キヤノンはなぜアクシスを買収したのか?
キヤノンのカメラといえば、デジタル一眼レフカメラの「EOS」シリーズや、コンパクトデジタルカメラ「IXY」シリーズ、「PowerShot」シリーズなどがすぐに思い浮かぶ。エントリーモデルからプロユースモデルまで幅広く展開したデジタルカメラ群は、美しい画像・映像を撮影できるツールとして多くの人々に愛されてきた。
そのキヤノンが、最近力を入れているのがネットワークカメラだ。3月にはさまざまな需要に応えるネットワークカメラ9機種を、5月下旬から順次発売することを発表。従来から大幅にラインアップを拡充した。
また5月には、ネットワークカメラの世界シェアトップであるアクシスを子会社化。これまでにもビデオ管理システムを持つマイルストーンを買収するなど法人向けのネットワークカメラビジネスについて体制を整えてきた。
なぜ今、ネットワークカメラなのかということについて、キヤノンマーケティングジャパン オフィスデバイス企画本部 NVS企画部の部長である市川修氏は「これまで製品は持っていても注力してこなかった分野ですが、年率115~120%と伸びている成長分野に改めて注力しようと考えました」と語る。
市川氏の所属する「NVS企画部」は2014年4月に創られた部署で、「NVS」とはネットワークビジュアルソリューションを示す言葉だという。ネットワークカメラ事業の強化は、新たな部署まで創設しての取り組みなのだ。
○防犯・監視以外のマーケティングや見守り需要への対応
「ネットワークカメラは2020年に向けた切替え需要と、旧機種からのリプレース時にデジタル化するという需要で伸びているところ。アナログカメラも一定数残りますが、ネットワークカメラにすることでできることが増えるのも、ユーザーにとっての大きな魅力です」と市川氏が語るように、従来は防犯・監視分野での採用が圧倒的多数だったが、マーケティングへの活用などさまざまなネットワークカメラ活用が伸びてきているのが現状だ。
そうした中、市川氏は「防犯カメラ・監視カメラ」という言葉を使わない。見張る、見張られるイメージの言葉にはネガティブな印象がつきまとうが、今後ネットワークカメラが伸びて行くにあたってはイメージの刷新も必要だという考えだ。「たとえば高齢化社会に対応するみまもり需要、2020年に向けたインバウンドに対応する需要、マーケティングへの活用など防犯・監視以外のネットワークカメラ活用の道は数多くあります。新しいものとして認識される社会にしたいですね。
カメラは目と同じです。目の代りになってくれるものであって、目をどう使うかは使い方なのです」と市川氏。
そうしたイメージの刷新とともに、日本国内のネットワークカメラ活用の底上げに関しては「国内でビジネスを展開する他社とも協力して行きたい」とも語った。
●市場ニーズに一眼レフの技術で対応
「2020年までにアクシスとキヤノンの合計で、現在国内市場のトップであるパナソニックを追い抜くのが目標です。そのためには既存の販売チャネルを活用しつつ、新たなソリューションを生み出して新規の顧客開拓も行なう必要があります」と市川氏は語る。
それを達成するためのキヤノンの武器は、長年培ってきたカメラレンズのテクノロジーだ。防犯・監視分野でも、近年は単純に店頭を出入りする人やATM周りの人影を撮影しておき、風体を判断するという以上の使い方がされている。たとえばレジを操作する手元を撮影しておくことで釣り銭の渡し間違いなどに対応するなど、より鮮明な映像が求められているのだ。
そして、マーケティングへの活用などを考えた場合、性別や年齢、手に取った商品などもはっきりと分かる画質が求められる。高解像度へのニーズが高いわけだが、これにもキヤノンは他社と違ったアプローチができるという。
「一眼レフカメラを作り、レンズ等に長年のノウハウを持つキヤノンにしかできないことがいろいろあります。たとえば高解像度は必要条件ですが、単純に解像度が高ければよいというものではなく、ネットワークカメラは映像を送信するためできるだけ低容量でありながら高解像度で撮影できなければなりません」と市川氏。いかに美しく撮り、コンパクトに送信するかという部分に、キヤノンのカメラレンズ技術などが活きてくるという。
○高性能カメラとソリューション力を武器に展開
すでにビジネスを展開する中で、キヤノンの技術はユーザーからも認められるものになっている。
「綺麗さには定評があります。ただ、他社と比較して価格が高めだと言われることが多くあります。
低コストで導入したいという需要にも応える必要がありますが、同時にキヤノンにしかできないソリューションを提供することで対応したいですね」と市川氏は語る。1000台を超えるような大規模導入になると、カメラの本体価格が全体に占める割合は小さくなってくる。カメラ価格そのもので対応するのではなく、周辺ソリューションやカメラの機能によって、結果的にトータルで得になる形になればよいわけだ。
「いい製品ならば振り向いてもらえるとは思っていません。いいソリューションといい製品を組み合わせてこそです」と市川氏はカメラへのテクノロジー投入とともに、ソリューション展開に注力して行く意向を語った。