iOS 9はSiriがより賢いアシスタントになる - Apple先読み・深読み
Appleは米国現地時間9月9日に、サンフランシスコでメディア向けイベントを開催するとして招待状が発送された。招待状には毎回、1行のフレーズが書かれているが、今回は「Hey Siri, give us a hint.」が選ばれていた。
「Hey Siri」とは、iPhoneやApple Watchなどで、ボタン操作をせずにSiriを起動する際の言葉で、筆者もApple Watchでタイマーを起動するときに利用している。例えば「Hey Siri, 13分のタイマーをセット」という具合だ。
実際に、招待状のフレーズ通りにSiriに尋ねてみると、Appleもそうされることを想定していたのだろう、その返答は、イベントの内容まで明かしはしないが、9月9日に発表があることを教えてくれた。
iOS 9においてSiriは、これまで以上の進化を遂げることになる。しかも、音声アシスタントであるSiriは、ユーザーの端末でのアプリの使用状況やメール、スケジュールなどの情報を活用した候補の提案も行うようになる。
○音声アシスタント競争
Siriの競争相手は少なくない。
GoogleはAndroidだけでなくiPhoneでも利用できるGoogleアプリの音声検索を、コマーシャルなどでアピールしている。確かに、検索と音声入力は相性が良い。YouTubeなどのアプリにも、検索窓に音声検索の機能が備わるようになり、「キーボードを使わないモバイル検索」の便利さを広めようとしている。加えて、Google Nowによるアシスタント機能と音声が結びつき、「とにかく何でも知っている音声アシスタント」になろうとしている。
Microsoftは、「Cortana」をWindows Phone、Windows 10などのプロダクトに導入した。滑らかに喋る音声アシスタントは、各国のキャラクターも重視しており、中国語版では明るい好かれる声を、日本語版では礼儀正しさを強調するなど、親しみやすさを文化に応じてカスタマイズしている。
Google、MicrosoftのBingと、検索エンジンを擁する企業の音声アシスタントに加えて、Amazonも、円筒形のスピーカーAmazon Echoで、音声による検索や操作などを実現している。このように、「声」を使った機能の競争はトレンドとなっているのだ。
また、アシスタント性についても、競争が進んでいる。最近、こうした自分に関する情報を統合してくれる仕組みについては、Googleマップが便利だと感じている。
Googleでは情報を自動的に活用する仕組みに力を入れている。例えばGmailに届いたメールを見て、自動的にスケジュールをGoogleカレンダーに入力したり、Googleマップ上に予約している時間を地点に表示してくれる仕組みが実装された。
レストラン予約サービスのOpen Tableでディナーのお店を予約すると、地図上のお店の地点に印がつき、日付と時間を表示してくれるのだ。航空券の確認メールが届いていると、出発する空港の時間と便名が表示される。
こうした、ユーザーの操作を減らす、もしくはユーザーがやろうとしていることを先回りして解決しておく、といった充実は、アシスタントとしての便利さをより高めてくれる。
●Siri、進化のポイント
○Siriなりの言い分
こうした中で、iOS 9のSiriはどのような進化を遂げようとしているのか。
進化のポイントは、以下の5点だ。
Spotlight検索との連携強化
スポーツや天気などの情報提示をより深く
単位や為替の変換などの計算に対応
端末内のデータ、アプリを活用した検索の対応
Spotlight検索画面で、よく使う連絡先やアプリ、周辺のスポットなどを提案
検索の活用強化という側面から、GoogleやMicrosoftなどと狙う方向性は近くなっているが、極力端末内で解決しようという傾向を強めているようにみられる。つまりSpotlightとSiriをより密接に連携させるということだ。
例えば、これまで単位計算などは、Wolfram Alphaを活用して行ってきた。このサービスは知識エンジンと言われており、検索キーワードに対して、その言葉が含まれたページを返す検索エンジンと異なり、直接答えを提示する仕組みだ。しかしiOS 9では、このサービスに頼らず単位計算を済ませるようになる。
