2019年が目標? Appleが進める完全自動運転EVの「Project Titan」とは
噂が現実に近付きつつあるようだ。米Appleは現在、内部での"約束されたプロジェクト"として電気自動車(EV)の開発に取り組んでおり、2019年を出荷目標に計画が進んでいるという。米Wall Street Journalが9月21日(米国時間)に関係者の話として報じている。
○米カリフォルニア州コンコードの巨大な実験施設
少し経緯を振り返ると、Appleがカーエンターテイメントだけでなく、自動車分野そのものへの参入を模索しているという話は2015年初頭あたりから具体化し始めている。最初は米Apple本社のあるクパチーノからそれほど遠くないコンコード(Concord, CA)周辺で謎の実験車の目撃報告が出てきたことに端を発する。Googleを含む複数の自動運転車(Self-Driving Vehicle/CarやDriverless Carなどと呼ばれることがある)の実験車両と同等の設備を保有するこの謎の車は、後にAppleがリースしたものだと判明したことで騒がれ始め、実際に同社が自動車メーカーの専門家や部品サプライヤとの交渉を行っていることがReutersによって報じられている。
その後、The Guardianが8月中旬にAppleと自動運転実験施設との間の交渉を報じたことで、より具体的な動きが明らかにされるようになった。The Guardianが8月に報じたのは、Apple内部の秘密のスペシャルプロジェクトに携わるエンジニアらがGoMentum Stationという施設を5月に訪れ、施設利用のタイミングや他社の利用状況について問い合わせを行ったという情報だ。
本来であればプロジェクトの調査と施設内部の見学自体は不可能だが、交渉の存在そのものは記録されており、The Guardianが公開情報請求で入手したことによって発覚したという。GoMentum Stationは2100エーカー(約東京ドーム180個分)の広大な敷地を持つ実験施設で、もともとは第2次世界大戦時代の兵器庫跡地(Concord Naval Weapons Station)を再利用して舗装道路などを整備し、前述の実験施設として貸し出しているものだ。
The Guardianによれば、Appleの秘密のプロジェクトは本社のあるクパチーノではなく、それよりもサンフランシスコ湾寄りにあるサニーベールに存在するという。このサニーベールのオフィスがAppleにリースされたのは2014年で、セキュリティが強化された形で複数の同社の研究所が同居しているようだ。サニーベルから前述GoMentum Stationまでは50マイル程度なので、実験施設としては適当なのだろう。またGoMentum Stationは秘匿性が高く、4月にTesla Motorsの関係者が同所を訪れた際には武装した兵士らにガードされており、エンジニアが関係者らをツアーに連れ出したところ、外国出身の労働者や社会保障番号(SSN)の提示を拒否した関係者らは施設への侵入そのものを拒否されたりと、かなり厳しい入場制限がかかっている様子がうかがえる。実際、小型のデバイスとは異なり、このような自動車実験には広大な土地が必要な一方でセキュリティ要件を満たす場所は少なく、軍設備の払い下げで一定のセキュリティの確保されたGoMentum Stationは実験にうってつけなのだろう。
●「Project Titan」とは何か
○「Project Titan」とは
このAppleの秘密プロジェクトの名称は「Project Titan」と呼ばれている。
ValueWalkがPiper JaffrayのアナリストGene Munster氏のコメントを引用して9月初旬に伝えたところによれば、大衆車の市場はターゲットにしておらず、「Elegance of Design (デザインの優雅さ)」に注力する形で、価格のためにユーザー体験を犠牲にすることがないよう製品デザインが行われているという。結果として、Appleが開発を進めているという電気自動車(EV)は自動運転などの機能を視野に入れつつ、高級車市場を目指すことになる。「同プロジェクトは5~10年内には実現するだろう」というのがMunster氏の予測だ。
その後、The Guardianが9月18日(米国時間)に報じたところによれば、Appleで上級法律顧問を務めるMike Maletic氏が8月17日、DMVのディレクター補佐で自動運転車の専門家であるBernard Soriano氏と、カリフォルニア州の自動運転規制プロジェクトの戦略推進共同チーフであるStephanie Dougherty氏、DMV顧問主査でディレクター補佐のBrian Soublet氏らと1時間の会談を行っていたと、やはり公開情報請求により明らかになったという。Appleが100%同分野に進出してくるかはまだ不明だが、少なくとも公道実験を行うレベルまではプロジェクトを推進する気があることを示す動きだといえるだろう。
そして冒頭のWSJの話題となる。同紙によれば、AppleのProject Titanは過去1年以上をかけて可能性の模索が続けられてきたもので(ちょうどThe Guardianの報道にあるオフィスのリース開始期間と一致する)、カリフォルニア州政府の2つのグループとのミーティングを経て、600人規模のプロジェクトメンバーを3倍にまで増やすことが許可されたという。そしてAppleは自動運転車の専門家らをかき集めており、現在の計画では"完全に自動運転可能"な電気自動車を最初にリリースすることが目標になっているという。
少なくとも、WSJの報道からうかがえるプロジェクトの数字は、Appleが本気で電気自動車、そしてかつ自動運転車の開発に傾
いていることを示している。
●競合は多数
○競合は既存の自動車メーカーに加え、GoogleやUberも
同分野ではすでにGoogleやTeslaが先行実験を進めており、Appleは少なくともこれらライバルに追いつき追い越すくらいの目論見でプロジェクトを進めていることだろう。現状の電気自動車は技術の蓄積を必須とするような参入障壁が少ない一方で、バッテリ技術などコスト面や耐久性の面で解決すべき問題も多数抱えており、Teslaの製品価格レンジが高級車をターゲットとしているなど、一般ユーザーへの普及におけるハードルが高い様子をうかがわせる。
ただ、電気自動車の研究とともにIT技術の取り込みによる車のスマート化が進んでおり、自動運転技術に関する期待は高い。将来的には渋滞や事故の削減、さらには運転の効率化で本当の意味でのエコ化が推進されるようになるだろう。運転手が不要になるということは、車の運転における人員コストの削減も可能になる。そのため、配車サービスを世界展開しているUberでは、将来的に急増する需要を「自動運転技術」でまかなうべく同分野への参入を進めているといわれる。
既存の自動車メーカーも手をこまねいているわけではない。
特に米国ではTeslaを中心に電気自動車へのシフトを模索しており、自動運転車で世界をリードしていきたいという思惑もあるだろう。Big 3と呼ばれるGeneral Motors (GM)、Ford Motor、Fiat Chryslerといったメーカーらは、こうした新興勢力に負けない形で市場を守るべく開発を進めてくるだろう。そのため、こうしたITベンダーらの新勢力の動きを非常に警戒しており、実際に自社の持つコア技術や、販売され日々使われるスマートカーから得られる情報への、これら企業からのアクセスを厳密にシャットアウトしようとするなど、実際に製品が投入されるであろう2020年ごろよりかなり前の段階で牽制をスタートしている。その意味で、すでにAppleやGoogleを含むIT企業らと既存の自動車メーカーの競争は始まっているといえる。