桐谷美玲、"バランス"仕事術から生まれた運命的主演作への情熱とは? 重なり合った偶然と試写で流した初めての涙
今年、女優デビュー10年目を迎えた桐谷美玲にとって、運命的な主演作『ヒロイン失格』が9月19日に公開される。原作は、漫画誌『別冊マーガレット』(集英社)で連載され、累計160万部(全10巻)を突破した人気漫画。そのコミックを手にとったのは今から約4年前で、暴走ヒロイン・はとりの魅力のとりこになり、自ら演じることを熱望する。原作者の幸田もも子氏が桐谷をイメージしてはとりを描いていたことや、最終巻に実写映画化を暗示するような描写があること、そして桐谷本人がラジオやブログなどあらゆる場所で原作の魅力を語っていたことなど、さまざまな偶然が重なり合い、今回の実写化へとつながった。
念願かなっての出演に、桐谷はこれまで以上に気合をみなぎらせた。変顔やオーバーリアクションなどに全身全霊で挑んだのは、熱烈な読者としての思いがあった一方で、世界観を壊したくない、壊せないというプレッシャーと不安があったから。原作最終巻の"暗示"にあった「とことんくらいつけ!!」のキャッチコピーをほうふつとさせる桐谷を直撃し、その"熱量"を測った。
――いよいよ公開ですね。
8月30日付のブログに「いろんな感情がある」と書かれていましたが、今はどのような心境ですか。
皆さんに楽しんでもらえるものができたと思っているので早く観てもらいたい……けど、受け入れてもらえるのかなというドキドキ感もあります。ご覧になった方がどのような反応をするのか楽しみです。試写で初めて観た時は、ホッとしました。安心した気持ちが大きくて、それまでは無意識に気が張っていたみたいで。観終わった後に試写室で監督と話していて、自然と涙が出てしまいました。こんな気持ち、状態になったのは初めてだと思います。
――原作者・幸田もも子さんからの評価が気になっての不安もありましたか。
いえ、幸田先生は現場で見学してくださった時から完成を楽しみにしてくださっていて、「いいよ!いいよ!」とお褒めの言葉をいただいていました(笑)。私自身が大好きな漫画なのでとても思い入れが強くて、「こういう『ヒロイン失格』が観たい!」という具体的なイメージや世界観がファンとして分かっていたからこそ、自分で演じてそれを壊してしまわないかなという不安は常にありました。ただ、役作り自体は苦労することなく、撮影自体はとても楽しい日々でした(笑)。
――原作の最終巻で「桐谷美鈴」という桐谷さんの名前をもじったシーンがありました。はとりが街中で『ヒロイン失格』の映画看板を目撃するシーンで、看板には「とことんくらいつけ!!」のキャッチコピーが躍り、その主演が"桐谷美鈴"という設定でした。今から約2年前の2013年7月1日、ご自身のブログでも「嬉しすぎる件」と題して気持ちがつづられていました。
単行本で読んでいたんですけど、見つけた時に「うわー!」とビックリ(笑)。うれしすぎて、思わずブログに書いてしまいました。
物語と同じように、本当に映画化が決まって私が出演することになるなんて、本当に不思議ですね。
マネージャーさんと漫画の情報交換を時々していて、そこで勧められたのが原作を読むきっかけです。読んだ後は、お気に入りのシーンを語り合ったりしています。『ヒロイン失格』は読み始めたらすぐにハマって、マネージャーさんとキャーキャー言いながら一緒に盛り上がっていました(笑)。実写化されたら演じたいと思うようになったのは、そんな何気ないやりとりの中で徐々に芽生えていった気がします。マネージャーさんには「この変顔ができるから、はとりを演じることができます!」とアピールしていました(笑)。
●1本に絞る選択肢はない
――ラジオ番組をはじめ、いろいろなところで『ヒロイン失格』の話をしていたそうですね。
はい(笑)。
幸田先生と今回の撮影現場でお会いした時に、「はとりを描く時に参考にしていました」と言っていただけて、それも知らなかったのでビックリしました。あとは「みんな弘光がいいって言うけどやっぱり利太だよね」みたいな会話で盛り上がったり、描いている時の裏話を教えてくださったり。幸田先生も自分で変顔を試した上で、はとりに落とし込んでいたそうで、実際に変顔のやり方をレクチャーしていただいたりもしました。
――丸坊主や変顔シーンなど、桐谷さんにとってはコメディエンヌとしての新境地ともいえる作品だったと思います。
いつもよりテンション高かったと思います。スタッフさんもキャストも本当に仲が良くて、とても良い雰囲気の中での撮影だったのですが、早朝からテンション高めのシーンだと気合を入れました(笑)。今年1月からの撮影で、まだ肌寒い時期。真夏のシーンなどもあり、池に飛び込むカットなんかは本当に大変でした。
寒いというか、体が凍るんです(笑)。池から上がったあとはお湯を全身にかけてもらって、やっと動けるようになるような状態でした。
――劇中のはとりからは全く想像できない状況ですね。
ですよね(笑)。はとりについて、英監督からは「どんな感情も100%以上で表現する女の子」と言われていて、私もそこは魅力的な部分だと思っていたので思い切ってやりました。はとりは本当に何事にも一生懸命。普通の女の子が言わないことも全部言ってしまいます。それが"素直"にもつながるので、私もかわいい女の子だなと思います。
私自身がはとりの立場になったとして、利太と弘光のどちらを好きになるかは……たぶん年齢によって変わると思います。原作を読んでいる時から、みんなで「どっち派?」みたいな話をしていて(笑)。私は、今なら好きな人を追い駆けたいですが、もう少し年齢が上になったら、自分を好きでいてくれる人と結婚したいんだろうなとか。今は自分の気持ちには素直になりたいなと思うので、今のところは「私が好きな人」を選びます(笑)。
――今年はデビュー10年目の年。念願かなった作品がこのように公開されることもそうですが、大学卒業や2012年からモデルを務めていた『non-no』を卒業するなど、さまざまなことで節目を迎えた年になりました。
自分の中では「もう10年?」という印象が強くて、「10年目だから」という理由で具体的に考えたことは今のところありません。たまたま今回のような作品にも出会えましたし、大学も『non-no』も卒業が偶然同じタイミングになりました。
振り返った時に、10年目は節目の年だったんだと思うかもしれませんね(笑)。その2つを卒業してからも、演技への向き合い方は特に変わっていません。
私がやらせていただいていることは、10年前からあまり変わっていないんじゃないかなと思うんです。雑誌とお芝居を両方やりながら、2012年からはキャスターをやらせていただいて。私としてはずっとそのバランスを続けてきているので、どれか1本に絞るような選択肢は自分の中にはありません。全部があるから、"桐谷美玲"としてバランスよく仕事ができているのかなと思います。
この仕事をはじめて10年目。『ヒロイン失格』をやりたいと主張しました。これからもそんな作品と出会えたらいいなと思います。今までいろんな役をいただいた中で、不思議な縁ですが、はとりが自分の素に一番近かったような気がします。今回のようなコメディはもちろん、今年で26歳になるので大人っぽい役もできるような年齢になってきたのかなと。ただ、何事も経験なので、変わらずどんなことでも頑張っていきたいです。
■プロフィール
桐谷美玲
1989年12月16日生まれ。千葉県出身。A型。身長163.5センチ。2006年公開の映画『春の居場所』でデビュー。これまで、『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』(12年)、『ツナグ』(12年)、『100回泣くこと』(13年)、『女子ーズ』(14年)、『恋する・ヴァンパイア』(15年)などの映画、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』(14年)、『死神くん』(14年・テレビ朝日系)、『地獄先生ぬ~べ~』(14年・日本テレビ系)などのドラマに出演し、Netflixで配信中のドラマ『アンダーウェア』で主演。そのほか、日本テレビ系報道番組『NEWS ZERO』で火曜日キャスターを務めている。