またSpotlightの機能は、端末内のあらゆるデータを検索可能にする仕組みで、これにはアプリ内のデータや、アプリを介した検索も含まれるようになる。そのため、アプリ側の対応も必要になるが、Siriから直接、アプリの検索を活用することもできるようになっていく。
○機械学習の活用
WWDC15で披露されたSiriの進化で興味深かったのは、「Siriの検索候補」だ。
iOS 9のテーマの1つに「インテリジェンス」があり、それを実現する方法として「プロアクティブアシスタント」、つまり先回りをして、やろうとしていることを便利にしてくれる仕組みを導入することだ。
これまで音声アシスタントのインターフェイスとして「Siri」という名前を使ってきたが、Appleが披露したiOS 9では、先回りしてアシストする機能全般に「Siri」という名前を使っていた点が印象的だった。
WWDC15のデモによると、ホーム画面の左端に用意されている検索画面を開ける仕組みになっており、ここに連絡すべき相手やよく使うアプリ、近隣のスポットのワンタップでの検索、最新ニュースなどがまとめられている。
これらの候補は、各アプリへのディープリンクとなっており、直接情報にアクセスできる仕組みになっている。
また、時間帯や場所、スケジュールなどに応じて、アプリの候補や連絡先の候補は入れ替わるとしており、朝起きてヨガアプリを利用する習慣があるなら、そのアプリが候補として現れ、ホーム画面から探さなくてもSiriの検索候補からすぐにアクセスできる。
その他にも、ロック画面でのアプリの提案や、イヤホンを挿した際に音楽アプリを候補に出すなど、ユーザーの行動を学びながら操作の手順を1つずつ減らす方法を提案してくれる。
●サードパーティアプリにもたらす変化
○開発者も、Siriを活用できるようになるか
iOS 9のSiriでは、「昨年9月の写真を見たい」「大学を卒業する頃のヒットチャートを聴かせて」といった要望も実現する。
背後には、Spotlightが自然言語による検索条件の解読を行い、写真アプリやミュージックアプリが複数のインデックスによる検索を行えるようになっていることから、実現されている。
これまで、SiriはAppleのみが知識や機能を与えてきた。しかしiOS 9以降、その方針は変更されそうだ。
前述の通り、SiriはSpotlight検索と密接に結びついている。その検索候補には、サードパーティーのアプリの情報を活用したり、アプリのコンテンツに対するディープリンクを設定することができるようになっている。
検索APIの紹介において、WWDC15のスライドでは、Spotlight検索で「Maui」(ハワイの島の名前)を入力すると、旅行予約アプリのKAYAKで、サンフランシスコ(おそらく今自分がいる場所の最寄りの空港)からマウイ島までの飛行機の便を、候補に挙げていた。
SiriがSpotlight検索の情報を活用するならば、サードパーティーアプリの中にある情報を、Siriの返答として提供できるようになるはずだ。つまり、開発者のアプリが、Siriに対して、情報提供できるようになることを意味する。
もちろん、実際にSiriから様々なアプリの情報を利用できるようにするには、アプリ開発者側の対応が求められる。しかも、ただアプリがAPIをサポートするだけではなく、どのような質問が投げかけられるか、どのような返答とディープリンクを返せば便利か、といった調整が必要になるだろう。
特に、ユーザーの情報を多く保存しているサービスほど、便利に働くはずだ。筆者があらゆる書類やメモを保存しているアプリ「Evernote」で、「パスポートの更新についてのメモ」や「今日が締め切りのToDo」といった検索から、ノート単体やノートのリストが出てくると便利だろう。
できれば、指示語だらけの命令、「あのとき保存したアレ」みたいなニュアンスで、「これですか?」と提示してくれるとうれしいのだが、さすがにそれは当分実現されないだろう。ただ、Siriが取り組もうとしている未来像もまた、ニュアンスに答えられるようになることかもしれない。
松村太郎(まつむらたろう)1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。
慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura