おとぼけ顔に胸キュン! 「二〇加煎餅」は博多のお盆とも紐づいた銘菓だった
○あの表情は藩主公認
なんといっても、二〇加煎餅はおそらく煎餅界一、表情が豊かだ。愛らしい瞳と眉毛を眺めているだけでも心癒やされるという人は多い。しかしなぜ、この子たちはこんなにもキュンとくる顔にしつらえられることになったのだろう。
その秘密は、郷土芸能・福岡市無形民俗文化財「博多仁和加(にわか)」にある。約300年前の寛永年間、藩侯黒田忠之公の頃に端を発する郷土芸能だ。
当時、お盆の夜に集まった変わり者たちは、提灯の両縁を取ったものを頭から被り、目の部分だけくり抜いて視界を確保した上で往来をそぞろ歩いては、すれ違う人に軽口をたたいたりなぞなぞを仕掛けたりして笑わせたりしていたんだとか。そしていつしかその行為は「仁和加」と呼ばれるようになり、ついには藩主から認められて劇として演じられるようにまで成長。劇中では最後にオチが付き、多くの人に楽しい笑いをもたらしていたという。
お気づきの通り、これにあやかって誕生したのが二〇加煎餅である。博多の情緒に想いを寄せながら、"手にする人に笑みを運ぶ銘菓"にこだわって作り続けられているのが大きな特長だ。
「どことなく力の抜けたたれ目と八の字眉には、おいしさだけじゃなく楽しさも満喫してほしいという願いを込めています。二〇加煎餅があることでその場の雰囲気が和めば、私たちもとてもうれしいですね」と東雲堂のスタッフも話す。
○ブラック二〇加に最中バージョンも
主原料の小麦粉は福岡産。
その日の天候によって微妙に配合を変えることで、ベストな焼き上がりを保っているという。手掛けるのは熟練の職人で、一つひとつの厳選原料を丁寧に混ぜて一晩寝かせてから、翌朝再度混ぜて焼き始めるという手の込みようだ。
それゆえ味のおいしさにも定評があるが、近年ではさらに、沖縄産の黒糖と竹炭を使用した「ブラック二〇加煎餅」(3枚入×3包/518円)を発売したことでも話題を集めている。開発のきっかけは同社社員の知人による要望だったというが、もともと「今までとは違う二〇加煎餅を作ってみたい」との想いもあったため、程なくして誕生に至ったんだとか。
さらに、二〇加煎餅とは一味違う食感を楽しみたいなら、同じく仁和加のお面をかたどって作られた「にわかもなか」(6個入り540円~)もイチオシ。もなかの中には、上質な小豆を使ってじっくり炊き上げられたつぶ餡がたっぷり詰まっており、お茶請けとしても最適だ。
いずれの商品も、おいしさには高いこだわりがあると同時に、博多の伝統を後世に伝えたいという思いに満ちた銘品。福岡を訪れた際には、ぜひともチェックしてみてほしい。
※記事中の情報・価格は2015年8月取材時のもの。価格は税込