「Splatoon(スプラトゥーン)」 のイカしたサウンドを徹底分析 - 作曲家が人気の理由を考えてみた
任天堂のWii Uソフト「Splatoon(スプラトゥーン)」 は、人気を集めている新規タイトル。身の回りにも同作をやっている人は多いように感じますし、個人的にも楽しくプレイしています。最近、ブキはバケットスロッシャーをよく使っています。新ステージ「マサバ海峡大橋」は複雑なつくりですが、景色の眺めがよくてプレイしていて気持ちがよいです。
先月マイナビニュースに掲載されたSplatoonのデザイン面に関する開発者インタビューには、コメントを寄せさせていただきました。ですが、この記事が公開された後、サウンドトラックの発売をはじめ、サウンド面についての気になる情報公開があいついでいます。
もともとSplatoonのBGMに対するプレイヤーの注目は強く、サントラの発売を希望する声は、発売当初から聞こえていました。どうして、Splatoonの「サウンド」はここまで人気を集めているのでしょうか。
今回はバトル中のBGMとシオカラ節を中心に、私なりに人気の理由を分析していきます。
■筆者プロフィール作・編曲家こおろぎ1982年8月3日生まれ。宮崎県出身。ギター、ベース、キーボード等の楽器を演奏し、編曲、TV、舞台、アプリ、ゲームのBGMなどを制作。近作ではMBS ・TBSドラマ「となりの関くん」、SUBARU WRX STI 「ドライビング イメージ篇」の音楽を担当。
○徹底してメロディを聴かせる伝統的なゲームサウンド
「Splatoon」は主に公式Twitterアカウントから情報公開が行われているのですが、サウンドトラックCDの発売をアナウンスするツイートは1万回以上RT(リツイート)されており、待望されていた事がわかります。
オリジナルサウンドトラック「スプラチューン」の発売が10月21日に決定した。価格は3200円(税抜)。
大型アップデートでの追加曲や効果音を含めた全61トラックを収録した2枚組の豪華版だ。http://t.co/Xtpo5opYcp pic.twitter.com/Q1m36NLn6R— Splatoon(スプラトゥーン) (@SplatoonJP) 2015, 8月 27
SplatoonのバトルBGMについて、「今までの任天堂っぽくないハードなロックサウンド」という感想をよく聞きます。後述しますが同作のBGMはバンド編成で収録されているため、任天堂のタイトルとしてとらえると、「曲調」は確かに新鮮に聞こえます。ですが、曲の「つくり」 は伝統的なゲームサウンドを踏襲していると感じました。
マリオ、ドラクエ、ファイナルファンタジーなど、1980年代から今まで遊ばれている名作のゲームタイトルは、音楽も人気です。この時代は限られた容量の中でゲームを成立させなければならなかったため、サウンドにおいても使える音数は少なかったんです。こうした状況下では、柱となるひとつのメロディと、それを支えるわずかなバックサウンドというつくり の音楽が精一杯だったのですが、シンプルだからこそメロディが記憶に残りやすかった、という面もあるかと思います。
この、「柱になる1本のメロディと、それを支えるわずかな音」というつくり は、Splatoonのサウンドにも適用されています。
どの曲もメロディラインは常に1本。それに寄り添う「ハモり」もほとんど入っていませんし、伴奏も動きのある音があまり入ってないので、メロディが引き立っているように感じられます。歌以外のギター、シンセのソロフレーズ部分もほとんど1本のメロディで作られています。また、メロディのパターンのくり返しが多い事も、覚えやすさ、キャッチーさにつながっていますね。以下の動画の冒頭でBGMとして流れているのが、メインテーマ「Splattack!」です。
加えて、BGMがボーカルを据えた「歌モノ」なのも、覚えやすさに影響しています。例えばシンセなどの楽器が中心となっている楽曲だと、メロディがあっても人が歌えない音域やリズムになっていたりすることもあります。口ずさめるということは、記憶に残るということです。
その一方で、歌詞は人間には聴き取れない「イカ語」なので、真剣にバトルをしている最中に耳を奪われ、気が散るということはありません。「イカ語」というどの言語にも属さない言葉を採用したことで、「プレイの邪魔にならないけれど、”歌モノ”として耳に残る」、という面白い効果があると思います。
さらに、バトル中のBGMは「4人編成のバンド」の曲が流れているという設定がされていて、バンドメンバーのビジュアルもゲーム中に登場します。「バンド」が同時に鳴らせる音、使える音色は限られています。その制約のおかげで、アレコレと色んな音が入らず、サウンドがシンプルでわかりやすくなっていると言えるでしょう。というのも、現代はハードが進化して音数や音色の制限はなくなったことで、重層的なメロディーを採用したり、多様な音色を混ぜたりした音楽も見られるようになりました。表現の幅が広がったのは喜ばしいことである一方、複雑にしすぎると先ほど述べたような理由で、かえって聴き手の印象に残らないんです。
ちなみに、8月6日の大型アップデートで数曲が追加されたのですが、それらの曲はちょっとだけ複雑なものになっています。
ステージやブキもシンプルなものから先に出して後からテクニカルなものを出してきたように、BGMもそういった流れがあるようです。
彼らの名前は「ABXY」。イソギンチャク女子ボーカルの独特なキャラクターとピコピコサウンドでイカ界のヒットチャートを爆進中の4人組だ。大型アップデートでバトルのBGMとして追加される「Friend List」を紹介しよう。https://t.co/HFxSz8w6Og— Splatoon(スプラトゥーン) (@SplatoonJP) 2015, 8月 5
●ユーザーが”二次創作”できる音楽
○ユーザーが”二次創作”できる音楽
次の要素として、聴くだけでなく、ユーザー側で遊ぶ余地があるということも、同作のサウンドが親しまれている大きな要素と言えると思います。先述の通りメロディが1本だけなので曲の芯を維持しやすく、他のサウンドを大きく変化させても、元の曲がわかります。
例えば、原曲に色々とアレンジが加えられたものが、ニコニコ動画などに投稿されています。ダブステップにしたり。
ボサノバっぽくしたりなど、他の音楽ジャンルへ変えてみたり、あるいは劇伴風にしてみたり。(「劇伴風」のアレンジは僕が作ったものなのですが、ちょっと紹介させてください。)
バトルBGMはバンドの曲なので、「コピーバンド」の要領でバンドを組んで演奏したものもあります。
加えて、歌の部分は「イカ語」と言われる、人間では理解できない歌詞なのですが、聴き取れないため空耳で無理やり歌詞をつける、といった"遊び"も発生しています。特に有名なのはメインテーマ「Splattack!」のサビが「二枚貝~♪」に聴こえるというものですね。
○ゲームの世界と地続きになった音作り
そのほか、最初に曲のつくりをお話した際に少し触れましたが、BGMの世界観が作りこまれていることも、人気を集める要素として挙げられます。例えば、メインテーマ「Splattack!」の演奏をしているのは、イカの若者に人気の4人編成の架空のバンド「Squid Squad」。ビジュアルも用意されています。
バトルのBGMは、「Squid Squad」をはじめとした、色々なバンドの楽曲が使われているという設定です。
バトルのBGMはバンドサウンドである一方、1人でプレイする「ヒーローモード」のほうはデジタルなサウンドで、「タコ陣営が放送している曲」という設定があったりと、一つひとつの曲を掘り下げて楽しむことができます。
●「シオカラ節」のキャッチーさの秘密
○楽曲を奏でたサウンドクリエイターを公開
設定とは別に、音楽を実際に演奏している「中の人」も発表されました。「Squid Squad」、「シオカラーズ」、8月のアップデートで追加された「ABXY」と「Hightide Era」の楽曲を演奏した方々の名前が明かされています。
普段同作をプレイしている方が音楽の作り手を知る機会となった一方で、普段ゲームをプレイしている人とは違った層の方にも、このゲームが知られるきっかけになったのではないでしょうか。「普段アクションやシューティングはやらないけれど、Splatoonは遊べる」という声が多く聞かれるこのタイトルならではの相互効果で、異なる文化が交わるきっかけにもなりそうです。
○「シオカラ節」のキャッチーさの秘密
「Splatoon」のBGMの中でも、曲名をよく知られていて、人気がある曲がこの「シオカラ節」でしょう。
こちらはバトル中のBGMではなく、また他のBGMと比べて少し雰囲気が違います。なぜ、「シオカラ節」はこんなに人気なのでしょうか。
この曲のメロディに使われている音階は、ほぼ「ミ♭ソ♭ラ♭シ♭レ♭」 の5音のみ。ピアノの黒鍵で演奏できます。 これは「ペンタトニック・スケール」と言い、民謡やロックにもよく使われている音階。和風、民族風に聴こえ、耳なじみがあるので覚えやすいんです。「シオカラ節」はこの曲を歌うアイドル「シオカラーズ」の出身地方の民謡をアレンジした、という設定なので、この音階を使うことに納得感もあります。こういった和風な趣のあるメロディは、「VOCALOID」や「東方Project」といった二次創作主体のジャンルでも人気がありますね。
この曲はメロディの変化がなめらかで歌いやすいというのも特徴です。また、少々マニアックですが、サビのふた回し目、歌詞は空耳で「ラ ミレ ジュテ」と歌われているところ(上の映像の0:57~)は、メロディは同じものをくり返しながらも「Fm7| EM7 | E♭m| Cm7-5 」という、今までついていたものとは違うひねったハーモニーがアクセントになり 、グッとくるポイントになっています。
○おわりに
今回の執筆にあたって、改めてSplatoonの楽曲を分析してみましたが、音楽だけでもいろいろな楽しみ方ができ、同作の世界をうかがい知ることができるなと思いました。
「名作ゲームに名曲あり」。Splatoonの音楽もまた、そう感じさせてくれます。