは実は当たり前のことではないのだと、この映画を見て気づくことができてラッキーだと思いました。また、人が生きている時間は、人それぞれなんだなと。時間は平等ですけど、人それぞれ流れていっているんだなと思いました」と語った。
日常の一つ一つのことが当たり前ではないと気づき、日々の生活において「楽しむ」ことを以前より意識。「なるべく『いいな』と思ったり。義務感というわけではないですが、できるだけその感性を持っていたい。生きていく上ですごく大事だと思います」と、人生において大切なことに気づけたという。
そして、「メッセージ性が強く、いろいろな思いが皆さんの中で芽生えると思います」と予想する神木。「キャラクターが可愛いし、心温まるストーリーでもあるので、子供たちにも見てもらいたいですし、大人の方たちも過去のことなどふと考えさせられる、向き合ってみようと感じさせられる映画だと思うので、皆さんに見ていただきたいです」と期待を込めた。
■神木隆之介
1993年5月19日生まれ、埼玉県出身。1995年にCMデビュー、1999年に『グッドニュース』でドラマデビュー。映画『妖怪大戦争』(2005)で第29回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。近年の出演作に、映画『桐島、部活やめるってよ』(2012)、『バクマン。』(2015)、『3月のライオン』(2017)、『フォルトゥナの瞳』(2019)、『るろうに剣心』シリーズ、ドラマ『サムライせんせい』(2015)、『刑事ゆがみ』(2017)、『集団左遷!!』(2019)、『コントが始まる』(2021)など。『君の名は。』で声優アワード「主演男優賞」を受賞するなど、声優としても活躍している。映画『妖怪大戦争 ガーディアンズ』が8月13日公開予定。
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