【VMworld2015】ヴイエムウェアが仕掛ける「ユニファイド・ハイブリッド・クラウド」とは?
米VMwareの年次テクニカルコンファレンス「VMworld 2015」が8月31日、サンフランシスコ・モスコーニセンターで開幕した(9月3日まで開催)。今回のテーマは「READY for ANY」。同社が掲げる戦略「One Cloud、Any Application、Any Device(1つのクラウドで、あらゆるアプリケーションを、あらゆるデバイスから利用できる)」を具現化するための環境が、着々と進んでいることを印象づけるものだ。同時にユーザーに対しては、「あらゆるアプリをあらゆるデバイスから利用できる環境を"READY(準備)"しているか」という問いかけにもなっている。
回を重ねるごとに、その規模を拡大しているVMworld。今回も世界88カ国から約2万3000人を超えるパートナーや顧客らが参加した。日本からも、ユーザー企業やパートナー企業など約300人が参加している。会期中は、400を超えるハンズオンラボやテクニカルセッションが開催される予定だ。
○「READY for ANY」を具現化する4要素
初日の基調講演に登壇した、米国VMware社長兼COOのCarl Eschenbach(カール・エッシェンバック)氏は、「顧客がITに求めているものは、スピード、イノベーション、生産性向上、俊敏性、セキュリティ、そしてコストの効率化など多岐にわたる。そしてこれらは、どの企業も抱えている問題だ。われわれは、すべてのアプリケーションを、いつでも、どこでもセキュアな形で利用できる環境を提供することで、こうした課題解決の支援する」と語った。
Eschenbach氏は、「One Cloud、Any Application、Any Device」を実現するには、「RUN(実行)」「BUILD (構築)」「DELIVER(配布)」「SECURE(セキュア)」の4つを実行する必要があると説く。
RUNは、「ハイブリッド・クラウド・プラットフォーム」を実現し、Software-Defined Data Center(SDDC)が持つ優位性を利用してどんなアプリも実行する環境の構築だ。BUILDは、従来のアプリだけでなく、コンテナ/クラウド・ネイティブのアプリの構築を指す。DELIVERは、どのようなデバイス(環境)にもアプリを提供できる環境の実現。そして、SECUREは、データセンターからデバイスに至るまでのセキュリティが担保である。
基調講演ではVMwareのユーザー企業である米国DIERC TVのCIO(最高情報責任者)であるMike Benson(マイク・ベンソン)氏が登壇し、One Cloudへのアプローチなどについて語った。
現在、DIERC TVはすべてのデバイスにコンテンツをストリーミング配信している。ハイブリッド・クラウド環境は5年前に構築した。その目的は、視聴者向けコンテンツを顧客に近い環境に配すること。また、人気スポーツの決勝戦などは視聴者が急増し、ネットワーク・トラフィックが膨大になるため、それに耐えうる環境を構築するためだ。同社ではネットワーク仮想化のためのプラットフォームソフトウェアであるVMware NSXを導入し、ネットワークキャブシティの課題を克服したという。
○ハイブリット・アプリにベストな「ユニファイド・ハイブリッド・クラウド」
今回のコンファレンスでVMwareは、「ユニファイド・ハイブリッド・クラウド」という言葉を打ち出した。これは、「ハイブリット・アプリケーションに最適化されたクラウド・インフラストラクチャ」を意味する。
米VMwareでクラウドサービスゼネラルマネージャ上級副社長であるBill Fathers(ビル・ファーザース)氏は、「ハイブリット・アプリの存在はビジネスを根本から変えている。ただし、こうしたアプリの展開は複雑であり、構築が難しい。なぜなら、例えばモバイルアプリをパブリッククラウドで展開するには、オンプレミス環境にある既存のミッションクリティカルなアプリと連携させる必要があるからだ」と指摘する。
では、ハイブリット・アプリケーションに最適化されたインフラをどのように提供できるか。この"解"として米VMware SDDC部門 上席副社長であるRaghu Raghuram(ラグー・ラグラム)氏が示すのは「共通のネットワーキング/管理レイヤーが必要になる。それがユニファイド・ハイブリッド・クラウドであり、(ユニファイド・ハイブリッド・クラウドの)実現のために『簡素化』『拡張』『到達』3つの分野に投資してきた」と語る。
