時計バンドをスマート化する、ソニーの新プロジェクト「wena」 - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」
今回はちょっと、いつもとは違うフォーマットで始めたいと思う。
写真の製品、なんだと思うだろうか?
○「First Flight」でクラウドファンディング開始
ソニーは同社のクラウドファンディング・プロジェクトを公開する「First Flight」にて、8月31日11時から新しい募集を開始した。それがこの写真、正確にはその製品の「一部」である。8月25日から、同社はクラウドファンディングの開始に向けてティザーを公表しており、ここでも部分的にチラ見せされていた。
要はこれ、時計のバンドの部分なのだ。今回First Flightでクラウドファンディングが行われるのは腕時計。その一部が公開されいた、ということになる。腕時計の名は「wena」。
もちろん、普通の腕時計ではない。価格は39,800円から69,800円。最初のキャンペーンとして数量限定で、5,000円引きの34,800円で販売されるものも用意される(全て税込)。
●「通知」「活動記録」「決済」をバンドの中に
○「通知」「活動記録」「決済」をバンドの中に
wenaは、いわゆるスマートウオッチである。だが、一般的なスマートウォッチとは異なり、時計のムーブメントの部分にはIT関連の機能は一切入っておらず、バンドの側にまとめられている。
サイズの制約もあってシンプルにまとめられているが、スマートウォッチとしてのwenaの機能はなかなかに充実している。
スマートウォッチといえば、スマートフォンからの「通知」機能が基本。wenaの場合にも、振動とカラーLEDの発光で知らせてくれる。
また、活動量計の機能もあり、こちらは、wenaのバンド内にある振動センサーで、歩行量などの計測ができる。
そして、一番の特徴は「FeliCa内蔵」ということだ。決済系のサービスが、腕から利用できるようになる。他のスマートウォッチ同様、各機能はBluetooth LEでスマートフォンと連携することで動作する。
○将来的にはポケットの中を空っぽにしたい
wenaのプロジェクトを統括する、ソニー 新規事業創出部 wena事業準備室 統括課長の對馬哲平さんは、開発の狙いを次のように説明する。「とにかく持ち物を減らしたかったんです。将来的にはポケットの中を空っぽにしたい。でも、複数デバイスを腕につけるのは不自然ですし、スマートウォッチもほとんどが、いかにもスマートウォッチだとわかる外観をしています。
ですので、最高に自然なものを作るにはどうしたらいいか、と考えてこの形にしました」。
wenaは時計のバンド部に全ての機能が入っているが、サイズが若干厚めであることを除くと、一般的なバンドと変わりない。メタルバンドとしての素材はステンレスで、時計一般に期待される耐水性・防塵性を持ち(IPX5/7相当を想定)、自然に曲げることもできる。サイズは一般的な男性用時計バンドと同じ。取付方法も同じだ。
だから、時計側を自由に交換することもできる。これは、「愛着のある時計を使える」という側面と、「機能アップがあった場合には、バンドの側だけを変えればいい」という二つの側面から考えられたものである。今回のプロジェクトでは、一体性を持たせたデザインを重視し、時計部とのセットでのみ販売されるが、時計部には色と機能で4つのバリエーションが用意される。
時計部分はシチズンからのOEMであり、機能面では問題ない。デザインはソニー側でバンドに合わせて作ったオリジナルのものだが、過去に長く時計のデザインを手がけた経験のあるスタッフが担当したという。
●「おサイフケータイ ジャケット」の仕組みを活用
○「おサイフケータイ ジャケット」の仕組みを活用
機能面で気になるのは、やはりFeliCaとしての利用だろう。現在のwenaは、FeliCa部分の機能に、NTTドコモの「おサイフケータイ ジャケット01」と同じソフトウエア・フレームワークが使われているという。
おサイフケータイ ジャケット01は、FeliCaとBluetoothを内蔵したカードサイズの機器。iPhoneのようにFeliCaを内蔵しないiOS機器で、FeliCa決済を実現するものだ。iD・QuickPay・ヨドバシカメラゴールドポイントカード・ANA SKiPサービスに対応しており、今後、楽天Edyへの対応を予定している。
形状こそ異なるが、wenaは同じ仕組みを使うため、これらのFeliCa対応サービスに対応する予定だ。
小型かつステンレスのボディで非接触IC機能を実現するため、アンテナなどはソニーがwena向けに独自開発を行い、ソフトとサービスの部分は、フェリカネットワークスが開発しているおサイフケータイ ジャケット01のものを使っている、という形になる。おサイフケータイ ジャケット01と同じ仕組みであるということは、現時点では、もっともニーズの大きなFeliCa系サービスである交通系決済、例えばSuicaには対応していない、ということでもある。この点は留意しておく必要がある。
ただし、スマートウォッチとしての機能がバンド側にある、というwenaの性質上、今後技術が進歩した場合にも、バンド側の変更で対応できる可能性が高い。現在は明確な予定はないということだが、FeliCaではなくNFCに対応したものや、FeliCa対応の幅をより広げたものも考えられる。「世界展開時には、マスターカードが進めている非接触決済である『PayPass』、VISAカードが進める『payWave』への対応を検討している」という。
○入社2年目の新人がプロジェクトリーダー
このプロジェクトを指揮する對馬さんは入社2年目で、まだ非常に若い。元々ソニーに入社する前から、ウェアラブル機器の開発を考えており、その時に持っていたアイデアのひとつがwenaだった。
その後、研修中にアイデアを熟成させ、数人の同期とともに、ソニー社内で動き始めていた「新規事業推進プロジェクト」に応募する。この段階ではまだ当然、社会人1年生である。
「実は、もう少し簡単にできるものと思っていたんですが、とんでもない。社内のプロフェッショナルの力を借りなければ、とてもできませんした」。對馬さんはそう笑う。部材調達やマーケティング、デザインに機構設計など、プロの能力が必要な部分では、ソニー社内の人材が力を貸し、ともにプロジェクトを進めた。
wenaはまだスタートしたばかりで、正式に事業化が決定しているわけではない。そもそも「First Flight」という仕組みが、クラウドファンディングによって市場性を検討し、事業化とそのスキームを決めるためのものだ。
とはいえ、半年程度でまだ経験の少ない人材が中心となってこの種のプロジェクトを立ち上げるのは大変なことだ。ソニーとしては、ベンチャーのスピード感や発想力に近いものを生かしつつ、同社が長く培ってきた製造力でカバーしてスムーズな事業化を実現しよう、という狙いがある。すでに3つの商品が同じ枠組みで世に出ているが、今後も継続して展開する予定であるという。