●企業のコンテナ利用を加速する2つの新製品を発表
簡素化の"コア"となるのが、同日発表された「VMware EVO SDDC」である。これは、昨年発表された「VMware EVO Rack」を刷新したもので、ユニファイド・システムSDDCを実現させる完全自動化のソフトウェアスイートである。
SDDCの複製やライフサイクル管理、さらに仮想/ロジカルなリソースだけでなく、物理リソースも同時に管理できるのが特徴だ。搭載されている「Hardware Management Services」により、異なる種類のスイッチサーバ、配電ユニット(PDU)などの各ハードウェアを抽象化し、管理できる。
「EVO SDDC Manager」とほかのSDDC Managerを組み合わせることで、1つのEVO SDDCとして、素早くスケールアウトすることが可能だという。当初、VMware EVO SDDCは、パートナーであるデル、QCT(Quanta Cloud Technology)、VCEからOEMの統合システム製品として提供される。
もう1つ拡張で注目すべきが「Cross-Cloud vMotion」である。これは、オンプレミス環境と、vCloud Air(パブリッククラウド)間でライブワークロードマイグレーションをシームレスに実現するものだ。基調講演では、サンタクララ(カリフォルニア州)のオンプレミス環境で稼働しているLDAPサーバを、バージニア州にあるvCloud Airのデータセンターへ移行するデモンストレーションが行われた。なお、Cross-Cloud vMotionは「Project Skyscraper」の1機能という位置づけで、現在は技術プレビューとなっている。
○コンテナと仮想マシンを1対1で対応する「vSphere Integrated Containers」
また、VMwareはクラウド・ネイティブ・アプリケーションの素早い導入を支援する「VMware vSphere Integrated Containers」と「VMware Photon Platform」のプレビュー版も公開した。
VMware vSphere Integrated Containersは、本番環境向けのコンテナベースのインフラを開発者に提供するもの。米VMwareの最高技術責任者(CTO)兼最高開発責任者(CDO)のRay O’Farrell(レイ・オファラレル)氏は、「過去、クラウド・ネイティブ・アプリは、インハウスで作られており、スピードやアジリティが必要だった。VMware vSphere Integrated Containersを利用すれば、ユーザー企業は既存のVMware vSphere環境上で展開しているツールを活用しながら、コンテナ化されたアプリを活用できる」と語る。
以前は、仮想マシンでコンテナを扱うと、管理ツールから見ることができず、セキュリティが担保されないという課題があった。しかし、VMware vSphere Integrated Containersでは、コンテナと仮想マシンが1対1でマッピングされる。そのため、仮想マシンに紐づけた形でセキュリティを確保できるという。
なお、VMware vSphere Integrated Containersは、CoreOS Tectonic、Docker、Kubernetes、MesosphereのData Center Operating System、Cloud Foundryなどから提供されるソリューションと統合することが可能だ。
一方、VMware Photon Platformは、クラウド・ネイティブ・アプリの開発基盤であり、「VMware Photon Controller」と「VMware Photon Machine」で構成される。
VMware Photon Controller は、大規模/変動の大きいワークロード、高可用性などの環境に最適化されたマルチテナントかつAPI ベースのコントロールプレーンである。VMware Photon Machineには、VMware ESXiをベースとした新しいESXマイクロバイザと、コンテナ化されたアプリケーションやVMware 環境に最適化された軽量Linux OS(Project Photon OS)が包含されている。なお、将来的にはVMware NSX、VMware Virtual SAN、VMware vRealize Suite との統合も予定しているという。